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52.緊張『これがFPSかと理解する』

 現状撃たれたのはたったの3発、どれもゾクッとする感覚に従いすぐに伏せて何とか回避できたが、どれも紙一重と言って差し支えないタイミングだった。


 ちょっとでも茂みから頭を出せば、狙われ撃たれる。しかもそれなりに遠い距離から狙われている事も分かった。


 なんと表現したら適切なのか……銃にしてはややチープと言うか乾いた感じの音がするとほぼ同時に、近くの木に弾が掠り、カンッと音をたてる。


 正直随分間の抜けた音のような気もしたが、前にうっかりPKしてしまった時に拾ったドロップ品から、その音の正体が分かった。


 拾った円筒の名前が〔抑音器〕となっており、つまり遠距離から更に音を小さくする事で、居場所を気づかれにくくしているという事なのだろう。


 偶然自分が<聞耳>を取得しているので、多少遠方の発射音も聞こえたが、もしかするとスキルを取得していないプレイヤーには聞き取れないレベルかもしれない。


 偶々の噛み合わせと言うか、その発射音を捉えて以降、相手の移動する音を追って、隠れられる位置取りを必死に探して進む。


 ある程度すると、相手は動きを止めて何やらカリカリと音を立てるが、これのお陰で自分が相手の位置をちゃんと把握できていると、確信を得る事が出来て一瞬ほっとしなくもない。


 あとは、どうやって近づいて謝るか、それが問題だ。


 相手に気がつかれない様にこっそり、ひっそり進んでいるつもりが、何故かすぐに見つかってしまう。


 星と月が出てるとは言え、暗い事には変わらない森の中、茂みを移動する自分をどうやって捕捉しているのか?


 もしかして、自分と同じ<聞耳>使いか?とも思わなくもないが、正直な所自分はこの暗さで音だけを頼りに攻撃をあてられる自信は今の所ない。


 もし、今後もっとレベルが上がってスキルも取得できる用になれば、可能なのかもしれないが、音だけで狙っているにしては正確すぎるよな~?


 フルオートである程度の目安でばら撒いてるならともかく、遠距離から一発で射抜いてきてるもんな……。


 暗い中でも、視界を遮る物がたくさんあっても見通せるような、透視能力でもないと無理なんじゃないの?って気もするが、だとしたら茂みの陰に隠れてても狙われてる筈だしな?


 何とか少しづつ近づいている気はする。そしてそれは何故か向こうもだ。


 じりじりと距離を詰めているのだが、お互い本当にじりじりなので、今夜中には出会えないかもしれない。


 気持ちが焦るが、しかし撃たれたらいい訳のしようもないし、今はコレでいくしかない。


 画面越しでのFPSは自分もやった事があるが、あれはある意味非現実的で、とにかく撃たれてもガンガン前に出て撃ち返せばいい。


 勿論、ゲームによってバリアだったりHPだったり色んな要素は絡むが、別に画面越しなら痛くもなんともない。


 死んだら悔しいというそれくらいだ。なんなら対戦相手次第で悔しいという気持ちも生まれないかもしれない。


 ところが、これがフルダイブVRになったら、これが仮想現実と分かっていても、現実の延長線上になった。


 撃たれれば、多少なり痛覚はあるし、狙われてる事への緊張感も現実とそう変わらないんじゃないか?


 撃たれても死なないゲームとして死に戻るだけ。それを分かっていても死への忌避感を強く感じる。


 そうなれば、下手な無駄撃ちも出来ないし、とにかく息を詰めて、静かにカタツムリの如く這って歩みを進めるしかない。


 本格的に自分がフルダイブVRでFPSを始めたんだと自覚が芽生えた気がする。


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 -サイレントキラー視点-


 果たしてどうにも慎重すぎる。


 こちらが既に3発撃ったというのに、まだ向こうは一発も返してこない。


 もしかしたら夜間戦闘が苦手という事も考えられるが、それならわざわざ夜間にこの森に来る必要はない筈。


 何しろ私がここで待っていると宣言したのだから、居ると分かってて来たのだろう。


 そして一発撃った後、逃げるそぶりも見せない。何なら近づいてきている。もし戦う気がないならさっさと街に戻ればいいものをわざわざ近づいて来ているという事は、つまり戦る気はあるという事だ。


 だが、まだ一発も撃ち返して来ていない。息が詰まる。


 やっぱりただの新人じゃない。まだ狙いは見えてこないが、完全にこちらを獲りに来ているとそう判断していいだろう。


 コットの店で会った時は少し焦っていたようにも見えたが、唐突に私が居たからか、もしくは銃を持つと性格が変わるタイプなのか?


 分からない。


 そして、私の位置をどうやって把握しているのかも不明だ。


 一発撃つたびにポイントを変えている筈なのだが、いつの間にか向こうも移動し、絶妙に狙いづらい位置からこちらに近づいて来ている。


 スナイパー同士、私から狙いづらければ、向こうからも狙いづらい筈なのに……やっぱり狙いが分からない。


 だが、夜もそろそろ明ける。一日の連続ログイン時間が過ぎる前に、街へと帰還するとしよう。


 背中に気をつけ、一気に街まで駆ける。

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