35.和解『とはいかないが一件落着?』
素材集めの時既に振っていたSTRのお陰で、元のショルダーホルスターに戻したディテクティブスペシャルの重量感にホッとした。
ちなみにSTRに振って手に入る<格闘>は当然ながら取得していない、正直そこまでSPに余裕はないのだ。
今後SPを振る方向性としては<製造>系の次の段階が見えれば、それに振らざるを得ないし<調合>も気になる所だ。
何しろ自分のメインウエポンであるクロスボウはデバフ武器である以上、デバフ系の薬剤とは切っても切れない縁だと言える。
威力の上昇があまり見込めないのであれば、その分デバフ能力の上昇を考えるのは自然の流れだろう。
そんな事を考えつつ街に戻り、最初に報告すべきはジョンさんかなと、新人に優しいガンスミスの店に向う。
すると、お店自体は開いているが、中はかなり重苦しい雰囲気が漂っていた。
「こうして、この新人の街に二人目の犠牲者が出てしまった。一件目はただの事故、だが二件目は明らかに狙われた犯行……犯人はこの中にいる!」
コットさんが大きな声で何かを宣言しているが、一体何のことだろうか?自分なんかが手助け出来るか分らないが、もし協力できるならしよう。いつもお世話になってるし……。
「うん、本当にそういうのもうどうでもいいんだよね。そっちのタツ君だっけ?もう新人じゃないんだから、撃たれて当然!諦めてちゃんと銀行にお金預けて、もし何なら貸金庫借りて荷物も預けながら慎重に行動するしかないよ」
「そうだな。新人抜けたとは言え、駆け出しならまだ落とすものも少ないんだ。狩られる事覚悟で頑張るのも練習になるな」
「ぐぅ……そんな……俺今日はじめて知ったんですけど、スナイパーってドロップ集めるのに歩く距離長いし、結構えぐいなって……」
「だから、スナイパーはきついって言ったろ?もし転向するならそれはそれでいいから、相談しろよ」
すると会話に聞き覚えのある二人の声が混ざり、警戒しつつ店の中を窺う。
すると中にはジョンさん、コットさんは当然として、顔に刺青のある女の人と女子二人、ここはまあ別に構わない。問題はオレンジの髪の人と自分が狩ったプラチナブロンドだ!
ここで逃げる事も出来るが、それじゃ下手をすればコットさんやジョンさんが迷惑を被るかもしれない。
そう考え意を決して店の中に入る。
「おっ!丁度良かった!こっちの二人がな……」
「この二人は新人狩りPKです!気をつけてください!」
コットさんが喋るのに被ってしまったが仕方ない。ここはまず一番大事なこと言うべきだ。
「うん、まぁそうなんだけど、君だったんだ?自分でちゃんと犯人見つけたなんてコットよりよっぽど優秀みたいだね」
なにやら顔に刺青の女の人に褒められている様だが、今はそれどころじゃない。
「そ、その声!お前がまさか!」
「そうです……やられたからやり返しました」
何故かその場の空気が一斉に弛緩するのを感じる。
「じゃあ、アレか?ちゃんとディテクティブスペシャルは取り返したのか?」
「はい、今度こそ絶対に落としません!」
するとオレンジ髪の人が近づいてくる。
近くで見るとかなりの巨体で圧倒されるが、しかしPKの片割れだ!ここは毅然とした態度で臨まねば!
「すまなかったな。コイツは俺の後輩なんだ。本当は直接謝らせるつもりで君の事を探してたんだが、先にPKKされるとは思ってなかった。遺恨は残ると思うが一旦矛を収めてくれないか?」
……どういう事だ?
「あの~なんかこの人達素材屋さんの事探してたらしいよ?うっかり撃っちゃったから拾ったの返すつもりで」
「え?でもディテクティブスペシャルの事、知らない振りしてたし……」
「……それがあの小さい拳銃の事だって分らなかったんだよ。すまなかったな」
ん?何の事だ?と混乱するが、全ての真相を聞いて合点がいった。
つまりこのPKはスナイパーで、やっとの事手に入れたスナイパーライフルを手に色々見ていたら、何となくいけ好かない感じの女の子と喋っている奴がいたから、何となく引き金を引いたと……。
その時点でかなりどうしようもないが、それでも当るとは思っていなかった訳だ。
そしてその後、自分を探していたが自分は裏の裏通りを徘徊していたので見つからなかった。
結局先輩であるオレンジ髪の人を頼ったが、もう少しで和解と言うタイミングで自分がPKKしたと……。
なんともタイミングの悪い話ではあったが、まあ仕方ない。
手に入れた自分じゃ使い道の無い弾のマガジンを全て返して、手打ちとなった。
「じゃあ、ラビもタツもこれからはお互い恨みっこ無しで、普通にプレイするて事で、一旦合意だな!」
コットさんに仲介役をつとめて貰ったが……。
「タツ?」
「ラビ?」
お互いにお互いの名前と声に不信感を持つ。何しろ自分の声は普通にそのまま再生されているし、もしかしたら相手もそうなのだろう。
設定で声を変えたりも出来るのかもしれないが、あまり考える事無く自分の声でそのままプレイしていたのだ。寧ろその方が違和感無く遊べていたし……。
一応表向き、和解はしつつ店の前で別れる。
「秋兎?」
と問われ、
「辰也?」
と返した。




