34.人狩『一線を越えて狩り取る』
刺青の女の人曰く、駅に自分を探す人がいたと言う。
それならばと急いで駅に向い、耳を済ませれば確かに汚い赤い色をした髪のプレヤーを探している様だ。
まずは自分を撃った相手の顔を確認しようと、それとなく駅舎の柱の影から見やると、白髪?と言うかプラチナブロンド?を中分けした綺麗め美男子だった。
正直、一緒に横に並んだらちょっと恥ずかしいくらい作りこまれたアバターに、よっぽどこだわりが強いのか、綺麗に見られたいのか、疑問符が浮かぶ所ではある。
少し様子を見ていると今度は、逆立って頭の中央だけに揃えたオレンジ髪が特徴的な大柄な人と話し始めた。
そして情報収集(盗み聞き)を続けているとふと気がつく。オレンジ髪の声は、二人組みに声をかけてた親切気な人と一致する。
片や不審な発言をしていた人物で、片やさも何も知らぬ気に二人組みに声をかけていた人物、そしてこの二人が知り合いだという事は?
あくまで推測だが、この二人を共犯として考えた場合あの時の二人組みとの会話は、噛み合わない?もしくは敢えて何が起きたか把握出来ていない振りをしたのか?
なんとなくあの場から女子二人を遠ざけようとしていたのは分るが……よく思い出してみると、あの時何で銃声が聞こえたか確認したんだ?
あの時自分に聞こえていた銃声が自分を撃った物だとすれば、結構遠距離から撃っていた筈だし、すぐ近くにいたオレンジ髪の人は犯人ではない。はっきり言ってそれはあの時の足音だけでもよく分る。
いや、寧ろ感覚的な距離感で言えば、あの不審な発言をした人物と撃った人物は同一と見ていいだろう。
オレンジ髪の人に好意的に見れば、近くにいたにも関わらず銃声が聞こえてないのに人が撃たれたって言う事に不信感をもって二人に尋ねた。
それだと、あからさまにPKを匂わせて二人を追い払うのはちょっと変か?
そうなると一番ありそうなのは、犯行後の状況から知り合いがやったと気がついて火消しをしてる?
駄目だあくまで予想の積み重ねでしかない。
なにより思案している内に二人は別れ、不審人物の方は環境実験区画に向うらしいので、大急ぎで先回りする。
何故か理由は分らないが、トボトボと時折立ち止まっては嫌そうに環境実験区画に向う不審者をさっさと追い越し、先に環境実験区で狩りをしている人がいないか周囲を確認。相変わらずの不人気ぶりに少しほっとして、罠を仕掛けていく。
何しろこれから自分がやるのはPKだ。あまり他人には見られたくない。
声だけを頼りに不審者を探していたが、もしかしたら自分を撃った犯人じゃないかもしれない可能性は十分ある。
それでも今はこれしか手掛かりがないし、ここはもう行く所まで行くのみ。
対人戦は初めてだし、攻撃力が低いといわれてるクロスボウで何発撃てば倒せるのかも分らない、それに対して相手は一発当てれば自分を殺せる。
それならば、とにかく念入りに〔弓罠〕を仕掛け、そこから射出される矢には毒や麻痺毒、酸などを仕込んで、徹底的に削ろう。
草の陰に糸を張り、そこに〔弓罠〕を繋いで角度を調整していく。
歩幅やなんかはさっぱり分らないが、石や草を乗り越えたり避けたりしたら踏まざるを得ないような位置取りを工夫していく。
あちらこちらで屈み込んでの作業に没頭していると<聞耳>が足音を捉えた。
すぐさま木の影に隠れ、背の高い草に体を沈める。
できる限り草を揺らさないようにそっと足音の人物を確認すると、やはりあの不審人物で間違いないようだ。
手元のクロスボウに〔麻痺矢〕をつがえて、息を潜め待つ……が全く関係ない方を見て、どこかに向って歩き出す。
よくよく、考えると自分が必死で設置した罠に掛かりに来てもらわねば、意味がない!罠を設置するばかりで誘い出す方法を考えていなかった!
獣じゃないし〔餌〕を投げたからと言って近づいてくる訳もない。
……餌?
ふと、思いつき本当に〔餌〕を罠近くに投げ込むと、どこからともなく火星狸が二匹現れて、喰らいつき、
銃声が一発鳴り響く。
かなり遠距離だったように思うが、不審人物は遠距離攻撃の使い手だという事は最初から承知の上、案の定すぐそばで餌をつついていた火星狸の一匹が死に、もう一匹は逃げた。
そして少し待っていると、不審人物が現れて火星狸の死体に触れようとした瞬間、仕掛けた〔弓罠〕から射出された矢が脹脛を貫く。
それに驚いたのか、大急ぎで踵を返すと更に、今度は肩甲骨辺りを貫いた。
オロオロと周囲を見回して、背中を隠すように一本の木にもたれかかると、更に一発脇腹を抉る。
そこで、ズルズルと膝から崩れ、俯いたまま正座した形で動かなくなったので、後ろから回り込んで近づく。
「工場区で新人を狩ったな?」
「な、何の事だ?」
震えながら声を返す様子から、麻痺しても喋れる事は分った。正直ここも賭けだったので、ある意味賭けに勝ったと言えるだろう。
「とぼけてるのか?隙を見せたら奪われるんだろ?」
「くっそ……あれは事故だったんだって!当てる気はなかった!」
「でも引き金を引いて、死に戻ったのは事実だ」
「だって、そういうゲームだろ?PKし合うのが醍醐味のゲームを選んだんだろ?」
「お前もそうだよな?当然狩るぞ?」
「ぐぅ……何が目的だ?俺みたいな駆け出し狩った所で何の旨味もないぞ?」
「ディテクティブスペシャルを出せ」
「???何だよそれ?」
「まだとぼけるのか?!」
思わず大きな声が出て、クロスボウを後頭部に突きつけた。
「とぼけてねぇだろ!俺がやったよ!だから今……」
言いながら目の前の不審人物から力が失われ、グニャッとその場に突っ伏して動かなくなった。
…………あっ!毒か!
とりあえず不審人物に触れて、ドロップを確認すると5000クレジットにディテクティブスペシャルと弾が何マガジンか?銃の換えの弾の入ってるケースってマガジンでいいんだよな?
「持ってるじゃん、ディテクティブスペシャル……」




