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184.芋煮『まだサバイバルではあるんだ』

 あっさりと一組目を倒したのも束の間、再び感謝玉の破裂音が響く。


 なんていうかこの感謝玉、不思議と嫌な感じがしない。


 銃声はそれこそ破壊音って感じで耳に痛いし残るのに対して、感謝玉は妙によく響く割に耳に優しいっていうか、花火みたいなノスタルジックな音がする。


 タツにも一応はこの音が聞こえているみたいだが、どうにもどこから聞こえてくるのか方向までは分からないらしい。


 自分にだけわかるって言うのは、普通に考えて<聞き耳>スキルの効果なのだろうが、前よりずっと精度が上がってるって言うか、周囲の状況把握能力が上がっている気がするのは、気のせいだろうか?


 そんな悠長な事を考えていられるのは、どうやら今感謝玉を踏んだ人は、さっさと逃げて行ってしまったから。


 とりあえず待つしか手のない自分達には、やる事が無い。


 「この作戦は楽でいいね~」


 ふと、牡丹さんがまたゴロンと横に寝そべりながら話しかけてくる。


 「楽ですか?」


 「そりゃそうじゃないかい?ずっと監視してなくても、近づけば音で勝手に分かるし、こっちは遠く頭上から狙い撃ち、いきなり奇襲でもされない限り慌てる事も無い」


 タツは一応、スコープから目を外しつつも遠くを警戒するように眺めてはいるが、今の所異常は無さそうだ。


 確かにちょっと楽しすぎかもしれない。


 「多分奇襲もされないでしょう」


 いつの間にやら影丸さんも戻ってきていた。


 「何でそう思うんだい?」


 「お頭の<察知>スキルに引っかからない方が難しいからだ」


 「え?何で自分が<察知>持ってるの知ってるの?」


 「それは、拙者がタツ殿を奇襲した時、攻撃を仕掛ける瞬間に気が付かれたでしょう?それで<察知>持ちだと分かりました。<看破>持ちなら隠れてる時点で気が付いてる筈ですし」


 「でもアレって、何か急にゾクッとくるスキルじゃないの?」


 「う~ん……ちょっと違います。危険が及んだ際に自分の五感の範囲で気が付くスキルです。ゾクッとくるのは触覚で感じる場合ですので、所謂殺意というか自分が攻撃されるというのを感じてる訳です」


 「タツが攻撃されるのを感じたのは?」


 「拙者には分かりかねますが、視覚か聴覚じゃないでしょうか?嗅覚の場合例えば毒ガスのような物に気が付いたりするものですので、味覚は当然ながら食べ物飲み物です」


 じゃあ聴覚かもしれない。<聞き耳>のおかげでかなり広い範囲聞き取れるし。


 もしかしたら遠くの感謝玉の音の位置まで把握できるのも<聞き耳>と<察知>の併用の可能性すらある?


 まぁその辺は使ってればそのうち分かるか。


 「ところで、何でアンタまで戻って来たんだい?」


 「暇だからですね」


 確かに今の所周囲に敵の気配はうかがえないし、暇といえば暇なのかもしれないけども。


 「やっぱり、こんな芋ってたんじゃ敵なんか近寄ってこないんじゃないか?」


 「芋?」


 「芋るってのはFPSだと攻撃を恐れて引きこもるみたいな意味だけど、今の状態みたいに待ちの体勢でも使うね。関西とかだと緊張するとかビビるみたいな意味で使われてるらしいよ」


 相変わらず牡丹さんは博学だな。


 「じゃあ、どうすればいいと思う?」


 「始めちまった以上、このまま粘るしかないだろ?生産職の牡丹さんに半分生産みたいなお前、隠れて近接戦闘の影丸に狙撃しかできない俺、はっきり言ってこのメンバーで出来るのはこれが限度だと思うぜ」


 「ま、アタシも同じ意見だね」


 「拙者も」


 どうやら反対ではないけど、これで上手くいくとも思ってないって感じなのかな?


 「でも、暇なんだよね?ご飯でも食べる?」


 「ご飯って言ったって、何かあるのか?」


 「一応干物ならそれなりにあるけど……」


 「ちょっと見せてくれないかい?」


 牡丹さんが急にやる気になったのか、身を乗り出してきたので、干し肉と干し貝を見せる。


 「へ~!これならいい出汁が出そうだ!後は具になるものがあれば……」


 「里芋だったらそこで拾って来たが?」


 影丸さんの言葉に一瞬空気が固まる。


 「え?まだ素材って拾えるんですか?」

 「国産ゲーじゃないのに里芋って?」

 「何だい!先に言いな!芋煮にするよ!」


 どうやら全くバラバラの理由で、止まったらしい。


 「一応サバイバルを銘打ってるイベントですので、まだ素材の回収は可能です。里芋はタロイモの一種でインド原産と言われてるので、日本以外でも食べます。芋煮るのはご自由に!」


 そして影丸さんは影丸さんで一気に答えてくれる。


 という事で、自分が作った焚火と作業台の合わせ技で、牡丹さんがあっという間に煮物を作ってしまった。


 「牡丹さんって料理系プレイヤーだったんですか?」


 「いや、ただの趣味さ。ゲームの中なら失敗しないからね」


 そんな事を嘯きつつ、あっという間に芋煮?が配られる。


 里芋を煮たから芋煮で間違いないんだろうけども、貝の出汁で里芋を煮ただけなのに、やたらスープにうま味がある気がする。


 「いいね~ネギもあればなお良しだったんだけどね~もっと食材手に入らないもんかね~?」


 何故か急に料理に火が付いた牡丹さんがこっちを見てくるので、影丸さんを見ると静かに首を振る。


 多分、これは食材を集めて来いって話なんだ。

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