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44.不運『やらかしてしまった』

 茂みに隠れてそれなりに時間が経ったと思うが、中々何も起きない。悪寒なんて言うのはやっぱり気のせいなのだろうか?


 そろそろ茂みから顔を出そうと思った所で、草を踏む足音が聞こえ、すぐさま再び伏せた。


 音から言って、犬でも猿でもない。


 何しろ犬なら4足歩行だし、音も小さ目。猿ならもっと遠慮なくガッシャガッシャ走り寄ってくる感じだ。


 何となく、誰かが慎重に歩を進めるようなそんな音に、もしかしたらPKかもしれないと思いつき、ちょっと緊張感が走る。


 自分はつい先日新人を脱して駆け出しとして認められたばかりだ。聞いた話だと新人の内はPKしないと言うのが暗黙の了解らしいが、裏を返せば今の自分はいつでもPKされても仕方のない状態だ。


 一応死亡時のペナルティとしては、所持クレジットとアイテムボックスからの放出が1種類か2種類だろう。どうやらこれについてはPKのスキルと加害者被害者のレベル差で決るらしい。


 まだ序盤も序盤でレベルも低い自分なら、その程度の放出が妥当とは聞いている。


 つまり大事な物は預けるか、装備しておけばいいのだ。そういう意味ではある程度割り切ってはいるのだが、やはり他のプレイヤーに攻撃されたり、あまつさえキルされると言うのはあまり気持ちのいいモノではない。


 同時にこのゲームを選んだ以上、覚悟を決めないといけない部分でもあるし、何よりすでに一人キルしてるのだし、やる以上やられるのだ。


 ゆっくり息を吸い、吐き出し、細心の注意を払いながら、草の陰から罠を仕掛けた細い獣道を覗き見る。


 自分に似ているがもっと高級そうと言うか、より森に溶け込むアウターに身を包んだ人影が動いているのを見つけ、腸の辺りがキュッと締まるのを感じた。


 何か雰囲気だけで上位者って感じがする?手に持つのは長いライフル……銃口には何やら細長い円筒がくっつけてあるようだが、なんて言う武器なんだろう?


 割りと髪の色も自由なゲームだが、その人は髪まで緑地に黄緑やエメラルドメッシュで染めて、どこまでいっても森に溶け込む事を目指しているようにも見える。


 光を吸うように真っ黒で、反射光すらない違和感のあるサングラスを額に上げると、女性のアバターのようだ。


 どうやら、自分の拙い罠が見つかったのか、器用に糸を避けて徐々にこちらに近づいてくる。


 いつでも撃ち込める様にクロスボウを構え、とりあえず動きを止める〔麻痺矢〕をセットするが、確か状態異常は相手のVITが高いと確実ではなかった筈だ。


 もし仮に相手が上位者だった場合、麻痺に至らず撃ち殺されるだけになってしまうかもしれないが、その時はその時だ。一発だけでも必ずやり返す!


 細く息を吐いて、とにかく待つ。


 すると、どこからともなく騒がしい、


 ワンワンワンワンワン!!!


 と言う吠え声が聞こえ、あっという間に目の前の人物に襲い掛かるが、やはりその人は上位者なのだろう。


 流れるような動きで、ハンドガンを引き抜き狼犬に照準を合わせたが、そこで狼犬が縛った草に引っ掛かって地面を滑った。


 そのまま自分の罠の糸に引っ掛かり、繋がれた〔弓罠〕から射出された矢が目の前の緑の人物の後ろから腰に突き刺さってしまう。


 「あ」「あ」


 自分と目の前の人物の声が出るのが、ほぼ同時。


 それでも、ハンドガンで狼犬を打ち抜いていたが、その時樹上から猿までもその人に襲い掛かってきた。


 完全に奇襲だと思ったのにあっさりと回避するも、避けた所に自分の罠があり、頭に酸の瓶が直撃する。


 「きゃーーーーーーー!」


 声で間違いなく女性だと理解した時には、その女性は次から次へと罠を踏み、矢を受け、草に引っ掛かって仰向けに倒れたと思ったら落ちてくる瓶を全身で受け、動かなくなってしまった。


 そこにさっきの猿がジャンプして襲いかかろうとしたので、反射的にクロスボウで撃ち抜いたが、女性は毒が回ったのか、完全に力が抜けて死亡してしまった。


 そっと近寄り触れると、5万クレジットとサングラス、銃の弾に長いライフルの先端に付いていた円筒を5個ドロップして消えた。


 「やっちゃった……」


 ついこの前タツにやられてやり返したばかりなのに、今度は自分が加害者になってしまった。


 幸い相手は赤いスカーフをしてなかったので、合法だとは思うが、流石に気まずい。


 やる覚悟もなく、PKなんてしちゃいけない。何故か足が震えて、幼い頃を思い出す。


 はじめて家の鍵を預けられ、小学校からの帰りに遊んでたら無くした時のあの感じ。


 不安で不安でしょうがなかった。そこら中探し回ったのに見つからず、途方に暮れてたら、日も暮れてもう駄目だと全部終わっちゃったんだと悟った幼い頃の苦い思い出。


 その時は学校で落としてて、用務員さんが預かっててくれたから良かったが、今回は完全に自分が殺した。


 重い溜息をついて、街へ帰る。もしかしたら死に戻ったさっきの人と会えるかもしれないし、その時は素直に謝って返そう。事故だったんですと言って、信じてもらえるかは分らないが……。


 声は覚えてはいるが、叫び声だけだったし、どうしたものか?


 うっかりPKしちゃったなんて誰に相談したらいいんだろうか?


 自問自答が尽きない。

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