1.MF『火星開拓者』
「すまん!」
そんな言葉と共に父親から渡されたのは通称『G.G.』とも『ギア』とも呼ばれるフルダイブVRのハードだった。
何でも、誕生日に渡すつもりで早めに買っておいたが、その前に海外転勤になってしまったらしい。
「もうすぐ誕生日だし、もう出来るだろ?開けてみよう!」
「あのさ、興味あるなら自分の分買えばいいじゃん?」
「う~ん……そんなに出来る時間もないのに買うにはちょっと高くてな~。だから面白かったら買ってみようと思って」
「子供を実験体にするって……まあいいけど。でもまだ出来ないよ?誕生日きてないんだから」
「そうなの?」
母子手帳にもマイナンバーが印字されるご時勢にそんな違反が出来る訳ないじゃん。
あと数日だからちょっと頼むよって、頭に乗っけるだけの機械に言えば何とかなると思ってるんだろうか?この父親は……。
一応両親共に、いい親なんだと思う。
中学にもなって昔は活発だったのにとか言われるのは、いつまで小学生だと思ってんだろ?とか色々いいたい事もあるが、別にそんなのは悪い内には入らないだろう。
寧ろ、何も言ってなくても一番欲しい物を早めに用意してくれる親に対して文句を言う方が、碌な息子じゃないのかもしれない。
結局起動もせず、誕生日まで置いておかれる事になったギア、何だかんだ外装を眺めるだけで心が浮つくのを止められない。
一応ソフトと言うか、ワールドを一本ダウンロード出来るように最初から設定されてるパックなので、何をダウンロードするかそれが問題だ。
学校から帰るたびに情報を漁る。
やはり最初は無難が一番か?プレイヤー数も一番多くて、何より剣と魔法の世界の中に自分がいると体感できる和製MMORPGなんてどうだろう?
人が多い分色々と言われているが、その割りに評価も悪くなければ、同級生の中にもプレイヤーがいるし、最初の選択としては正解と言えるんじゃなかろうか?
もしくは海外製だが、飛行エンジンて言うのかな?世界を飛びまわれるタイプのMMORPGもある。
歩いて移動じゃなく、飛んで移動し、空中で三次元戦闘も可能となっていて、かなり評価が高いのだが、プレイ年齢層がやや高いのは、やっぱり難易度が少し高めと言うことなんだろうか?
調べてみるとRPGが多いのはやはりフルダイブという、全く違う自分になれる体験をするのに、RPG世界って言うのがマッチするのかもしれない。
勿論料理ゲームだってある。料理してひたすらお客さんに食事を提供するお店経営ゲームとか、本格的に料理を覚える為のかなりリアルな物だったりと、多種多様。
その他にも人気が有るのは乗り物操作系だろうか。割りと個人向けでマルチプレイヤー物ばかりが人気と言う訳じゃなさそうだ。
そして『MF』だが、火星開拓者って事らしい。
テラフォーミングされた未来の火星、資源採取の為に地球から多くの人が送り込まれたが、星の違う辺境という事もあり、徐々に治安が悪化していく。
それでも地球は火星資源を欲している為、未だに次々と人を送り込む。
そんな火星移民に選ばれたプレイヤーは、己の身は己で守りながら、自由な生活を謳歌する。
地球の求める資源を採取し、それを売って金にするもよし、悪党から他人を守るボディガードになるのも自警団を設立するもよし……って事だ。
一応敵はテラフォーミングの過程で火星に適応した生物や、人の住めない間に送り込まれた自動操縦ドローンなんかがNPCとして出てくるとあるが、問題はマルチプレイなので、プレイヤー同士が一番の敵って事。
その所為で評価は真っ二つだ。
何しろ治安が悪い世界を舞台としているため、PKに何のペナルティも存在しない。寧ろプレイヤー同士撃ち合うのが売りのFPSシューティングRPGとなっている。
流石に街中では多少の制限はあるらしいが、寧ろ街中で撃ち合い禁止じゃないのが、中々に尖ったつくりだと思う。
しかし、銃か……惹かれるものがあるのも確かだ。
産まれてこの方撃った事がないのが当たり前の銃をゲームの中とはいえ、本当に持って撃てるって言うのはどんな気分なのだろうか?
そして、もし気に入らない事があれば、撃ちあいで解決する。
そりゃ負ける事もあるだろうが、知らない所でグズグズと言われるよりよっぽどスッキリする解決方法じゃないか?
「なぁ、毎日熱心に調べてるけど、どれにするか決めたのか?」
「いや、まだ迷ってる。でも、評価見てると大人も楽しめるみたいだよ」
「そうか……フルダイブeスポーツってさ。障害が有る人でも普通の人より強かったりするらしいよ」
「そうらしいね。事故で片手が使えない人でも、フルダイブではちゃんと使えるってあるし、本当に平等な世界なんだね」
「平等かどうかは分らないけど、可能性は沢山あるんだろうな」
「耳も普通に聞こえるのかな?」
「一応、話ではそう聞いてる。ただフルダイブって分らない部分も多いから、あとはやってみるしかないね」
「そっか。じゃあ、何やるかもう少し考えてみるから」
「ああ、転勤に行ってからでもいいから、教えてくれ。別にメールアドレスとかは変わらないしさ」