49.牽制『狩人と罠師の本気のやり取りであり殺されない為の一歩』
あくる日、身の回りの事を全て完全に終えてログインする。
自分がこれからやるべきは、緑の人エウリュアレさんに素直に謝る事だが、しかしそう簡単に行かない事も十分承知している。
何しろ自分自身がそうだったから……。
きっと今では復讐の炎に心を焦がし自分を待ち構えているだろう事に疑念を挟む余地はない。
そう、PKとは謝れば済むという範疇を越えた行いである。
それでもやってしまったのだから、どこかで落とし前はつけねばなるまい。
何度深呼吸しても整わない心に焦りを覚えながら、環境実験区画の先の森へと向った。
丁度その時時間は夜だったものの、そろそろ夜間行動にも慣れねばと、敢えて突入する。
話に聞いていた通り、夜は昼とうって変わって非常に寒く、毛皮系の装備でないと到底耐えられそうもない。
なんなら帽子の耳当ても下ろして、耳当ての先の紐を首の下に通すと、とても温かい。
そんな、ちょっとどうでもいい発見と共に、慎重に草叢に隠れながら、森を進む。
ん~夜間はやっぱり視界が悪い?空を見上げると少し小さい気もするが、月?が出ている。更には1等星にしては妙に大きく光り輝く星もある。
だがそれらの明かりのお陰か、不思議と自分でも周囲の様子が窺えるのはありがたい。
ふと、犬の気配というか、荒い吐息が聞こえて身を伏せるとそこら中を嗅ぎ回りながら徐々に近づいてくる一匹の少し大きめの狼犬。
クロスボウに麻痺用の改造矢ボルトをつがえて、ゆっくりと狙う。
一瞬草叢に顔を近づけ動きが止まったと思った所に矢を打ち込むと、そのまま横倒しに倒れた。
すぐさま静かに近寄り〔改造ボルト〕を何発か打ち込み倒しきり<解体>すると〔夜狼の毛皮〕〔夜狼の牙〕〔夜狼の爪〕が複数個手に入った。
どうやら、少し大きいと感じたのは勘違いではなく昼とはまた別種の狼犬がうろついていたらしい。
そして、その後も慎重に狩りをしながら歩を進め、境界線の川原に着くと昼には光っていなかった花が見受けられる。
とりあえず、光っているならと集めたら〔月綿花〕と言う、綿のような花が手に入った。
よく見ると、川原に沿うように点々と生えているようなので、今度はそれを集めつつ川の上流に向う。
どれ位経ったろうか?油断をしたつもりは全くなかったのだが、ふと昼に感じた気持ち悪い気配に、すぐさま草叢へと飛び込む。
すると、カンッ!と乾いた音が聞こえた気がする。
なんとなく、本当に何となくだが、どこからともなく撃たれたか?
しかし、発砲音のような物は全く聞こえなかった気がするが?
兎にも角にも草や木の濃い方へと向わねば勝負にならない。
いや、勝とうという気がある訳じゃないが、ただやられて謝る機会すらないのはごめんだ。
匍匐前進で慎重に逃げて、ここと思える場所で、罠を仕掛けた。
……そのまま伏せて相手を待つが、一向に現れない?
何でだろう?とちょっと顔を出してみると、なんだろうか?明らかに人工的なカリカリカリっと言う音を捉えた。
すぐさま草叢に隠れ、また移動する。
さっきのは一体なんだったのだろうか?ペットボトルを開けるような音にも聞こえたし、でもそれにしては一定と言うか、何かのダイヤルを回していた音にも聞こえた。
兎にも角にも伏せ隠れ、慎重に耳を傾け、神経を研ぎ澄ませる。緑の人を見つけるまでは……。
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-サイレントキラー視点-
青の森に伏せてどれ位経ったろうか?
いつの間にか夜になり、空にはフォボスとダイモスが灯り始めた。
夜間の酷冷時間に合わせて空調服を切り替えると、あっという間に暖気が体を包む。
何しろ寒暖差の激しい火星の昼と夜は暑すぎても寒すぎてもデバフを負う事になる。
はっきり言ってこの青の森は駆け出しが来る場所だし、早々不覚は取らないと思うけど、それでも油断は禁物、というかそれで大事なゴーグルをやられたばかり、油断できるほど心に余裕はない。
ふと、闇夜に揺れる影?
相手は<察知>持ちである可能性が高いのは既に知っている事、双眼鏡ではなくいきなりライフルのスコープを覗く。
そして、即射!体のどこにでも当ればいいというつもりで撃った筈が、外れて近くの木に当ったらしい。
やはりこの反応速度、油断していい相手ではない。
静かにポイントを移動する。何しろ一発撃った事できっとこちらの居場所は知れてしまったであろう。
それでも、相手が伏せた位置はちゃんと把握しているし、そう遠くまで移動はしていないだろう。
スコープの倍率を弄って、次こそ一発で仕留める準備をして、伏せて待つ。
タツ……だったっけ?悪いけど、こっちは本気だからね?




