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30.遭遇『アイデンティティ』

 「やっぱり、正体は分からないか……新人狩りを自慢するような奴もいないんだよな?」


 「いません。ロ……ジョンさんやコットさんは愉快犯だろうと言ってましたけど、そういう怪しげな噂は聞いてません」


 「そっか、悪いな。俺もあの二人には最初の頃世話になったし、何か手伝おうと思ったんだが、やっぱりこのゲームはPKに緩いし、犯人探しなんて難しいよな」


 「ですね……まぁ新人の街ですし、どんどん新規プレイヤーが増えては卒業していく場所だから、誰かが記念で狩りでもしていったのかもしれないですね」


 「ああ~無いとは言い切れないな。何しろ協定って言ったって大手クランがそう言っただけで、あとはなんとなく暗黙の了解だからな。知らずにPKゲーだからやったみたいな奴がいてもおかしくない」


 「でも、何でまた犯人探しなんて始めたんでしょう?もし、引き締めの為なら誰か吊るし上げるより、人数集めて人狩りのフリでもすれば、よっぽど皆気をつけるだろうに……」


 「さぁ?まぁ、多分だけどコットさんの病気が再発したとか?」


 「ああ……灰色の脳味噌に電流が走っちゃいましたか……アレさえなければ腕のいいガンスミスで、誰からも親しまれるいい人なのに」


 「だよな~そもそもガンスミスは人口が少ないから、すぐにどこかのクランに勧誘されちゃう中で、独立独歩、新人とかまだ安定しない連中の面倒見てくれてるんだもんな。やっぱりいい人ではあるんだよ」


 「まぁ、引き続き噂集めしてみます」


 「ああ、くれぐれも目立たないようにな。そういう指示だから。犯人は再びやるって思ってるらしいし」


 「じゃあ、絶対やらないですね……」


 大通りと裏通りの狭間、裏の裏通りで噂を<聞耳>で集めていると時折こんなやり取りが聞こえてくる事がある。


 コットさんの病気と言うのは心配だが、どうやら二人も手伝ってくれているらしい。ジョンさんが知り合いに声をかけてくれるというのは気休めじゃなく本当の事だった。


 近いうちにお礼を言いにいかなければ……聞きたい事もあったし……。


 周囲にそれらしい話し声が聞こえなくなったので、場所を移す為にひっそりと立ち上がる。


 やはりコレは自分の問題だし、兎にも角にも足と耳で情報を稼がねば、見つかるものも見つからない。


 仮に自分を殺したPKが既にどこかへ行ってしまったとしても、何がしか痕跡の一つでも残っていれば、追う事はできるかもしれない。そう信じて歩き出す。


 すると、向かい側から人影?


 今いるのは裏の裏道で、はっきり言ってこの道を教わってから他人と出くわした事はない。下手をすると表や裏の道から見えるかもしれないので、身を潜めているだけだ。


 一体誰だろうと、狭い道の端に寄って観察していると近づくにつれ正体がはっきりしてくる。


 長身で体のラインを隠す気もないぴったりとした未来風の全身スーツ。映画やアニメでみる何某かの機関の女スパイみたいだ。


 全身にベルト?ハーネスが張り巡らされ、多分武器や弾を吊るんだろうと容易に想像できるが、今は腰に一丁ハンドガンを提げているだけらしい。


 そして、横を通り過ぎるかと思った瞬間、体を傾け自分のフードの中を覗き込んでくる。そしてその顔の半分は刺青で埋め尽くされていた。


 あまりの突然の事にギョッと、硬直していると……そのままの体勢で話しかけてきた。


 「くっくっく小動物みたいだね~可愛い~……赤襟って事は新人かい?珍しいね~反体制側なんだ?お金にならないから序盤は素直に体制側で稼いだ方がいいのに!何のメリットもないよ?」


 「え?あ……反体制側?」


 「ああ~!何の理由もなくか~じゃあ仕方ない。もうちょっと頑張って情報を集める事だね~くっくっく。何?僕が怖い?」


 「ぼ、僕?」


 明らかに女の人なのに、急に僕とか言われて戸惑う。


 「うん、僕は僕っ娘だからね。趣味じゃなかった?」

 

 「いえ、初めてだったので分りません」


 「そっかそっか……。ところでこんな所で何やってたの?」


 「情報集めてました」


 「ああ……情報集めてた所に情報集める事だねって言ったのか、意味なかったね!くっくっく。いい事だよ情報は力だもん。折角こんな誰も通らない道であったんだし、何か教えてあげようか?君面白いからね」


 「え?じゃあ……なんで一人称が僕なんですか?」


 「それはそれがアイデンティティだからだよ」


 「つまり自分は何者かと言う社会的位置づけに対して、僕っ娘であると言う事が重要なんですね?」


 「……君変わってるね~うちのエウリュと似てるかも?まあいいや。情報収集頑張ってね」


 そう言って立ち去る謎の女性近くで見るとこの人もリボルバー使いだったようだ。折角なら、どんな銃を使ってるのか聞けば良かった……。


 そんな事を思って一歩踏み出して、頭を抱える。


 「新人狩りPKの事聞けばよかったじゃん……」


 <聞耳>で情報を集める事に夢中になって、普通に聞くという事を完全に失念していた。


 やらかしから立ち直る為に、狭い路地の狭い空を見上げると、上からさっきの女の人が覗き込んできた。


 「言い忘れたけどさ。君の事探してる人がいたよ。何か汚い赤の髪の新人見てないかってさ。色々移動しながら聞きまわってたみたいだけど、僕は駅近くで声かけられた。それじゃね」


 今度こそ、颯爽と立ち去っていく女性、姿だけならモデルのようだが、行動と言うか……話す時の顔が近い。


 まぁ、今はそんな事別にいいか。自分を探している人と言うのを探しに行こう。

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