60.『初めてのイベント』タツ
イベントは割りとあっさり始まった。
受付をした酒場の片隅のテーブルで先輩と話をしていると、酒場の奥の少し床の高くなってる壇上に、きちっとした身なりの男が立つ。
キチッとしたと言っても、昔映画で見た西部劇の保安官のような黒い帽子に黒い三つ揃え、腰にはガンベルトをしたまぁまぁ恰幅のいい男だ。
「さて、駆け出しの名無し共、金を得るチャンスだ。どこの馬の骨とも分からんお前らには過ぎた金を手に入れ、何者かになるチャンスを与えよう。ルールは簡単個人戦、ランダムスタート。最後まで生き残った者の総取りだ。質問は受け付けん!5分後スタートだ」
それだけ言うと急に周囲が暗転し、一人になった。
しかしコレは既に先輩に聞いていた事、動揺せずにまず武器をPSG-1に戻し、弾を確認する。
今イベントに参加するプレイヤー達は皆同じ状況だろう。
この間に自分達の簡単な情報が掲示され、イベント不参加連中が賭けを行うらしい。こんな新人の街すぐ近くじゃ対して大きな金も動かないって事だが、何となくショーの見世物になっているにも関わらず、扱いが低いのに憤りを感じる。
ただ、その憤りも今後のプレイモチベーションに繋がるからと先輩には言われているので、とにかく落ち着く事を心がけ静かに時間が過ぎるのを待つ。
30秒前から目の前にカウントが浮き上がり、数字を減らしていく。
数字が0になると同時にその場に伏せると、ラッキーな事に何やら古びた車の裏だった。
ゆっくり周囲を見渡しても人影はないので、車に体を這わせるように車の向こうを覗き込む。
すると、顔を覗かせたと同時に、
ダダダダダダダッ!!!
ダッダッダッ!!!
と銃声が聞こえてきたのですぐに頭を引っ込めた。
急な銃声に息をするのも忘れ伏せていると、徐々に頭が冷静になり、銃声が思ったより遠いことに気がつく。
どうやら、向こうの方で撃ち合いをしているんだなと見当をつけ、もう一度辺りを見回す。
すると、そこが多分採掘場なのだろうという事が分かった。
何しろ自分が隠れてる車も、その辺に放置されている車も、いかにも工事現場にありそうなブルドーザーやユンボばっかりだ。
この街の背景は先輩から話を聞いているし、ほぼ間違いなかろう。
なんとか落ち着きを取り戻した所で、場所を変えようと中腰のまま走る。
向かった先は、また放置された作業車の裏だが、一応今は目標があって、あえてこの進路をとっているのだ。
今自分が目指しているのは、ちょっと小高くなってる丘と言うにも足りない土を積んだだけの何か。
しかし、スナイパーとしてやはり全体を見渡せる小高い場所に陣取るのは間違いではなかろう。
先輩からの目標はワンキルとは言われてはいるものの、できうる事なら最後まで生き残り、このイベントを勝利で終わりたい。
そんな邪念が悪かったのか、次の車に向おうと腰を上げた瞬間に狙われた。
すぐさま車の陰に戻ると、車に爆ぜる銃弾の音がカンカンカン……と甲高い音をたてる。
そして、何発車に当たったか、急に銃撃が止んだので、そっと顔を出すと、走って隣の車に移動しようとする人影が見えたので、すぐさま撃ち返す。
ダーーン!と妙に伸びやかな音で、一発返すも走ってる相手に当らない。
もう一発撃ち込み、そのまま自分も次の車を目指す。勿論敵に当ってはいない。
確か動く相手に当てるにはSNSが必要だった筈だ。STR、DEXの次は少しくらいSNSに振ってもいいかもしれない。
そんな事を考えつつ、また今度は大きな車輪が特徴的な黄色い作業車の裏に隠れた。
小高い丘はすぐ近くと言う所で、何やら爆発音が聞こえる。誰かがグレネードでも投げつけたのだろうか?
折角STRも高いのだし、そっち方面も悪くはない。
そんな事を考えていると、またさっきの奴がこちらに向って乱射してくる。
しつこい奴だと思いつつ車の下に潜り込み、ゆっくり息を吸ってスコープを覗くと、何度か車の陰から顔を出し、意を決したように立ち上がってこちらに向ってくる姿が見えた。
どうやら武器はアサルトライフルで、防具もまぁまぁ本格的なタクティカルベストに幾つかマガジンをぶら下げた格好だ。
だが、相手は自分の事を随分と甘く見ているのか、真っ直ぐ向ってきている。幾ら動く相手だろうと、徐々に大きくなる的は流石に外さない。
狙い済ました一発で、頭を吹き飛ばす。
車から這い出し、丘?土塁?の上に向かうと、
チャキッ……と耳元で音がして、反射で体が硬直する。
「やっぱり全体を見渡せる高い場所に来る人がいたね。それじゃ、ごめんね?」
タタタタタタ……。
軽い銃声と共に目の前が暗くなり、死んだと分かった。
その後も少しの間だけ音のみ聞こえる。
「ナイスキル!SAKURAちゃん!」
「ひまちゃんも隠れてた奴一人倒したじゃん!このままどっちかが優勝しよう!」
「そうだね!頑張ろ!」
おおい!個人戦じゃなかったんかい!
とは思うものの、確かに戦場じゃ生き残る為にその場限りの同盟だって必要なのかも知れない。




