183.『滑り出しは上々?』タツ
何のかんのと流されるまま、森の中の妙に背の高い廃墟に居座る事になった訳だが、どうしたもんかね。
とりあえず、作戦は簡単だ。
殺しまくってKillメダルを大量ゲット、本選に残ったなら死んでも手元に半分残るから、それで欲しい物ゲットって話。
そう、うまく行くもんかね~?
森にトラップを仕掛けて、狙撃手置いて引きこもる完全芋体制な訳だが、普通……そんな所に踏み込まなくねぇか?
これが、通常のTEAM戦とかで、お互い完全装備ならトラップ解除や回避しつつ、どこかで撃ち合うみたいな事も出来るんだろうが、今回は一応サバイバルと銘打たれてて、基本現地調達のあり合わせで戦う事がメインな訳だ。
そんな状態で、あからさまに危険地帯に踏み込む奴っていないよな?
例えばスキルやなんかで、そういうのを察知したり発見出来たりするプレイヤーはいるかもしれないけども、そもそもトラップ使いが少ない中であえて少ないスキル枠を割り振る物だろうか?
<察知>ってスキルは確かに序盤から取れるスキルではあったはずだが、使い勝手が悪くて使い手が少ない、またはすぐに消去して別のスキルに切り替えるって先輩から聞いてるしな。
そんな事を考えている内に、うちの幼馴染がおびき寄せ用とか言って焚火を作ってまた上がってきた。
いや、もう絶対無理だろ。
あからさまに攻め込ませようとしてるじゃん!そんな分かりやすい罠にあえて踏み込むような奴いるかよ!
パン!
乾いた音がして、思わず姿勢を低くしつつ、ボロボロの壁の隙間から周囲を窺う。
「タツ!左!」
うちの幼馴染に言われるまま左を向くが、敵影が見当たらない。
「違う左過ぎ!もうちょっとこれ位左!距離はちょっと見えないくらいの位置!」
「それで分かるか!これ位ってどれくらいだよ!」
やっぱりうちの幼馴染はアホすぎる気がする。言葉でなんも伝えられねぇ。
「ラビ……タツが向いてる方向を12時として、時計の針でどれくらいだい?」
牡丹さんが助け舟を出してくれる。
「11と10の間かな?」
とりあえず、スコープでそっちの方を覗いていると、確かに敵影が見える。
だが、流石に慣れないライフルで当てられる距離じゃないし一旦様子見……って言うかあんな距離までカンシャク玉?だか撒きに行ったのかよ!よく途中で見つかって撃たれなかったな?
本選始まってからまだそう経っていない筈なのに、相当な距離を行って帰った事を考えると、何だかんだうちの幼馴染はAGIが高いんだななんて、気が付いたりもする。
今レベルがどれくらいかは分からないが、果たしてどんなステータスの割り振りをしてるのか?
クロスボウなんて変な武器使ってる所為か、予想できない。
パン!
また、さっきと同じ軽い破裂音が響く。
さっき見つけた二人組が、何だかんだ結構近づいてきている。
よくもまぁ、こんなあからさまな仕掛けに釣られるもんだ。
「そろそろ行くぞ」
スコープを覗きながら、一応確認する。
「いいよ。タツのいいと思う所で撃っちゃって」
ゆっくり息を吸い、呼吸を止める。
真っ直ぐこちらに向かってくる二人組のうち、あからさまに軽装備のプレイヤーの心臓に照準を定める。
本当は格好よくヘッドショットでも決めたいところだが、使い慣れない銃でどこまでやれるか、感覚を掴みたい。
相手が左足を上げて前に踏み込み、右足を蹴り出す瞬間。
出来る限り柔らかく引き金を引くと、
ダーン……
空気に溶けていく銃声と、スコープの中で倒れる人影。
結構ギリギリな距離かと思ったけど、まだかなり余裕がある。もしかしたら地味な割にこのライフルいい物なのかもしれない。
ボルトアクションのレバーを引き、排莢、装填。
スコープを覗いて敵の相方を探す。
これが、ボルトアクションライフルのネックというか、一発ごとの装填の所為で対象を見失いがち。
もしかしたらもっと上手いプレイヤーならそんな事ないのかもしれないが、セミオートマチックのPSG-1を使い慣れてる自分には少々難しい。
「駄目だ見つからねぇ」
「いや、もう殺ったよ」
自分が敵の相方を発見するのに手間取っている内に、いつの間に取り出したのか牡丹さんが、双眼鏡を覗いていた。
ちなみに『さん』付けなのは、何か怖そうな姉さんだからだ。
「殺ったって、どうやって?」
「ラビの仕掛けた毒に触っちまったみたいだ。時間の問題だねあの様子だと」
「解毒剤は?」
うちの間抜けな幼馴染が相も変わらず、素っ頓狂な事を聞くが、そんなもの常備してる奴お前しかいないっての。
一応RPG要素で蛇やら虫やら毒を持った敵も出るには出るが、基本撃ち合いのゲームでそこ重要視する奴はいない。
まぁ、だから逆に効果的なのか。
毒か……自分だけの力とかプレイスタイル……毒ってのも悪くはない?
いや、でもこの陰険な幼馴染と一緒は嫌だな。
うん、毒で倒すなんて陰険すぎるし、ないないない!
首を振って気持ちを引き戻すと、
パン!
またあの音だ。




