161.『カモメ撃ち』タツ
とある海辺の町の灯台。
その町は妙に白く地中海をイメージさせる……彷彿とさせる……やっぱホウフツとか分かんないから、イメージでいいや。
とにかく白い建物の立ち並ぶ観光地や映画の舞台にもなりそうなそんな町並み。
そして、町と言うにはかなり大きな規模を有するその町で、クエストを受けている最中だ。
理由は簡単で金策と素材集め。
クラン大円内での交流戦で狙撃の立ち回りは勉強させてもらっているものの、肝心のレベル上げや武器の新調、グレードアップ等々、強くなるためにはやらねばならない事は色々とある。
問題は自分が狙撃手の為、他のプレイヤーの攻略があまり参考にならない事だ。
大抵は体制側と呼ばれる地球勢力の大きな街で火星の金属素材を売ったり、クエストを受けたりするのだが、狙撃手は少々相性が悪い。
まず、大抵の体制側クエストはドローン基地を襲撃して大量に出てくるドローンを倒しまくる物量系のクエストが多い。
そうなると、遠くから狙える為サポートとしては仕事できなくもないのだが、一斉に大量に向かってくるドローンを相手するには狙撃手は向いてない。
じゃあ、フィールドで素材集めをしようとすれば、やっぱり遠くにいる敵を倒す性質上、素材を拾いに行く時間の分だけ他の職より遅れていく事になる。
そうなると誰かしらと組んでサポートメインでの立ち回りで稼いでいく事になるが、割がそこまでいいものでもなく、どうしても相手に負担をかけているようで、負い目と言えば言い過ぎかもしれないが、出来うることなら一人で稼げるようになりたいと思い始めた。
そんな中、タウルスの先輩たちに相談した所、狙撃手なら反体制側でクエストを受けた方が良いかもしれないと言われ、適正レベル帯でも大きなこの町に来たという訳だ。
そして、今自分は灯台守として、白い鳥を撃ってる。
「それにしても、うみねこって猫みたいな鳴き声だって聞いたのに、そこまででもないんですね~」
「そりゃ、あれはカモメだからな」
何とはなしに、暇つぶしくらいのつもりで近くのNPCに声を掛けたら、自分が今撃ってる鳥はカモメだと教えてもらえた。
自分が受けた灯台守の仕事は火星のタラフォーミングの影響で狂暴化した鳥が、灯台の明かりを破壊しに来るから適宜撃ち落としてくれというものだ。
正直な所、報酬額は体制側の方が稼げると思うのだが、ありがたい事に弾を支給してくれる上、三食寝床付きで、銃のメンテナンス料なんかも格安という条件で、差し引きすると狙撃手の自分はこっちの方が稼げるかもしれない。
更にはこの町の近くに鉱床があるらしく、そこに出てくるドローンの素材があれば自分の銃のグレードアップも出来る。
その為、素材関連を売ってくれる人がいれば、紹介してもらえるらしい。
今までそう言うのは取引所で機械的にやってきたので、直接誰かと取引と言うのは中々緊張するが、そういう仲介的な事もしてくれる反体制側のシステムはちょっと面白く感じてきているのも確かだ。
「よし、今日はこんな所だろう。飯食って今日は引き上げな」
近くにいたNPCに声を掛けられ、灯台を下りてすぐの所にある食堂で、魚料理を頂く。
鯛みたいなサイズの銀色の魚が、トマトやハーブみたいな葉っぱと一緒に煮込まれてる料理なんだが、高級そうな割に、結構いつ来ても出てくる定番料理なんだよな~。
さっさと平らげて、海辺を散歩する。
本当はもっと追い込んでさっさと金を稼いでタウルスに戻った方がいいんだろうが、胸につかえるというか、ちょっとモヤモヤしたものがある。
正直、自分はこのままでいいんだろうかという事。
先輩たちは皆優しいし、面倒見もいい。
大円も大手だけあって色んな奴がいるが、嫌な奴ってのはまだ会った事ない。
狙撃手は人口が少ない事もあって、大事にされるし丁寧に教えてもらう事も出来る。
それでその先、自分はTEAMやクランの為に何ができるのか?
このまま、言われた通り言われるがまま役目をこなすのか?
それはそれで、求められる役割なんだから悪くは無いんだろう。
でもそこに自分である意味はあるのか?
もし、自分以外にもっとセンスがあって、もっとモチベが高くて、積極的なスナイパーが現れた時、自分はどうすればいいんだろうか?
自分だけの武器。
言葉にすれば簡単だし格好いいが、既に何年も続いてるこのゲームで今更全く新しい事なんてできるわけもない。
ならばせめて人口が少なくて周りの役に立てるようなそんな立ち回りを……そもそもそれが狙撃手なんだよな~!
その狙撃手でもっとすごい奴が現れたら、どうすんだって!
まぁ、自分に怒ってもしょうがねぇ。
そんな事を考えていると、ふと人だかりができているのが目につき、何事かと近づいていく。
どうやら看板が出ていて、イベントのお知らせか?人だかりが多すぎるし、別にまだ今の自分には関係ないかと立ち去ろうとすると、ちらっと賞品の一覧が目の端に入り込む。
「これだ!」
何故だろうか?そこに描かれている狙撃銃に運命を感じた。




