19.無知『自分の弱さを見つめて立て直す』
「そりゃ、クリーナーだな」
「クリーナーですか？」
「ああ、工場を掃除してた自動掃除機だ」
「そ、掃除機に負けそうになったんだ……」
工場でドローンに負けそうになって、まず自分で色々考えた物の、やっぱり情報が足りないと、素直にNPC達にヒントを聞きに行く事にした。
最初は何となくお馴染みになってきた銃砲店から。
ドローン特攻武器の様な物がないか期待して来たのだが、知らされたのは自分が掃除機に負けそうになったというひたすら情けない事実だった。
「まぁ、それも仕方ないだろうな。お前一体どんな武器でドローンと戦った？」
「それは、いつも通りクロスボウでですけど」
「クロスボウは確かに攻撃力が低いし、ドローン全般相手にするには物足りないが、クリーナー相手でそこまでやられるって事は、矢をケチったろ？」
「え？いや……いつも使ってる〔毒木矢〕ですけど？」
「……はぁ……ドローンに毒が効くかよ……。〔粗末な木矢〕だの〔仕掛け木矢〕だのは攻撃力で言えば最低の低どころか、底を割った代物だ。蜂や狸ですらボルトで倒しただろうが？あくまで搦め手の一つとして使う物をメイン武装にしてるからそうなるんだ！」
やってしまった……まさか木矢がそこまで弱いなんて……弱いのは知ってたけど……。
「ボルトを使えば、倒せますか？」
「まぁ……なんとかな……全くお奨めしないが？」
「え？でも、そうするとどうやってドローンを倒せばいいんですか？」
「方法は幾つかある。一つ目火力でごり押しにしてスクラップに換えちまう事だ。工場のドローンなら普通の銃弾で幾らでもやれる。もし更に外に行くなら徹甲弾や貫通弾を使うのもいい」
「出来れば銃以外で何かお願いします」
「そうなるとだな、一つはチャフで妨害ってのがドローン相手なら割りと有効な手段だ。だがお前にはまだ高いし、何よりクリーナーごときに使ってたんじゃ足が出るぞ」
「なるほど、つまりもっと強いドローンを相手にする時に使えと？」
「ああ、ここにある最低品質の物でも500クレジットだ。お守り代わりに一個くらい提げててもいいかもしれないがな。次に罠だなクリーナーをはじめ地面を走るタイプなら車輪をやっちまえば大概動かなくなる」
「！！その罠ください！」
「待て待て！最後まで話を聞け！パターンは幾つかあるが、一番分りやすいのは〔針罠〕だ。コレは獣でも地面を歩いてる奴らならダメージを受けるし、タイヤで走るドローンなら動きを遅くしたり、うまくすればそれだけで止められる代物だ。ただしスキルの＜設置＞が必要になってくる。この他にも潤滑油を撒く〔油罠〕や〔粘罠〕なんてのもあるが、お前は買うより自作したいタイプだろ？」
「確かにそれはそうですけど、今の所それに対応しそうなドロップ品は見た事無いです」
「……環境実験区で狩りしてなかったか？」
「今や地形すら完璧に頭に入ってます！」
「棘の生えた実とかあったろ？環境実験区の少し奥の方だぞ？」
「奥？門が見える範囲しか狩ってませんけど？」
「ずっとか？」
「ずっとですけど」
「もうちょっと冒険心を持ってもいいな。確かに奥に行けば行くほど獣も少しづつ強くなるが、毒食らわせてボルトで射れば十分勝てるからよ。んで棘の実を工房で加工すりゃ一番基本的な〔針罠〕が出来るから、それで車輪をやってやれば動きが止まる。止まったらスクラップにするんじゃなくて＜解体＞してみろ」
「え？壊さなくてもいいんですか？」
「それがドローンの特徴だ。動きを止めさえすればそのままドロップを奪って沈黙させられる。勿論例外はあるし、沈黙させる条件がきつい物もある。だが工場区画程度なら問題ないだろう」
「なるほど！じゃあ早速棘の実探してきます！」
「待て待て待て！まだ話は終わってない！今のはクリーナー対策だが、もっと厄介なのが空中ドローンだ」
「え？空中に罠なんて仕掛けられないじゃないですか？」
「そりゃそうだ。だから俺の所じゃ手の施しようがない。素直にもっと強力な銃を使うか、試射場でアビリティでも習ってくるんだな」
「あびりてぃ？」
「ステータスを開くと熟練度画面があるだろ？十分に熟練度が貯まるとアビリティを取得できる。いつでもどこでもという訳にはいかないが、基礎的なものなら試射場で手に入るだろう。もうずっとクロスボウを使ってるんだ。貫通力の高い対ドローン用のアビリティでも習うんだな」
「色々ありがとうございます。試射場に行ってみます」
「ここまで説明を聞いておいて、何もかわずに行く気か？」
「じゃあ、チャフ？を5個買います」
「いつの間に、そんな金持ちになった？まあいいが……コレは手榴弾と同じ使い方だが、十分STRは育ってるよな？」
「え？クロスボウを使う為に1上げたままです」
「それで、どうやって投擲武器使う気だったんだよ……足元に落ちるぞ？しゃぁねえな～100クレジットでこれも売ってやる。だがDEXがなきゃ大して当らんし、うちで売ってるような最低限の〔手投弾〕〔手妨弾〕位しか扱えん代物だから一時的な物だと思えよ」
言いながら渡されたのは細い帯みたいな幅広の紐だ。それを手に巻いてもらい、小石を乗せて振り回し方を教わる。
普段は左手首にリストバンドのように巻いて装備しておくらしく、篭手や腕輪は装備できなくなる為、お奨めしないとの事だ。
普通他の人はSTRを育てて＜投擲＞スキルを使うのだそうだが、現状SNSとDEXに振ってる自分にはまだ先の遠い話になりそうだ。
とりあえず、チャフを一個腰のベルトに通して提げて、試射場へと向う。
