17.安定『まだ始まりもいい所で満足している』
森にしても下水道にしても競争相手がいないと言うか、そもそも殆ど人がいないと言うか、本当に初期も初期の新人がちょっと現れてすぐに卒業していくお陰で、ほぼ独占状態の日々。
勿論、新人が現れたら狩り場を譲るようにしているし、暇な時は工房で色々作ってるだけでも結構時間がかかる。
そうしてまたレベルが幾つか上がり、取得したスキルは<解体>というレアドロップが増えるスキルにした。
他にもSNS系スキルツリーの<感知>や<望遠>、DEX系スキルツリーの<調合><調理><設置><製造>と取得出来る物は色々増えたが、SPにも限りがあるので、一旦<解体>のみだ。
しかしこのスキルを取得した事により、狩りの時は<解体>をセットしレアアイテムドロップ率を上げる事で、資金調達が目に見えて早くなった。
例えばドブネズミで言うと〔鼠歯〕を10クレジットで引き取ってもらえるものの落とすのは精々が10~20匹に一回位だったのが5匹に一回は拾えるとなれば、コレはあからさまに効果があると言っていいだろう。
更に偶に会いに行く新人に優しいガンスミスの店で銀行を教えてもらった。
そこにお金を預ける事で、もし死に戻っても預けたお金は守られると言う事なので、出来るだけお金は持ち歩かず、すぐに預けるようにした結果……既に50000クレジット程溜め込んでしまった。
500クレジットで途方に暮れていたのは何日前の事だったか?
しかも自分は支出が殆どない。
食べ物はもっぱら〔火星狸の燻製〕だが、おつまみみたいな濃い味で、荒野のワイルド感が好きでいつも食べている。
そしてその材料は自分が狩ってる狸なので、燻製屋に〔狸肉〕を持っていけば幾らでも手に入るのだから、まぁ無限。しかも食べ物には保存期間があるらしいのだが、燻製肉は気にしなくてもいいくらい長持ちするので、まず食べるに困らない。
そして、矢は自分で製造しているし、銃もよっぽどピンチじゃなきゃ撃たない事から弾も減らない。
防具だけは銃砲店で〔防刃ベスト〔中古〕〕を買ったものの、銃が500クレジットの店だ。一回の狩りで数着買える様なお手頃価格だった。
さて、そんなこんな順風満帆に見えて、実は頭を抱えている事が一つ。
これからどうやって強くなればいいのか?それが問題だ。
何しろ銃砲店で売っているクロスボウは自分が使ってる物より性能が劣るし、既製品の矢は確かに幾らか攻撃力がマシだが、毒を当てた方が効率がいいし、ひたすら新人地帯でレベル上げした所で、装備をアップグレードしなきゃ強くなれないのは、流石に自分でも分る。
なぜならコレはシューティングRPGなのだ。STRを上げても重い武器を装備できるようになる訳だし、基本的に攻撃力は武器に依存しているゲームで、次の段階を目指せないと言うのがどれだけ困るか……。
そんなある日、日課の街中での情報収集(盗み聞き)タイム。大抵はこれと言って意味もない世間話しか聞こえないのだが、その日はつい心動かされる情報が耳に入った。
「ねぇ、そろそろ次のフィールド行ってみない?」
「え?いいけど、どうしたの?急に」
「だって、あそこ〔廃品〕とかそんなのばっかりじゃん。一応店売りはできるけど、弾代引いたら大したお金にもならないし、それに何かゴミ集めてお金稼いでるみたいじゃん」
「あ~うん……一応生産職の人が初期に使う素材みたいだよ?あれから色んな部品作って、武器のアップグレードとかするって……」
「そんな人この街じゃ、あの変な人位じゃん?新人に優しいガンスミス?の……名前忘れたけど」
「コットさんでしょ!もしこの先に進むならお世話になるんだし、名前くらい覚えておかないと」
「え?何で?」
「私たちの銃って銃砲店で買った初期の状態なんだよ?改造してもらわなきゃ弱いままじゃん。それでどうやって先に進むの?」
「え?どこかでもっといい銃買うとか?」
「さっきも自分で言ってたけど、今は弾代の所為で大して稼げてないんだから、無理でしょ!仮に安全に隣街行くのに公共の乗り物借りたらそれだけで、どれだけお金かかるか……しかも次の銃って10000クレジット位するらしいよ」
「うっそ……どうやってそんなにお金貯めるの?」
「だ~か~ら~!素材集めて改造してもらうのが一番いいでしょって!そうすればもっと強い敵も狩れるし、お金も稼げるようになるじゃん!」
「なるほどね~!じゃあ、今日もあの廃工場でドローン撃ちまくるか~!」
廃工場って確か街の西側だったよな?
しかしまさか、武器のアップグレードが出来るとは思ってなかった。
なんて言うかどんどん強い武器に乗り換えていく物だと思ってたら、自分の武器を強くする事も出来るなら、その方がずっといい。
何しろ、まだあまり殆ど撃った事のないディテクティブスペシャル……こいつを手放す気は今の所全くないのだから。
そろそろ安定から抜け出し、新たな敵を求める頃合なのかもしれない。
足が自然と西側4番街区へと向う。




