26.『ノリでやらかす』タツ
目の前に倒れているのは人サイズの機械の残骸。
サイズこそ成人男性位の高さはあるが見た目は工場区画ではよく見かけるクリーナーの親かと言うような丸っこいフォルムで、一見ただ的がでかくなっただけなのだが、もし相対すればこのゲームで初めて敵から銃で撃たれるという経験をする事になる。
最初の街と呼ばれる全員共通のスタート地点とそこに付随する新人用の狩り場の敵は大体突っ込んできて近接攻撃を仕掛けてくるので、近づくまでに撃てばそれまでだ。
しかし、工場区のボスである警備ドローンは銃を撃ってくるので、戦い方を変えなければならない。
このボスを倒す事で晴れて新人街の外に出て更なるドローンや獣にそして人とやりあう準備が出来るとも言えるのだが、自分は結構な期間ここで足止めをくらっていた。
「どうだタツ?出たか?」
「出ました出ました!あざっす先輩!」
ボスドローンのドロップ品として、今自分の手の中にあるのはスコープ付きのライフルPSG-1だ。
これが出るまで何回このボスを倒したか。何しろボスを倒したい新人は何人もいるので、一人で狩り場を独占するわけにも行かず、人がいない隙を見計らっては倒してようやく手に入った代物だ。
苦労して手に入れたずっと欲しかった相棒を眺めていると、後ろから威圧的なマッチョにオレンジのモヒカンが特徴的な先輩が近づいてきて、自分の肩に手を乗せる。
「お疲れさん。これでお前も一応新人卒業だな。ここからは力がモノを言う世界だからくれぐれも慎重に行動しろよ?まぁ逆を言えば、隙がある奴を見たら殺ってもいいんだがな」
「うっす!荒野の掟っすよね!奪い合うのが当たり前、隙を見せれば奪われる」
「そうそう、このゲームはPKが当たり前、むしろPKをし合う為のゲームだと思ってないとな。PKされて恨むなとは言わないが、誰も同情なんかしてくれんし、自分でやり返せって突き放されるだけだからそのつもりでな」
「うっす!」
「まぁタツには期待してるからよ。スナイパーなんて面倒なポジションやる奴はかなりこだわりが強くないと難しいし、そのまま成長してくれればありがたいが、もし辛くなったらすぐに言えよ」
「え?でもサイレントキラーでしたっけ?先輩達が大会に出たのにあっさり皆殺しにしたのって」
「ああ、スナイパーは要求ステータスが多くて難しい反面、使いこなせば圧倒的な有効射程を持ってるからな。まぁまずは的に当てるだけでも時間掛かるからじっくり腰を据えてやってみろよ。うちにもスナイパーが入れば、今後の戦術も変わるしな」
「うっす!色々試してみます」
ボスドローンを倒すのを手伝ってくれた先輩はマッチョな巨体に似合わず誰もが知ってる有名なサブマシンガンMP5の中でもSchalldämpferシリーズってのを使ってる。
本来はサプレッサーがついているらしいが、消耗すると替えが高いという事で今は外した状態で手に提げ、街に向って歩いていく。
その歩く姿にすら油断や隙が無いのを見て、やはり先輩のクランに入れてもらえて運が良かったと思う。
そしてやっと出会えたスナイパーライフルの重みが、自分の気持ちを昂ぶらせる。
何しろ街の銃砲店に売ってるのはスコープも何もついてないライフルのみ。今使ってるのはM1ガーランドって言ういかにも古い型の銃なのだが、はじめはボロイな~なんて思いつつも使い慣れるとコレはコレで趣がある。
しかしそれはもうアイテムボックス行き!何しろ今手に入れたPSG-1とは性能が違う!多分。
早速スコープを覗いてそこら中見回してみると、遠くに女子2人が楽しげに話しながら歩いているのが見えた。
「おいおい、隙を見せると奪われるぜお嬢ちゃん達」
つい格好つけて言葉に出すが、そんな事はしない。
そのまま少しスコープで覗いていると、何やら汚い赤髪の男が走ってきて女子2人に話しかけ始める……何なら女子の方は楽しそう?
ちょっと、イラッときた。
まぁ折角だし荒野の掟を教えてやるか……。
ほんのジョークと言うか脅かすつもりで、男に向けて発砲すると、ばっちり側頭部に銃弾が吸い込まれヘッドショットが決ってしまった。
これが所謂ビギナーズラックかと、我ながら感心してしまったが、まぁコレでこのゲームの厳しさを知ったろう。軟派男め!
そのままスコープを覗いていると、先輩が女子達に駆け寄り何か話し始めた?
「おい!タツちょっとこっち来い!」
かなり遠くとは言え、いきなり怒声を浴びせられて緊張に体が固まるが、呼ばれて行かない訳にもいかない。
すぐに走って先輩の元に向う。
既に女子達は街の方へ行ったようだが、先輩が腕組みしてさっき撃ち殺した汚い赤髪の男の横に立って待っている。
「これやったのはお前か?」
「そうっすけど……」
「何でやった?」
「荒野の掟だから?」
「なる程な。うん……折角このゲームにはまってるみたいだから、盛り上げる様な事を言ったのは俺だし、別にPKも問題ないんだが……一応日本のサーバーでは赤襟つって新人はPKしないっていう暗黙の了解があるんだよ」
「え?まじっすか?だってPKし合うゲームだって」
「そりゃそうだ間違ってない。だが新人が碌に装備も揃わない内から狩られてたらすぐに新規がいなくなってゲーム自体が終わっちまうだろ?まぁ、コイツがどこの誰かも分らんし、どこぞのクランメンバーだったら仕方ない、俺が話をつけるが……お前が殺ったんだからドロップ拾っておいて、後で街で見かけたら返すんだな。変に噂になると今度はお前が標的になる」
「え?まじっすか?」
「マジだよ。お前はもう新人卒業してる身で、新人撃ったんだからちょっとはっちゃけた連中に噂を聞かれてみろ?丁度いい獲物扱いされて飽きるまで狩られるぞ」
先輩に促され男に触れると手に入ったのは2000クレジットと小さいリボルバー?
とりあえずそれらをアイテムボックスにしまった自分の顔は蒼白になっている事だろう。




