表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/187

58.『イベントのお誘い』タツ

 敵が止まるのを待ち、スコープの中央に合わせて撃つ。


 軽い反動と聞き慣れた発砲音、そしてスコープの中に写る敵に着弾しそのままぐらついて倒れる動作。


 荒野のドローンを倒し続けて随分と経った気がする。


 正直同じ事の繰り返しすぎて、目の前で起こる事すべてが予想の範疇を越えなくなってきた気もするが、それでも今が踏ん張りどころ。


 RPGである以上、いつかどこかでレベル上げに専念するときが来る。


 スナイパー職はそれが早い時期で来るってだけだし、それは先輩に最初に言われていた事だ。


 長射程のスナイパーライフルはそれだけで大きなアドバンテージを持つ代わりに、要求されるステータスが多い。


 特にSTRに関しては絶対必要な為、序盤はひたすら装備に必要なSTRと当てるのに必要なDEXを上げ続ける事になる。


 正直な所、現時点で動き回るプレイヤーに当てる自信は全くといって、無いので視界にプレイヤーらしき痕跡が見えようものならじっと潜伏するか、さっさと街に逃げ帰るかの2択である。


 PK上等のゲームを始めたにしては情けない事この上ないが、逆に今の下積みがいつか狩る側に回るのに必要な時間だと思う他ない。と言うか先輩にいつもなだめられる。


 勿論先輩に言われたから嫌々やってるとかそういう事じゃない。


 ちゃんと先輩の説明を聞いた上で、スナイパーを選んだ。


 一応人気ビルドと言うものはある。


 一位はアサルトライフル装備で、STRとVITに多めに振る突撃兵タイプって奴だ。多少の被弾は覚悟でとにかく撃ち合えるって事で、そこらにPOPする敵性のドローンやら野生動物を狩るにもよし、対人戦もよしとバランスがいい上に爽快感もあるので、人気が有るとか。


 二位はサブマシンガン装備で、AGI振りの偵察兵と呼ばれるビルドだったと思う。武器に要求されるSTRが低い分、ステータス振りに自由度があってカスタマイズのバリエーションが多いのが人気の秘訣らしい。偵察と言う名の通りSNSに振って索敵重視したり、AGIとVITでひたすら敵陣に突っ込んだり、射程が短い分敵の懐に飛び込まなくてはならないが、逆に敵に当てる為のDEXなんかは低めでも何とかなってしまうので、気の短い連中には特に人気とか。


 三位はPDW装備で、回復系スキル持ちの所謂ヒーラーだ。野良でも固定パーティでも一人は欲しいと言われていて、引く手数多であり、戦闘がそこまで得意でなくても守ってもらえるし、何なら最前線よりちょっと下がった位置での待機が多いので、キルされる確率も低い。FPS苦手だが興味はある勢にはお奨めのビルドだ。


 そして肝心のスナイパーだが、一人いればTEAMが安定すると言われるほど重要ビルドでありながら、その人口は少ない。


 何しろ成長過程が面倒くさすぎるのが、第一。強すぎる所為で対策されていて、いざとなればいの一番に狙われるというのが第二。そして詰め寄られると非常に弱いのが第三と言われてる。


 広範囲を攻撃する能力と監視し牽制する能力は脅威そのものらしいのだが、スナイパーが射線を確保するのに陣取る場所がかなり研究され尽くされている昨今では、無為な攻撃は避けてひたすら監視要員として扱われる事が多いとか。


 それでもゲーム内大手のクランに在籍する先輩はTEAMにスナイパーが欲しいと言っていた。


 今はスナイパーなしのTEAM構成で普段は動いており、必要な時は同じクランの別TEAMから借りてくるとか。


 それでも大手クランのメンバーなので十分強いスナイパーが派遣されてくるものの、気心知れたTEAMメンバーとオリジナルの作戦を実行したい先輩には色々と不満があるらしい。


 それなら自分がと手を挙げ、ずっと期待してもらえる事でモチベーションを保っていたのだが、つい欠伸が出てしまう。


 ゲーム内にも関わらず生理現象とは不思議な物だが、出てしまったものは仕方がない。


 ひたすら隠れ忍び潜伏して待つ。ちょっと退屈すぎて困った。


 「少し気持ちがだれてきたなら、街に戻るか?」


 先輩に声をかけられ、反射でビクッと体が反応する。隠してこっそり欠伸をしたつもりだったのだが、あっさりばれてしまった。


 「いや、大丈夫っす!さっさとレベル上げしないといけないんで!」


 先輩の気遣いに気が引き締まり、再びスコープを覗くが敵の姿が全く見えない。


 「そうだな。今が踏ん張り度頃なのは間違いないが、モチベが下がるのも当然だろう……」


 それは自分みたいな駆け出しもいいところのプレイヤーに付き合ってる先輩の方じゃないだろうか?


 本来もっと高難度のフィールドで敵と撃ち合っている筈なのに、しょっちゅう自分に付き合ってくれている。


 申し訳ない気持ちに歯噛みする。


 「そう、無理しなくていい。たまには目先を変えるのもいいだろう。ちょっとした駆け出し用イベントが有るし参加してみるか?」


 どうやら自分の歯噛みを別の意味で捉えられてしまったようだが、それよりイベントというのが気になる。


 「イベントっすか?」


 「ああ、大会と言うには小規模だがそもそもこのゲームはゲーム自体が対人戦を推奨してるだろ?だからプレイヤー同士で撃ち合うイベントってのがそこら中であるんだわ。レベル制限や武器制限、ステータス制限もろもろある程度限定条件下での戦いだな。現時点でスナイパーの新人が勝てる可能性は限りなく低いが、一人でもキル出来れば上出来って事で、俺からちょっとしたプレゼントも用意してやろう。もしワンキルすら出来なくてもペナルティは無い」


 「え?まじっすか?そりゃやりたいっすけど!でも、スナイパーってやっぱりきついんすかね?」


 「まぁ、相手も新人だし上手くはまればそれなりにってとこか?だが、STRとDEXだけの新人スナイパーがきついのは間違いないだろう」


 合法的な対人戦!前のうっかりミスみたいなのと違い、恨まれる事もないだろう。ここは一つ頑張り所か?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ