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56.盲点『あえて音を聞かないという選択に撃ちぬかれる』

 静かになった森で、狼犬や野猿を狩って素材を得つつ、そこらの光るポイントで諸々森の素材を拾い集める。


 元の自給自足ののんびりプレイにホッと一息ついて、街へと戻りいらないものは処分して幾ばくかのお金に換え、しれっと森で手に入るようになった〔Pハーブ〕(紫の草)や〔Yハーブ〕(黄色い草)を薬へと変える事で〔錠剤(解毒)〕や〔錠剤(解痺)〕なんかの消耗品も<調合>しておく。


 更に、環境実験区のボスよりは幾分か弱いが、素材性能としては申し分ないホオノキの敵が出てくるポイントを見つけた。


 コレにより大量!!!……とはいかないものの多少の素材供給の目処が立ったため、武器類の見直しをはかっている。


 クロスボウやディテクティブスペシャルは言わずもがな<解体><製作>用のナイフの柄を木製に変える事で、更にステータスにバフが掛かった。


 正直な所、単純な武器の威力にあまり期待できない以上、こうやってステータス補助を掛けて少しづつでも戦いやすくマシな状態にしていく他、今の自分が強くなる方法が見当たらない。


 そんなある日の事、特に用がある訳でもないが、ゲーム内にコレと言って知り合いが多いわけでもなく、ちょっと喋りたい気分で新人に優しい店を訪ねた。


 なんと言うのだろうか?普段からNPCのいる施設には顔を出しているが、当面目標もなくちょっとした中だるみ?コツコツ積み重ねるしかない経験値稼ぎ期間に入って、少し余裕ができ、先行プレイヤーの話を聞いてみたくなった。そんな感じ?


 「こんにちは~……」


 「おっ!ラビ来たか!何か最近顔出さないから、何かあったかと思ったぜ」


 「いや、何があったって訳でもないんですけど、コツコツ自給自足してただけなんで……」


 「そうかそうか!それよりアレだってな!エウリュアレの事、殺っちまったんだってな!」


 コットさんがいきなり打ち込んできた言葉に思わず、体が強張ってしまう。そこに店の奥からジョンさんも現れた。


 「お!来たな。知らない内にupsetかましやがって」


 「あ、アップ?」


 「ジャイアントキリングだって!エウリュアレはステンの妹分だぞ?何だかんだ、それなりの猛者なんだからよ」

 

 「なんだ?エウリュと話したりはしてないのか?」


 「え、いや……借りは返すとだけ……」


 「「……(え?やばくね?怒ってんじゃん?)(しれっとそう言う所が怖いんだよ)」」


 「あの?」


 「ああ、いや、そうか……コレは二人の因縁だもんな。俺達がとやかくいう事じゃないや。それで?今日は何かあったのか?まぁ何も無くても店が開いてれば来てもらって構わないけどな。何だかんだちょっとした相談から雑談まで楽しめるのが、この新人に優しい店だしさ」


 「そうだな、別に用が無くたって、顔を見ればまだゲーム続けてるんだなって分かるしな。武器防具も少し変わってるって事は、一応順調ではあるんだろ?」


 「はい、お陰さまで何とかやれてます。今は森で犬と猿狩って、経験値稼いでます」


 「……犬猿か……もうちょい難易度上げてもいいんじゃないか?装備も新調したんだろ?自給自足で困ってないなら、いよいよ銃の購入を考えるべきだろ」


 コットさんは事あるごとに銃を勧めてくるが、今の所そこまで困ってはいない。そりゃ折角のFPSだし憧れはあるが、戦えないって程でもない。


 「俺は好きにすればいいと思うぞ。ただ、エウリュもそろそろ銃使わないと厳しいとは言ってたけどな」


 「何でですか?」


 「そりゃよ!簡潔に攻撃力だな。戦い方は好きにすればいいけどよ。敵を殺れなきゃ、どうにもならないじゃんか?勿論ガンスミスになるってんなら、生産で経験値稼いでもいいけど、エウリュアレと事構えるくらいだし、戦闘中心でこれからもやってくんだろ?だったら銃使わなきゃ詰むぞ?」


 「おい、コット!ラビをそう追い込むなって!ラビにはラビなりの美学や考えがあるからこそ、エウリュと殺り合えたんだろ?いつも言ってるがディテクティブスペシャルの美学ってのは……」


 二人の言い争いがヒートアップしそうなのだが、本当の事を言うべきか迷ってしまう。


 幾ら新人に優しいとは言え、FPSで銃を撃てないプレイヤーにガンスミスが構う必要があるのか?


 いや、二人共何だかんだと相手にしてくれるし、見捨てられる事はないんだろうが……。


 「銃、撃てないんです」


 「「は?」」


 「あの……音が大きすぎて銃撃てないんです」


 言ってしまった。このゲームをプレイするに当って最大の欠陥とも言うべき、自分の弱点を晒してしまった。


 「それはどういう状況でだ?音だろ?引き金引けないとか、過去にリアルで人撃ってトラウマがあるとかじゃないんだよな?」


 「幾らなんでも、ラビがそんな事する訳なくないか?ミステリ見すぎだろ……」


 「い、いやゲームで初めて銃撃ちましたけど、試射場とか下水路とかで撃つと耳がキーンてなって、動けないんです」


 「あ、ああ……先にそれ言えよ……」


 コットさんの呆れ返った反応に、心が冷たくなっていく。やっぱり見捨てられるのか?


 「室内ならそういう奴も少なくないぞ?イヤーマフ装備すりゃいいじゃないか」


 「イヤーマフ?」


 「アレだよ。街中でデカイ耳当てとか、耳栓して歩いてる奴いるだろうが?」


 確かにそういう人はよく見かける。何なら試射場のNPCも首に大きな赤いヘッドホンを掛けていた。


 「結構な頻度で耳に何か着けてる奴いるのに、何だと思ってたんだ?」


 「音楽聞いてるのかと……」


 「え?なんで?」


 「確かにそう見えなくもないのか?一応普通に現実でも市販されてる物なんだがな。要は不快な音とか、そういうのを減音してくれる装備さ。最低限のものなら別にさして高い物でもない」


 ……目から鱗とはこの事か!あえて日常のいらない音を消すなんて考えもしなかった!


 聞こう聞こうとするあまり、聞かなくてもいい事まで聞いて嫌な思いをするより、本当に必要な音だけ聞いて生きる事のなんて潔くて清廉な考え方なんだろう!


 「イヤーマフ手に入れてきます!」


 目の前がパッと明るくなり、店を飛び出した。


 「なぁ、本当に相棒にするのか?」


 「え?ラビ以外に誰を相棒にするんだ?」

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