59.『なんともアウトローっぽい街』タツ
先輩のバギーカーは、深緑色に独特な深い溝の刻まれたタイヤが特徴的な二人乗りの角ばった感じの車だ。
はじめはジープなのかな?って思っていたら、コレはそういうメーカーの車ではなく、ある程度好きにカスタムできる火星用の車で、とりあえずバギーという名で一括りにされてるらしい。
すっかり乗り慣れたコレで、高速リニアの線路沿いをひた走る事どれ位経ったろうか?
少し地味目と言うか、まるで西部開拓時代の悪者共が集まりそうな街に辿り着いた。
そんな街でも公営の駐車場があり、そこに車を預けて街中を抜けていくと、吹き付ける砂塵に汚れた街並みが、独特の緊張感を感じさせる。
新人の街と呼ばれる最初のマスドライバー周辺と違って、なんとも古臭いというか田舎臭いと言うか、レトロではあるものの、それゆえに直接的な暴力が物を言いそうな雰囲気とでも表現したらいいだろうか?
「この街は鉱床に隣接しててな。火星産レアアースを掘る労働者の街だったんだ。だがその鉱床が枯渇して、いつしか荒くれ共の拠点になったって訳だ。まぁ、なんだ……地球政府の御膝元で生きていくには息苦しいが、だからと言って隠遁するにはこの星の環境は厳しすぎる。そんな連中の集まる町さ」
「あ~……つまり半端に暴力的な連中がいっぱいって事っすか?」
「その通りではあるが、あまり大きな声で言うなよ?NPC用AIであっても、メンツってのはあるらしいし、面倒な事になりかねないからな」
「うっす。それで?こんな町に駆け出し連中が本当に集まるんすか?」
「ああ、何しろ序盤で5万クレジットって言ったら大金だろ?基本弾買って、敵倒してドロップ売って、また弾を買うの連続だ。銃の改造まで手を出せたら、割りと順調な方だといっていい」
「5万すか!それだけあったら、まず服を変える?昼夜で寒暖差が激いし、一々変えなくて済む様なそういうやつとか……でも接近用のハンドガンも欲しいかもな……」
「まぁ、皆そう思ってるから、簡単に手に入ると思わない事だな。条件はアンダー20levだ。タツでギリギリ参加できるレベルだな」
「へ~20レベル以下なら誰でも参加できて、勝てば5万クレジットか~!大体5~位で最初のボスですもんね」
「そういう事だな。ある程度下調べの済んでる駆け出しなら、まずこのイベントには参加するだろうな。更に参加賞で経験値が入る事で、強制的にレベルが23まで上がる。マンネリ化してたところに丁度いい話だろ?」
「つまり一回しか参加できない代わりに、ショートカットになるんすね?レベル23か……ステータスの振り方次第じゃ、次のスキルも手に入るか……」
「何か目ぼしいスキルでもあったのか?」
「やっぱりスナイパーなら<望遠>か<暗視>が欲しいじゃないっすか!あまり攻撃的になりすぎると狙われるから、監視役になる事が多いんすよね?」
「まぁ、そりゃセオリーだがな。でも新人の街で会ったエウリュアレなんかは、スナイパーにもかかわらず見通しのいい地形より、複雑な地形の方が得意だし、セオリー通りが必ずしも良いとは限らないぞ。変に攻略のビルドにこだわらないで、思いつくままやってみろ。もしそれで穴が出来たら埋めてやるから」
「え~……でも早く先輩のTEAMに参加したいっすよ」
「そりゃまだまだ無理だ。それよりも尖った個性のスナイパーに育ってくれよ。その方が面白い」
巨漢にオレンジのモヒカンの先輩がニヤつくとなんとも迫力あるが、しかし尖った個性のスナイパーね~……。
遠くから敵を監視して味方に情報を伝えつつ、チャンスを見て敵戦力減らしたり、味方の防衛の為に力を尽くす以外何やるんだか?
今後もSTRとDEXは優先だし、何か投げたりとかはもしかしたら向いてるかもしれない?接近戦はVITが低いからお断りだしな~……DEXって事は生産系も悪くはないのか?何を作った物かなぁ。
ふと、すれ違った赤茶の髭もじゃのおっさんが目に入る。
「何か、アレ……両方尖ってる丸いやつ持ってましたけど、アレってアレっすよね?」
「ああ、つるはしの事か?鉱床が枯渇したとは言え、それは機械で大規模に掘り出すほどじゃないって話で、小遣い稼ぎ程度なら今もちゃんと出てくるし、新人の街のマスドライバーまで持っていけば、そこそこにはなるぞ」
コレは、いい事聞いたぞ!何か作る迄行くとちょっと面倒だけど、素材を売ってお金になるなら悪くはない。
結局資金繰りとレベル上げのバランスをどう取るかが今の課題だし、いつまでも先輩の世話になっていては申し訳ない。
稼ぎの少ないスナイパーの金策と考えれば、鉱夫ってのも有りかもしれない!何しろ地球は資源が欲しくて火星にプレイヤーを送り込んだわけだよな?今後も火星の資源を集めて売ることを考えれば、一番効率がいいんじゃないか?
自分なりの最効率を思いついた所で、一軒のぼろい木造の建物に入って行く先輩。
慌てて後ろをついて行くと、そこには既にプレイヤーらしき姿がチラホラ。
ただ、どいつもこいつも見せびらかすように己のメインウエポンを提げている。
自分は先輩の教訓に従いスナイパーライフルはアイテムボックスに隠し、M1ガーランドを主武器のように見せかけている。
もしかしたら、自分同様にメインウエポンを誤認させようって奴もいるかもしれないが、さりとてアンダー20levの環境だ。どんなイベントになるか?
小汚い木造りの酒場?風の建物で参加受付を済ませる。




