61.観察『猿山観察日記』
某日、環境実験区奥、森を隔てる川の先、岩場からほど近い森の中、猿達の行動をつぶさに観察し記録する。
まず今回の獲物である『キカザル』だが、多分岩山の一番上でだらだらしている一際大きな固体だろうと思われる。
その行動パターンは、ひたすらダラダラして、偶に小さな猿から渡される芋やら虫やらを食べているそんな所かな。
正直な所、この火星において虫と言う要素は完全に思考の外にあったのだが、どう見ても猿達は虫としか思えないものを食べている。
そして、その虫は河原の石の裏から採集している物だという事も分かってきた。
何しろ、小さめな猿達がやたら熱心に石をめくるものだから、こっそり自分も安全そうなタイミングでめくってみると、ミミズっぽい細長い虫が見つかった。
アイテムボックスに入れて、その詳細を確認すると釣り餌になる虫だという事が判明し、どうやらこのゲームにも釣り要素があると知った。
とはいえ森の中を流れる川以外、水の要素を見てはいないが、人が生活してるのだから当然必須なんだろう。
そんな事を思いつつ猿山を観察し続けると、どうやら天辺にボスと思われるキカザルこそいるが、何があっても泰然自若としていると言うか、大体四六時中寝てるだけ?本当に周りの事に興味を示さない。
寧ろ、ボス猿であるキカザルより下にいる大型の猿達の方が、敏感と言うか、時折川を渡ってくる犬達に対してすぐ威嚇しているように見えなくもない。
それでも、一番天辺で偉そうにしていると言う事はキカザルがこの山のボスなのだろう。
まぁ、山と言っても石と岩が積み重なって、昔動物園で見たニホンザルの山より少しばかり大きい程度の物なんだけども。
さて、問題はこの猿山をどうやって攻略しつつ、本命のキカザルを倒すかという事だ。
きっちり数は数えてないが、全ての猿を足せば100匹程度はいるだろう。
その大半は体が小さめで、森や河原から餌を採ってくるタイプだし、戦ってもなんとかなりそうな気はする。
何しろ川で虫取りをしていると、川向こうから狼犬がやってきて襲いかかってくるのだが、小さめの猿は、何はともあれ逃げる事を最優先して、狼犬とは戦わない。何なら山から下りてくる他の猿が応戦して、小さい猿を逃がす姿を良く見かけた。
つまり、あの小さめの猿はある意味自分と似た素材集め担当の猿だ。
そうなるとやや大きめの戦闘担当の猿をなんとか制圧しなきゃならない、数えてみれば大体20体程度か。
猿山の外まで入れてしまうと、その数は正直分からないのだが、ここ最近観察する限りでは猿の本拠地である猿山と、その外縁部の森にいる猿は同じ種類でありながら動きに関しては連携していない。
とりあえずここまでの事は、外縁部の森に潜みつつ岩山を観察した結果分かった訳だが、問題はここからどうやって岩山を攻略し、キカザルを倒すのかと言う話になってくる。
何しろ岩山を攻略したければ20体の戦闘猿を倒さねばならないのだが、今の自分の戦力では一匹か二匹麻痺させた所で、群がられて死に戻るだろうという事が容易に想像がつく。
しかし、保安官は自分なら倒せるとも言っていた。よく敵を観察して情報を集めて慌てずにコツコツやればという条件付ではあったが……。
つまり、真っ直ぐ突っ込んじゃ駄目だという事だろ。何か上手く仕掛けをして、ちょっとづつ削ってキカザルを殺るしかない。
もうちょっと観察を続ける……。
|
|
|
数日は森に篭もったか、時折森ではちあう狼犬や猿を<解体>したり、拾えるハーブなんかを薬に替えつつ、敵を観察している内に更に分かった事がある。
と、言うのも岩山の近くに獣をおびき寄せる〔餌〕を仕掛けると、まず小さめの猿がそれを拾いに来る。
ちなみに肉系で作った〔餌〕は狼犬が食べにきてしまうので、時折森の中の猿がドロップする〔土芋〕と言うなんとも言えない塊を使った〔餌〕を使う。
名前は一緒でも見た目は違い、更にアイテムボックス内でも別物として扱われるので、一口に〔罠餌〕と言っても素材によって釣れる敵が違うのかもしれない。
話がそれたが、小さめの猿が拾った〔餌〕はまず確実にキカザルに献上されて、余った分が他の戦闘猿に回される。小さな猿が食べるのはその更に残り物だ。
つまり、大量に〔毒餌〕を設置すれば勝手に猿達は皆いちころじゃないのか?
と言う事で、早速実行!
蜂から集めた毒をまぶした〔毒餌〕を大量に作り、岩山からそう遠くない場所にまとめて仕掛けたところ、案の定と言うかなんと言うか、小さい猿達が集まってきて根こそぎ猿山に持っていく。
すると、まずキカザルが一個食べて苦しみ出す。
その姿を見た猿達がにわかに色めき立って、岩山の周囲で暴れだすので、少し距離を取りつつ観察していると、一定時間苦しんでいたキカザルが平常に戻って、またいつも通り生活し出すと同時に猿達も落ち着いた。
ある意味、HPが一番多いであろう一番大きなキカザルが毒見役なんだなとちょっと感心したものの、計画を練り直さなければならない。




