182.確認『結局いつも調べない』
平原を吹き抜ける風が、膝程の高さの草を薙いでサラサラと音を響かせる。
遮蔽物と言えば、疎らに生えた木と、廃墟跡?と言っていいのか、本当に壁の一部だけが残ったような人工物の残骸にツタが巻き付いている。
ふと、羊の村を思い出してしまうような風景だが……いや羊の村程には鬱蒼とはしていないか。
まぁ、草陰に罠を仕掛けるには十分、遮蔽物のつもりで木に触れれば仕掛けた毒が降ってくる。
自分が感謝玉を撒いたのは、まるで狙ったかのような狙撃手向きの、開けたそんな場所。
そして、自分達がこれから引きこもるのが牡丹さんが爆発物を仕掛けてる森だ。
平原と森が何でそんなにぱっきり割れているのかは分からないが、平原から見るとやや暗い。
そしてそんな中に、平原よりもいくばくか居住区だった名残を感じさせる廃墟がある。
この場所は島だと事前に聞いているが、果たして何があって放棄され、そして見る影もない廃墟になったんだろうか?
もしかしたらNPCに聞いてみれば教えてもらえたかもしれないのに、相変わらず情報収集が下手で嫌になる。
そもそもこのイベントのルールや仕組みも全然理解できてなかった。
結局の所、このイベントはタッグバトルの大会に必要な実績を集めるプレイヤーと、珍しいイベント用素材やアイテムが欲しくて来るプレイヤーに大別されるらしい。
そして前者はバトルガチ勢、後者はとりあえず本選まで生き残れればそれでいいエンジョイ勢って事だ。
つまり予選で自分達があまりにもあっさりと屠ってきたのは後者がほとんど、もしくは得意武器を持っていない状態の前者だった可能性が高い。
何しろそれぞれプレイヤーの得意武器を持ち込めない状態での探索&戦闘イベントなので、そこら辺の運もついて回る事になるとか。
そんな中、裏切る前提とはいえP.W.とG.R.と手を組んだ上、すぐにそれぞれの得意武器が手に入った自分達はシンプルに運が良かったと……自分だけはクロスボウが手に入ってないので、運を吸い取られてしまったと。
そこは嘆いても仕方がないか、それより本選の仕様だが、シンプルにKillメダルの奪い合いになる。
死ねば一人Killメダル10枚分、更にすでに取得している半分をドロップしてしまう。
ちなみに試合終了までに拾わなかった場合、殺した人の所有物となる。横入りしてドロップだけ奪う事は可能、盗む系のスキルは不可だそうな。
つまり、ほぼほぼエンジョイ勢寄りの自分達は最終的にKillメダルが半分になる想定で、殺しまくる他ないという事になる。
そう、半分残れば死んでもそれで賞品との交換が出来るって事だ!素晴らしいイベント!
ちなみに牡丹さんは強力な火薬、普通に手に入れるには結構面倒なドローンを倒さないといけないらしい。
影丸さんは、忍者っぽいスキルがあるらしく、もし手に入ればって事だ。
賞品って武器だけじゃないんだなって……本当にこんなんだからもっとよく調べるべきなんだよな~。
まぁ、愚痴ってもしょうがない、今回は何も知らずに参加しちゃったけど、これで勝手は分かったし、次はちゃんと最初から計画的にやるべし!
そんな事を思いつつ、森の中でちょっとだけ木から頭を出す形になってる廃墟を上っていく。
ちなみに森の爆発物トラップだが、とりあえず正面から真っ直ぐ入ってくる分には、仕掛けない事にした。
自分達の出入りの為という理由と、もう一つはドロップを拾いやすいように、拠点にしてる廃墟近くに殺意高めのトラップを用意しているというのもある。
いずれにせよ、真っ直ぐ正面から堂々と入ってくる相手は、少なくとも爆発には巻き込まれない。
ただ、森の外の平原部で自分が仕掛けた感謝玉を踏めば、多分疑心暗鬼になるだろうという見方もあるので、後はやってくるプレイヤー次第って所か。
廃墟は三階建てになっており、三階の屋根は無い。
突き出た木が、ちょっとした日陰を作ってくれてはいるが、立って歩いたら丸見えだろう。
その為、階段からは四つん這いで進み、タツと牡丹さんの待つ狙撃ポイントで合流する。
低い膝程の壁だけが残るその場所から、森と平原を眺めると、この島が随分と広い場所なのだと実感できる。
「それで?準備は完了したけど、ここからどうやって敵プレイヤーをおびき寄せるんだい?」
既に仕事を終えて、だらけモードというか頭を上げられない事をいい事に、横になって腕枕で寝そべっている牡丹さん。
キャンプで会った時は暗くてよく見ていなかったが、ベリーショートの白茶色のモヒカンと、耳にはもう挿す場所が無いんじゃないかって位の数のピアスが特徴的だ。
元々生産職みたいだし、ここからは確かにやる事も無いんだろうけど、完全に傍観の姿勢。
まぁ、自分もさして立場は違わないので、気にしてもしょうがない。
「焚火を焚こうかと思ってます。枝があるので作業台で簡単に組めるので」
「狼煙でおびき寄せなんて、古典的だね~」
「野濾紙?理科の授業で……」
「どちらかっていうと社会だねぇ……昔の人は遠くにいる人と連絡を取り合うのに、煙を焚いて合図しあってたんだよ」
何とも牡丹さんは博学みたいだ。本当に何でも知っている。




