40.ボス『人が住む為整えた環境こそが人の敵』
最初から履いていたブーツに脛当て皮ツナギ、防刃ベストを上から着て、腰のベルトの右側は矢筒、左には錠剤のケースとお守り代わりのチャフ、ZIPPOに薬瓶を提げている。
この薬瓶もそろそろちゃんとしたホルダーに差し替えたい所だ。何しろ歩くたびに瓶の擦れる音が結構耳に響くし……。
左手首にはスリングになるリストバンドを巻いて、首から歯のお守りを提げ、背中には紐で吊ったクロスボウ、左腰にはディテクティブスペシャル。
それら全部を覆い隠すように緑のポンチョを着て、頭にはフライトキャップのような耳当て付きの帽子を被っている。
そして胸元には新人の証である赤いスカーフを巻き、これが今の自分の装備の全容、この赤いスカーフが今後どうなるのか分らないが、とにかく新人卒業が今日の目的、そしてその為に環境実験区の木を倒しに行かねばならない。
すっかり狩場として安定した環境実験区ははじめは密林の様でおっかなびっくり歩いていたが、今では大体どこに何があるか把握している。
大抵の獣は倒す事もやり過ごす事も出来るし、オブジェクトの樹上から奇襲してくる蛇の息遣いすらすっかり聞き慣れた。
問題はボスの存在だ。周りの獣を狩って養分に変えるという恐ろしいその木。多分だが、環境実験区の一番奥にある普通の木じゃないかと思う。
何しろそこだけ周辺に草一本生えておらず、獣も近づかない。だから自分も用は無いので近づかなかった場所が一箇所存在する。
ん~どう見ても普通の木だが、とりあえず近づいてみるかと、何もない土の上に一歩踏み込むと、途端にその場で足を取られ、尻餅をつく。
すぐに足を見れば、根が引っ掛かり動かせない。
そのまま地中から木の根が生えてきて、こちらに近づいてくる。
今、自分に使える手札は何かと、体中をまさぐり、手に触れた瓶を足に絡む根っこにぶつけると、根から煙を発し、力が抜けたのですぐさま脱出した。
一歩入り込んだだけで、足を取られ、予想外の事にいつの間にか息が上がってしまったが、とりあえず何もない土の上がこのボスの狩場である事は理解できた。
つまり、この範囲外からの攻撃であの木を倒さねばならないという事だ。
距離は目測でおおよそ30m位か?夜狩りに出られない時に試射場で練習した甲斐も有り、何となくの距離は自分でも分かる。
そして、有効射程の存在しないクロスボウなら、その距離まで飛ばす事も出来る。ただかなり山なりの軌道の為、当てるのは少し難しくなるが、幸いな事に敵はそれなりのサイズの木だし、多分外さない。
まず一射目は〔粗末な火矢〕にZIPPOで火をつけて、木に当てる。
ゲームと言えどその程度で炎上する筈も無く、木に刺さった矢からパチパチと火がはぜるのが見えるだけ。
しかし次が大事だ。あまり熟練度を育てていない投げが当るかどうか、酸の入った瓶に〔金属粉〕を落とすと泡が発生する。
それをスリングにセットして木に投げつけた。
何とか木に当て、瓶が割れると、謎のポンッと言う音と共に青い火が発せられ、そのまま木に火がつく。
とりあえず、自分の中で難易度が高いと思われたミッションはクリアしたので、次に腰から〔毒ボルト〕を引き抜き、クロスボウにセットして木に撃ち込む。
流石に高い生命力を持つといわれる木のボスだけあって、まだ倒し切れないようなので、火の上に〔炸裂ボルト〕を撃ち込むと、爆発炎上する。
幾らか距離があるおかげで耳は大丈夫だが、中々刺激的だ。
森の中で木を焼いている人間を見たら他人はどう思うだろうか?
自分ならいかれていやがる……位言いたい所だが、残念な事にやってるのは自分自身。
生木でキャンプファイヤーとか言う自然破壊行為を続ける他無い。
その後も攻撃を続けながら、他のプレイヤーならどうするのか考える。
何しろ反撃されずに攻撃できる距離が大体30mとなれば、サブマシンガンやハンドガンではまず無理な敵だろう。
グレネードランチャーだったかな?女子二人組みの片方が持ってた武器、アレなら木を爆発で攻撃できそうか。
あとはライフル系なら射程距離もそこそこだし、当てる事はできるだろうけど、継続的にダメージを与えるにはどうしたらいいんだろうか?
アサルトマシンガンはいいとして、軽機関銃や重機関銃?でもこんな序盤で重機関銃を撃てるほどSTR鍛えられる物なのかな?
まぁ、でも重機関銃って基本的に据付で使う物だし、そういう設置スキルを育てる人でもいるのかな?
そんな事を思っている内に、木の様子が一気に枯れ落ちたようになったので、一歩土の上に踏み出すと、今度は何も起こらない。
そのまま木に近づき<解体>すると、一目で分かる木材や枝に葉っぱが沢山、手に入った。
ちなみにこの木は一体何の木だったのかと、調べると最初イエロー何とかとアルファベットで出て来たのだが、すぐに日本語でホオノキだと分かった。
輸入ゲーなので、たまにこういうアルファベット表記が出てくると焦るが、まぁ、木の名前なんて分かった所で、別に詳しくもなんともないし、ただ何となく黄緑色っぽく見える木材は気に入った気がする。




