28.張込『犯人は現場に戻ってくる?』
まず最初に残念な事だが、自分のディテクティブスペシャルは売りに出ていなかった。
ジョンさんに言われたようにステータス画面を確認すると、確かにディテクティブスペシャルとクロスボウがいつの間にか登録され、普段だったら絶対見落とすような番号が振られていた。
ジョンさんもよくまぁこんな小ネタのような事に気がついたものだ。
先発プレイヤーに感心しつつ、とにかく次の準備を進めていく事にする。
まず一つ目は見た目だろう。
自分は相手の声しか知らないが、相手は自分を撃つ時に見ている筈だ。
ちなみに死に戻る時に例の2人組みの話を聞いていたが、2人も敵を認識していなかった風だし、一体何でどうやって自分を撃ったかは未だによく分らない。
何ならあの声の主が本当に自分を撃ったかも定かではない。
それでも今はそれしかヒントがないのだから、あの声の主を探す!それに当って必要なのは変装だろう!
もし、あの声の主が自分を撃っていたのだとしたら、見た目で避けられる可能性は大だ。
しかも声を発さずに、自分を一方的に見つけて、一旦どこかの街かなんかにでも行かれた日には、当分見つからない可能性もある。
一体何が目的で自分を撃ったかすらもよく分かっていないが、まだこの街にいるという一縷の望みに託して、見た目を大きく変更する。
と言っても新人の街で、そんな便利な物が売っているのかと、問われれば全く思い当たらない。
ただ、前に糸を買った雑貨屋に大きな布が売っていたのを思い出した。
場合によっては服を作るのにも使えるかと、ちょっと思っていたのだが、早速買って工房で<製造>を使用すると案の定幾つか服のパターンが出てきた。
その中でも何か妙にぼろい頭からすっぽりかぶるタイプのマント?
未来映画とかで主人公が身分を隠す時とかに難民を装うようなそんな雰囲気のボロ布を作れたので、それをすっぽりと被り、髪から装備から全部隠してしまう。
次に例の声の主を見つけた時の対処として、麻痺毒を十分な量収集する必要がある。
本来ならまだ犯人かどうか特定できていない相手に武器を使う事は躊躇われる所だが、今回は自分も切羽詰っているし、何より自分の攻撃力は多分そこまでの殺傷能力は無いんじゃなかろうか?
だから、麻痺毒で動きを奪って話を聞くというのが今回の作戦だ。
仮に普通に話しかけた場合、走って逃げられたら自分のAGIで追いつける可能性は全くの0!絶対無理!まだ一つもステータス振ってないもん。
隙を見せたら奪われるなんて物騒な事を呟いていた事を後悔してもらう他無い。
できればあの2人組みに話を聞きたいところではあるが、今自分はPKをしようとしている。幾らゲーム的に許されてるとは言え、まだゲームを始めたばかりの二人を巻き込んでいい訳ないだろう。
とにかく、今は足で稼ぐ。どんな些細な情報でもいいから拾おうと、街中や工場をうろつく。
ちなみに環境実験区画には相変わらず殆ど人がいない。自分は毒やら何やら結構お世話になっているのだが、何故こんなに不人気なのか?
まぁ、そんな事は置いておいて<聞耳>をフル活用しつつ、歩いているとよく耳にするのは……。
「ねぇ、あの人怪しくない?」
「やめとけよ。変なのに関わると碌な事無いぞ」
そんな会話だ。もしかしてPKの事かと思って、周辺を毎回念入りに確認するのだが、全く当りがない。
そして次第に気がつくのだった。怪しいのは自分だって事に……。
参った……姿を隠したつもりが完全に裏目に出てしまった。
どうにか怪しまれずに姿を変えて、こっそり他人の話に聞き耳を立てられるそんな方法はないか?
気がついた時には保安官舎にいた。
「よう、掃除屋。どうした?いつも以上に辛気臭い格好しやがって、今日は何の用だ?」
「実は誰かに撃たれまして」
「そうか……命あって良かったじゃないか?ここじゃそんな事は日常茶飯事だ。どいつもこいつも気に入らなけりゃ撃つし、理由が無くても撃つ。そんな馬鹿ばかりだから俺も毎日こうして忙しくしてるのさ」
いつも机に足を投げ出して座ってるのに、忙しいのかな?とも思ったが、それは一旦置いておこう。
「自分は自分を撃った相手を探したいんですけど、どうにか目立たない方法はないですか?」
「ふん!まぁなんだ。掃除屋らしくこの街のゴミを片付けるってなら、方法を教えないでもないぞ?」
「清掃活動ならします!」
「ちげーよ!この街で好き放題してる輩を撃つ覚悟はあるのか?」
「好き放題ってのは、どんな事をしてるんですか?」
「ふん、まだ赤襟も取れんような新人を撃っていい気になってる様な奴の事さ」
「はい!撃つ為の準備はしました。どうしても取り返さなきゃならない物があります」
「分った。お前が懇意にしてる店があるだろ?皮毛骨肉店に廃品回収屋、燻製屋、酒屋、雑貨屋、薬屋ってな。それぞれに話を通しておくから、この一番街区なら裏の裏まで自由に行き来できる。どいつもこいつも火星でギリギリ生きていくしかない奴らだが、お前は金になる地球の連中よりこっち側とうまく付き合ってるからな。今回は特別だ」
「ありがとうございます。必ず見つけて掃除します」
それから、各店の中を通り裏道から裏道へと進み、人々の話を収拾していく。
新人狩りと呼ばれるPKが密かに噂になっているのを何度か耳にした。




