32.『赤襟殺人事件-容疑-』コットの事件簿
「ああ、そういうのいいから僕の銃のメンテ頼めない?素材は持ってきたからさ」
やっとの事で人がこの凄惨な事件の謎を解いたと言うのに『そういうのいいから』だと!!!
「絶対嫌だ!お前みたいな……お前みたいな……」
「あ、ああ!違う!コット落ち着いて!ほら僕はあまり殺人事件とかよく分らないタイプだからさ。ちょっと空気が読めなかったかな?」
「あ~あ、コットの奴が言葉も出なくなる程怒るなんて、やっちまったなステン……こうなっちまったら俺じゃどうにもできん」
くそぉ!確かに推理が外れる事だってあるけど、そんなあからさまに興味ないみたいな……。
これがラビなら『え?あ?分ったんですか?凄いですね!』位は言ってくれるんじゃないか?そう考えると、やっぱりジョンの相棒はラビしかいない。こんな性悪女絶対に銃のメンテなんかしてやるもんか!
「悪かったってコット~。やっぱり拳銃……特にリボルバーのメンテナンスはコットじゃなきゃ駄目なんだって……」
「そ、そりゃあリボルバーなんてのは趣味装備に片足踏み込んでるし、敢えて熟練度上げてる奴は少ないけど、それでも探せばいるだろ?他行け!」
「いやハンドガン自体サブウエポンだし、そこでもって装弾数の少ないリボルバーなんて完全な趣味装備だろ?無理だな。コットに振られた以上、諦めなステン」
「くっ……」
「あのぉ、さっき言ってた全て解けた謎って何なんですか?」
自分がステンを拒否している所に、二人組みが話しかけてきた。そう言えばこっちがメインなのに申し訳ない事したな。
「ああ、それだが、多分犯人はブルだ」
「え?素材屋さんが撃たれてすぐに声を掛けて来たのに?流石にその距離で銃声を聞き逃さないと思うけど」
「なんだよ。古参が出てくるたびに犯人になるパターンか?」
「違う!いいか、二人は銃声が聞こえなかったって主張している。もしそれが事実とするなら、それはサプレッサーを装備していたからに他ならない!」
「「サプレッサー?」」
「いや、サプレッサーだって銃声はするよね?相変わらず灰色の脳の調子が絶好調のようで」
「ふん!今回は確信を得てる!証拠はこの二人の表情だ!」
一斉に二人の新人プレイヤーを見ると、やたら戸惑う二人、だがこれから自分の説明を聞けば納得せざるを得ないだろう。
「この二人サプレッサーを知らないんだ。つまり、銃声がしなかったんじゃない。銃声だと認識できなかった!これが答えだ」
「……確かにブルのMP5はサプレッサーを装備できる仕様のものだが、そうすると動機はなんだ?」
くっ!流石俺の隣でいつも推理を聞いているだけあって、ジョンも痛いところを突いてくる。確かにブルにはラビを撃つ動機がない。
「そ、そうだな……女の子が二人いて、声をかけようと思ったら既に親しげな男がいた事に嫉妬して撃ったんじゃないか?」
「幾らなんでも心が狭すぎるね~。そんな男がいないとは言わないけど、話しただけで新人撃ってたら、このゲームもっとカオスな状況に陥ってると思うね」
「同感だな。この二人が元々顔見知りだって言うなら、そういう嫉妬もあるんだろうが、二人共初対面だったんだろ?」
「はい、初めて見たと思います」
「ん~じゃあ、本人に聞いてみようぜ!ブルなら目立つし、そこらで誰かに聞けばすぐ見つかるだろ!」
「ふーん、じゃあ尚更僕の銃をメンテしておいたほうがいいね」
「何でだよ!嫌だよ!」
「だってブルは古参で、しかも相応の規模のクランの立ち上げメンバーだよ?あんたみたいに何の後ろ盾もないガンスミス一人黙らせる事もできないと思うの?」
「ぐぅ……それはそうだけど……」
「ふん!俺はブルがそんな事をする奴だとは思わないけどな。確かにやる時は容赦なくやる奴だと思うが、新人撃ったり、更に現場にいた新人に声かけたりしないだろ」
「でも、状況証拠がこれだけ揃ってるんだし、話を聞かないわけに行かないだろ?」
「まぁ、確かにブルが何の用で新人の街なんかに来てるのか?そしてそのタイミングで起きた新人狩り、確認しない訳にはいかないと思うよ?僕は……。僕も新人狩りに興味津々って顔でついていけば、少なくとも暴力で口封じだけはないんじゃない?」
「ぐぅ、そうやって俺に銃のメンテナンスさせる気だな?ま、まぁ仕方ない貸せよ!メンテだけならすぐやるから!」
そう言うとステンが差し出してくるのは、コルトのパイソンだ。
女子が持つにはやや大型な気もするが、長身のステンが持つとやたら様になるそれは、やたら深みのある青がかった黒のリボルバー。
現存するかどうかすら分らない初期のパイソンを表現したようなそれは、一個の芸術品としか言いようがない。
コレはゲームだと分かっているのだが、運営の妙なこだわりとでも言うのだろうか?いつ見ても独特のオーラを感じる逸品だ。
そして、ステンとジョンが何だかんだ仲のいい理由、それはステンもこのパイソンに運命を感じたらしい。
丁寧に、かつ限界まで使い込まれたパイソン。サブウエポンの筈なのに、ここまで使い込む事はないだろうとも思うのだが、ステンの二つ名は魔弾の射手。そしてそれはこの銃で表現されるものなのだから、メンテナンスに手間隙かけるのも納得せざるを得ない。何なら新人の街まで自分を探しに来るだけでも面倒だろう。
口では嫌だと言いつつも、結局コイツを他のガンスミスに触らせるのは癪に障る。
今自分の持てる限りの力を尽くして、メンテナンスを完了し、パイソンを返すと、満足げな表情で受け取ったステンが、店の外に全員をうながす。
「さあ、犯人逮捕と行こうか?」




