65.精鋭『猿撃退と昇進』
何となく思いつきで試したGハーブ入りの餌だが<製作>であっさり作る事ができた。
そして錠剤を嫌がった狼犬達も、餌の方はもりもりと食べていつの間にやら重苦しい空気も幾らか緩和していた。
しかし、今も何体かの狼犬が森の中を行ったり来たりしている事から、まだ猿達の襲撃が終わった訳ではないのだなと言う事は、察している。
「罠を張っても大丈夫ですか?」
この場が戦場になる事を予想して灰毛の狼に聞いてみると、やはりこちらの言葉を理解しているかのように、軽く頷くので、木の切れ目や茂みを中心に罠を仕掛けていく。
今回は敵が沢山来ることを知っている。
つまり今持っているありったけの罠をそこら中に仕掛け、猿達を少しでも削るのが自分の役目だろう。
まずは棘の実で相手の攻めてくるスピードを落として、一体でも多く麻痺矢を当てたいところだ。
何なら毒ガス装置も併用すれば勝手に毒で削れて行く猿も出てくるだろうし、こいつもセットがいい。
強酸も猿にちゃんと効いたし、何とかぶつけていきたい……手元に残ってる〔仕掛け矢〕を全部麻痺矢にして、弓罠で片っ端から射出してもいいか?なんなら自分の手元に糸を引っ張って、手動で発動させてもいいのか。
そう言えば、グレネードも持ってたな。こいつは廃品回収屋で幾らか値の張るモノだけど、この際だ放出しちゃおう。
スキル<設置>の項目を確認すれば〔手榴弾〕を利用したいくつかの罠が表示されていた。
今回はシンプルに糸を切れば爆発する物を仕掛け、猿が引っ掛かるか、自分がナイフスローで発動させれば爆破するようにセットしよう。
広場を罠だらけにすると、狼犬達は器用にすり抜け多分ボス狼がいるであろう奥に入っていく。
ふと灰毛の狼が低く唸り声を上げたかと思うと、奥から数匹の狼犬達が顔を出し、木の上を睨みつける。
自分もクロスボウを構え、麻痺矢をセットし、腰の矢筒に改造ボルトや麻痺矢がどれだけ残っていたか無意識に確認した。
ドスッ……
広場のやや足の長い草叢に木の上から先頭を切って降りてくるのはやはり、大型の戦闘猿だ。
しかしそこは丁度自分の〔弓罠〕の射線上、手元の糸を一本切って発動させると戦闘猿の背中に矢が突き立つ。
〔仕掛け矢〕はダメージ量は低いので戦闘猿は軽くよろめく程度だったのだが、興奮した通常野猿達が、ワラワラと叫びながら降りてきて、次から次へと罠を発動して勝手に混乱を引き起こす。
阿鼻叫喚の様子を狼犬達はどこかしらけた表情で眺めている。
しかし、現状罠だらけの広場で遠距離攻撃を出来るのは自分だけなので、片っ端から猿に〔改造ボルト〕を撃ち込み継続ダメージを与えていくと、一匹また一匹とその場に倒れ戦闘継続できなくなる個体が増えていく。
そこに先程と同様横合いから別の戦闘猿が降り立ったのだが、猿の戦術ってワンパターンなのだろうか?
当然横からも現れるだろうと思って仕掛けておいた罠にあっさりとかかり、リーダーであろう戦闘猿がダメージを追った瞬間に、興奮した部下猿が木から降りてきてそこら中の罠を踏みまくり、結局地獄絵図が展開された。
麻痺でその場に倒れる猿や、毒や酸をくらった状態で棘の実を踏み抜いて動けなくなりそのままHPがなくなる猿などなど、とりあえず片っ端から攻撃して一体でも多く狩り取るのみだ。
そうこうしている内に普通の野猿がかなり数を減らした。
そこへ戦闘猿が更に二体木の上から現れ、広場に降り立ったが、流石に仕掛けられた罠がかなり減って、今回は罠を踏まず、静かに広場の真ん中まで出て来て陣取り、こちらを見下ろしてきた。
身長は自分の方が高い筈なのに、明らかに見下すように顎を上げて下目に見てくる猿達の丁度中間にグレネードが隠されている。
戦闘猿が余裕の表情で、まるで人間がやるように手招きしてきたので、グレネードの罠を発動するべくナイフを投げたら、あっさりグレネードの仕掛け糸を切って、広場の中央が爆発した。
爆発のダメージか、はたまた急な爆発音の所為か、その場に倒れた戦闘猿に追撃の麻痺矢を撃ち込み、行動不能にする。
最初に罠を踏んだ戦闘猿と横合いから出てきた戦闘猿もいつの間にか麻痺にかかって動けなくなっているのだが、まだ敵は出てくるのだろうか?
質問しようと灰毛の狼の方を振り返ると、狼犬達がそろそろと自分の仕掛けた罠を避けて麻痺で動けない猿達にトドメを刺し始めた。
中にはまだ抵抗する猿もいたが多勢無勢、しかも既にどの猿も何がしかのデバフかダメージは追っている状態で、抵抗むなしくあっさり無力化した。
周囲の空気から戦闘は終わったんだろうと罠の回収をはじめるとすぐに灰毛狼に袖を引かれる。
「グォン!」
いつも通り一吠えすると、ウインドウが開かれ向こうから、
〔信頼の牙〕
〔軽量ザック(旧型)〕
〔アオダモ〕
これらに加えてに以前に読めなかったTrust→信用度と経験値を結構な数値貰えた。
それらの品を確認しようとすると、もう一体の灰毛狼が珍しく向こうから近づいてきて一吠え。
「ウォン!」
思ってたより高めの吠え声だなと思っていたら、別のウインドウが現れ了承か拒否かを選択する事になった。
ちなみに英語なので、多分アクセプトって読んだ様な気がする。
えっと……内容は日本語訳がちょっと微妙なので勝手に自分で意訳すると、モンキーリーダーが多分、キカザルの事だろう。
ソイツを皆で倒しに行くから準備が出来たら了承を押せ!みたいな感じだ。
ちなみに受けられる時間は日が落ちてかららしいので、一旦キャンセルし、街に戻って準備が完了次第夜間にここに戻ってくるとしよう。




