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41.卒業『どこかで野垂れ死ぬ運命らしい』

 一先ずミッション完了と言う事で、保安官舎に向う足取りも軽い。


 所詮は初心者用の練習ゾーンのボス討伐程度の話だと自分でもよく分かってはいるが、それでも銃を使えずにここまでよくやったなと、自分で自分を褒めたい。


 銃で撃ち合う事が前提のFPSを選んだのに銃の発射音に絶えられなかった時は、本当に絶望を感じた筈だが、今ではただやれば出来る!成せば成る!そんな気持ちでテンションが上がるのを止められない。


 「よう、ベイビー。いたくご機嫌のようだが、今日は何の用だ?」


 そう聞く保安官の口元がにやけているように見えるのは自分だけだろうか?きっと分かっていて聞いてくるのだろう。何しろNPCなんだから当たり前と言えば当たり前だ。


 「環境実験区の木を倒してきました」


 「なるほどな。赤襟卒業おめでとう。早速だがそのスカーフをこっちに寄越しな」


 そう言うと、自然と装備から外れ保安官の手元に移る赤いスカーフ。それを無造作に机の中に突っ込むと、代わりに鎖に二つ金属の板がくっついたネックレスのような物を差し出してくる。


 「コレはなんですか?」


 「お前がお前であると言う証明さ?」


 「つまりアイデンティティ?」


 「ちげーよ!ドックタグだ。この星じゃ身分証と言ってもいい」


 「つまり、これでやっと火星人として登録された?」


 「まぁ、そういう事なんだが微妙にズレてるから説明してやる。お前はこれからこの火星を自由に歩いていいし、好きに開拓していい。でもそれは全て自己責任だ。大抵の奴は人知れずどこかで勝手にくたばるか、野垂れ死ぬ……でもそれを嘆く必要は無い。そのドッグタグの片方はそこにお前がいたと言う墓標、そしてもう片方は誰かがお前はここまで来たんだって言う証明の為に持っていく。そういう代物だが、同時にさっきも言った通り身分証でもある。第三街区から出てみろ高速リニアの駅があるからそれに乗って好きな街に行くといい。その時に身分証は必要になるからな」


 「……つまりここからは何でも自分で決めろって事ですかね?」


 「ああ、そうだ。本当に大事な事だけは察しがいいな。とりあえず最後の忠告をしておくぞ?先人達が言い残したこの火星共通の真実だ。隙を見せれば全て奪われる。だがそれも全てお前の責任だ」


 「分かりました。これからは油断も隙も見せずに頑張ります」


 「くっくっく……やっぱり尻が青いな……人間は一人で生きていく事はできん。本当に心から信頼できる仲間を相棒を見つけろよ」


 そこで話は打ち切られ、手で追い払われてしまったので、保安官舎から出る。


 ドックタグは装備するとやはり首飾りの様だが、歯のネックレスとは干渉しなかったので、それは助かった。


 さて……と、これからどうするか?


 全部自由と言われるとそれはそれで困ってしまう。


 とりあえず今自分に出来る事は手に入れた木材やらの使い道を考える事か!


 まずはいつもお世話になっている皮毛骨肉店に木材を持っていくと!普通に拒否された。


 代わりに紹介されたのが木工屋だったので、とりあえず幾つか板材と葉っぱに枝、そして枝だと思い込んでいた根っこを売ってみる……が、根っこだけは買い取り拒否だった。


 するとやはりシステムは皮毛骨肉店や廃品回収屋と同じで、買い取った素材に対して売り物が増えるらしい。


 先ず気になったのは〔染料〕だ。多分葉っぱを元にしているのだろうが、今の自分のポンチョより少し暗めの緑が気になったので幾つか購入してみる。


 次に枝をまとめて作ったと見られる〔篝火〕だが、これは外で設置する事で暖を取ったり光源になったりするらしい。まだ用途は完全に分かってないが一応これも購入しておく。


 最後に〔板材〕を元に作ったと思われる商品が幾つか並ぶ。殆ど家具や今後使うであろう作業台の元になると思わしき机だが、一番気になったのが紐のついた縦長の箱。


 手にとって確認してみると、バックパックだった。


 重量が多少あったので、何気にボスを倒して上がったレベルで、ステータスのSTRに少し振り、装備してみる。


 すると、アイテムボックスとは別に、背負った箱に触れる事で5×5の容量を得る事が出来た。


 正直な所、罠に素材にと入れるものが増えてきたので、容量が増えるのは非常に助かる。


 ただ、さり気なくバックパックの説明に、死んだ際アイテムボックスとは別にこのバックパックからもアイテムロストがあるとされているのには、十分気をつけたいと思う。


 そして、木工屋を出て今度は自分の生産に移ろうと思ったが、なんとも木の根っこが気になる。


 木と言えば何所だろうか?とりあえず馴染みの燻製屋に向ってみる。確か木を燃やしてその煙で燻製を作っていた筈だ。


 「……ん?」


 ここの店主はいつも無口なので、こちらから根っこを差し出してみると、素直に受け取りカウンターの下に収めてお金を差し出してきた。


 「今の根っこって〔火星狸の燻製〕を作るのに使うんですか?」


 首を横に振って違うと示してくる店主だが、


 「それだと、何に使うんですか?」


 と聞いても特に言葉を返す事はない。


 まぁ、いつも通りの事なので仕方ないと店を出ようとすると、一切れの燻製肉を差し出してきた。


 〔狼犬の燻製〕となっているが、


 「食べていいんですか?」


 と聞けば今度は縦に頷くので食べてみると、〔火星狸の燻製〕よりもよりジューシーと言うか、口が渇く感じの無いのにしっかりしまった噛み応えの燻製肉に、一瞬で虜になった!


 「これってどうやったら食べれますか?」


 と尋ねると何も言わずに店の奥に向ってしまう店主。何か気に障ったのかな?と思ったら大きな紙を持ってきて店先で広げる。


 そして、指差すのは環境実験区の先、所謂外って言われる場所か……。


 どうやら、とうとう厳しい環境に乗り出す時が来たようだ。

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