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57.三猿『猿山の猿は他人の言う事を聞かないらしい』

 「イヤーマフ……かー……」


 今覚えたばかりの言葉をつい声に出してしまう。


 確かに今すれ違った人も耳に青い小ぶりのヘッドホンを着けていた。


 余計な音を防いで、銃を撃ってもキーンってならない様にする装備とか、誰が考えたんだろう?


 何かもう、発想力が天才でしかない!あえて音を聞かないって!誰が考えるのか?到底常人の考えじゃないな……よっぽど特殊な環境?例えば、空港で生まれ育ったとか?確か飛行機の飛ぶ音はかなり大きかった筈。


 自分も家の近くに飛行場こそ無かったものの車の通る道の下や、高架線の下はうるさいと聞いて、行ってみた事もあるが、イヤーマフに辿り着く事はなかったな~。


そんな事を考えつつ向かったのは廃品回収屋だ。


 廃品回収屋は金属部品やドローンのドロップを持っていくと幾らかお金になり、更に持っていった部品に応じてちょっとづつ店先に並ぶ品が増えるリサイクル屋さんだが、多分イヤーマフと言うのはこちらで手に入るんじゃないのかな?と思う。


 と言うのも自分の装備品、特に防具だが殆どが皮毛骨肉店で動物の素材と交換で手に入る物だ。


 ただ、空調服のファンとかそういった機械部品のみは、廃品回収屋で手に入れている。


 そしてイヤーマフは見るからに機械っぽい?ただ問題があるとすれば若干見た目が金属と言うよりはプラスチックっぽい。


 プラスチックって、石油だった筈?だとしたら火星に石油はあるのかな?あれ?でもこの前のゴーグルってプラスチックじゃ……ガラスかもしれないか。


 そんな事を考えていたら、いつも通りの怪しい裏道にある廃品回収屋さんに着いた。


 「こんにちは」


 「ああ、何か用か?」


 相変わらず気難しげでぶっきらぼうな感じだが、火星の裏道の人は大体こんな感じなので、気にしない。


 寧ろこちらから何か聞くと必要ないことまで懇切丁寧に教えてくれるのだから、出来るだけ普段から何かあれば聞いていったほうがいい。


 「イヤーマフが欲しいんですけど、必要な素材ってなんですかね?」


 「ふむ……確かにうちでも取り扱いはあるけど、持ってくる材料次第か。結構色々と必要になるね……工場の奥の坑道に、荒野のドローンも<解体>しないと駄目か……あとは~~」


 「結構複雑な装備なんですね」


 「まぁ、ここで手に入れるにはちょっと面倒かもな。ただ一個おススメもなくはない」


 「おススメですか?」


 「ああ、ここで手に入る物じゃないんで、商売上あまり言わない方がいいんだろけど、お得意さんだからね。こっそり教えてあげる」


 「そうなんですか?どこで手に入るんでしょう?」


 「森の奥さ。川を渡って向こう岸が猿の縄張りだろ?」


 「はい、確かにそうですね。今は中間の川付近で犬と猿が喧嘩してるのを横から倒してますけど」


 「なる程!その川向こうの更に奥はゴツゴツとした岩場になってるのは知ってる?」


 「遠目から見る程度ですけど、山みたいになってましたね」


 「そこが猿達の巣さ。そこに居るボス猿が、イヤーマフを持ってるって話だよ」


 「そうなんですか!じゃあそいつを倒せば手に入る?」


 「多分ね。あとは保安官に聞きな。他人に仕事を割り振るのは保安官の役目さ。勝手なことをすれば越権行為になるし、仮に君の実力が不足していて、死地に送り込むことになったとしても、責任は取れないからね」

 

 「分かりました!保安官に許可を取ってから猿の巣に行ってみます!」


 そう言って、店先にあったチャフと普通のグレネード?手投げ爆弾を買って店を出た。


 自分の勘が当った事で、かなりこのゲームにも慣れてきたなと実感して、足取り軽く保安官事務所へ。


 「よう。今日はどうした?街の連中から森の素材を集めていると聞いたぞ?今更こんな所に用もないだろう」


 「猿のボスを倒してイヤーマフを手に入れたいんですけど」


 「……ほう……誰に聞いたか知らんが勇み足で勝手に行かなかった事だけは褒めてやろう。何しろお前みたいなおしめが取れたばかりの駆け出しってのが一番そこらでくたばりやすい。油断せずに十分に情報を集めてから動くってのは悪い事じゃない」


 「ありがとうございます。それで、猿のボスは倒せそうですか?」


 「そう、答えを急くな。そう言う所がすぐ死ぬ所以だぞ。何事もやり方次第だ。例えばお前一人正面から向かった所で、一匹二匹猿を殺った所で群がられて終わりだ。ならばどうするか?」


 「人をたくさん連れて行く?」


 「ソレは一つの方法だな。悪い手段じゃない。人はいつも結局一人じゃ生きて行けないし、何か大きな事をするには多くの人を動かせるようじゃなきゃな。それで、お前にそれだけの人望はあるのか?」


 「ありません」


 「じゃあ、他の方法だな。別に無理とは言わん。寧ろ今の実力なら十分行けるだろう。ただしどこまでも慎重に丁寧によく情報を集めて、慌てずコツコツやればだが?」


 「分かりました。まずは猿の巣まで潜り込んで、探ってきます」


 「そう、それでいい。ちなみにその猿の巣は通称猿山って呼ばれてる。この街から続く森の奥に住むボス猿の名前は『聞か猿』って言ってな……」


 「オシャレでイヤーマフを装備してるって事ですか?」


 「いや、着飾るじゃねぇ!他人の話を聞かないって事さ。まぁくれぐれも慎重にな」


 軽く手で追い払われたので、話はここまでって事だろう。


 潜伏して情報集め、やっぱりこういうゲームだったんだな……。

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