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53.『青森殺人事件-衝撃-』コットの事件簿

 「あれは、只者じゃないね?」


 ぐったりと、店の片隅に据え付けた椅子に腰掛けて、語り始めるエウリュアレ。


 上級プレイヤーがこんな最初も最初の街で消耗するなんて中々考えられない事ではあるのだが、それでも目の前の状況を見れば嘘や演技とは到底思えない。


 そもそも、こんな所で嘘をついたり演技をしたりする必要がないとも言える。


 そんな疲れきった所に申し訳ないが、自分の推理ミスを説明せねばならない。


 「あの……大変心苦しくはあるんだが、どうやら相手はタツじゃなかったらしい」


 窺う様にエウリュアレを見ると、ぐったり前屈みになり、垂れた長い髪の隙間からギラリと目が光るのが分かった。


 「どういう事?」


 「あの~状況的にだな……タツはまだ環境実験区の奥の森に行けなかったみたいなんだ。いや勿論、カラクリやトリックがないとも言い切れない段階なんだが、タツの線はかなり薄くなったのも否定できない」


 「そう……それでか……」


 「何だ?そっちでも新たな情報が手に入ったのか?」


 「いえ、ただスナイパーにしては射線の通らない場所をひたすら移動してくるものだから、こちらも撃つに撃てなくて、ずっと削られ続けたって言う話」


 なる程それで随分と疲れた様子なのか。


 確かにスナイパーは一発に掛ける精神的負担が大きいらしいし、睨み合い状態を維持するのも中々に大変だろう。


 しかしそれは、スナイパーに狙われる方も同じ筈?


 それとも、そんな事では削られない様な相当に図太い相手なのか?


 いや、だとしたら、いっそVITかAGIに任せて突っ込んでいった方が勝算も高そうなのだが、あえての森中の睨み合いを選ぶ殺人鬼!


 「あれだな……敵はまるで化け物みたいだな。森での活動を得意とするスナイパー相手に息を潜めながらじりじりと距離を詰めていく……」


 「化け物?確かにそうなのかも?だってこっちは三発も撃ってるのに、向こうは一晩中一発も撃たずに、ただただちょっとづつ距離を詰めてくるだけ……牽制すらしないで……何を考えてるのか、さっぱり読めないかも?」


 一晩掛けて一射もなしだと?確かに今回の犯人は普通じゃない。


 度を越した執拗さに慎重さを兼ね備え、攻撃手段も定かではない……音が聞こえないという時点で、遠距離攻撃に違いないと思ってはいるが、それであれば射程距離が噛み合う筈だし、もうちょっと撃ち合ってもいい筈?


 この時灰色の頭脳に電撃が走る!


 「そうか!そういう事か!」


 「犯人が分かったの?!」


 「いや、分かんないけども……エウリュアレを殺った手段が分かっちまったかも知れん!」


 「え?でも遠距離攻撃でもなきゃ、全く無音で相手を攻撃できる筈ないんじゃ?」


 「いやそんな事無いぞ!確かエウリュアレが殺られた時、目が見えなかったって言ったよな?」


 「う、うん……ゴーグル外した所を狙われて、目を潰されたけど?」


 「つまり、犯人がどこから狙ってきたのかは分からない。しかも後ろだったり横だったりから攻撃されたんだよな?」


 「そう……だね?」


 「と、言う事は……犯人は近くにいた!」


 「え?どういう事?近くで発砲したら幾らサプレッサーがあったって……」


 エウリュアレの疑問に、軽く人差し指を振ることで応える。


 「犯人は近接武器使いだ。よく考えてもみろ?遠距離から攻撃する場合、どうやって色んな角度から攻撃できるんだ?後ろから横へ周るのに、どれだけの時間がかかる?」


 「はっ!確かに!そうか~……銃を使うのが当たり前だと思って忘れてたけど、一応コンバットナイフとかタクティカルアックスとかあるものね……生産職用の素材集めの装備だと思い込んでた」


 「確かに好き好んでそんな武器で戦う奴はよっぽどの縛りプレイか、特殊なクエストでも受けてないと中々いない。だが全くいない訳でもない。新人の中にそんなおかしなプレイヤーがいるなんて俺も想像してなかったからなぁ」


 「普通はサブマシンガンとかライフルから始めるものね?」


 「ああ、初期のステータスで扱えて尚且つ威力も安定するとなるとその辺なんだが、変わり者もいるしな」


 「へ~例えばどんな?」


 「はっ!そりゃぁ……」


 その時、冷や汗と共に灰色の頭脳に電撃が走りまくり、クラクラと立ち眩みを起こす。


 「ど、どうしたの?大丈夫?」


 エウリュアレに心配されているのを認識しながら、同時に口が尋常じゃなく乾き言葉を発する事が出来ない。


 だって、無音攻撃の新人って言ったら……。


 自分が不用意に与えてしまった武器で、暗殺者を生み出してしまったと急速に理解してしまった。


 そこに丁度ログインしたジョンが店先に顔を見せた。


 「ジョ、ジョン……この事件もしかしたら……」


 「何だ?まだやってたのか?多分犯人はラビだろ?」


 ガーーン……と鈍器で頭を殴られた気分だ。まさかとは思ったが、こんなにはっきりと断言されるなんて……。


 「どういう事?誰なの?」


 「あ、ああ……そりゃあ……」


 「期待の新人って所だな。アイツの事だから多分悪気があった訳じゃなかろうが、ちっと本気で揉んでやってくれ。いざって時は俺が間に入るから、上級の腕を教えてやってくれよ」


 「いいの?本当に本気で殺るけど?」


 「おう!それで戦況はどんな感じなんだ?」


 「別に?私は三発撃って、向こうはまだ一発も撃たずにただ近づいてくるだけ」


 「ほぅ……それじゃ油断はしない方がいいな。もう、三発分も情報を与えちまったんだろ?折角だし俺達はお前さんの情報をラビには渡さない」


 「その代わり、私にもその新人さんの情報は渡さない?」


 「お互い名前だけ知ってる。これで公平だろ?結果を楽しみにしてるぜ」


 「分かった。二人の事は信用してるし、結果は報告に来るわ」


 そう言うとエウリュアレは立ち去ったが、自分だけは腰が抜け、近くの椅子に座り込むのがやっとだった。

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