157.『謎が全然解けない』アルバー
コットさんの推理……確かに最初から主催者を殺すことが目的で、漆黒のノワールはでっち上げと言う線……ちょっとドキッとした。
途中まで納得しかけていたって言うか、事務員さんだっけ?あの人が犯人とか言い出さなければ普通に信じてたかもしれない。
正直な所あれだけ人の目を集めたタイミングで殺すとなると度胸も尋常じゃないし、誰も気が付かないというのは尚おかしい気がする。
しかも、すぐに保安官が近寄って注射器を見逃したなんて事あるのか?
保安官以外は誰が気が付いたろうか?例えば近くで調理や配膳をしていた人達?
ん~割と密着してすぐに支えてたし、体の影で見えないといえば見えないのかな?
ダメだ!全然分からない。ここはやっぱりあのブローチについた石を探す事を優先した方が良いのかもしれない。
仮に誰かが持ってるとすれば盗まれたとして間違いないだろうが、問題は本当に漆黒のノワールがいた場合、どこかに隠している可能性があるという事か。
ブローチの石をどこに隠したのか……全然分からない。
やっぱり推理物が好きなだけで、名探偵にはなれないんだな……せめて何かこう、裏をかくような方法で犯人を追い込めればいいんだろうけど……。
「何でプールを調べさせてくれないんですか?」
「調べてもらってもかまわないんだがね。よく考えてみたまえ、もし水を抜けばその勢いでブローチの石まで流れ出してしまう可能性があるんじゃないかね?」
「石じゃないんです探してるのは」
「じゃあ、何をお探しですかな?」
「凶器ですけど?」
凶器????え?ラビさんはいつの間に殺した方法に辿り着いたんだろうか?毒殺だとは分かってるけど、結局どうやって毒を盛ったのかはまだ分かってない筈。
「何故プールに凶器があると思うのかね?」
「音がしたからですね」
「つまり、何かをプールに落とすか投げ込むかした音が聞こえたから調べたいと、そう仰られるのですな?それでは水を抜いてみるほかありませんか?」
「だが、それだとさっきも言った通り一緒に水流で流されてしまうかもしれんぞ?」
「自分が潜って探してきますけど?」
「仮にも毒が溶けているかもしれないプールを泳がせるわけにもいきませんな」
保安官と事務員さんを交互に眺めるラビさんの目つきが少し変わった気がして、何となく引き込まれるように近づくも、何やら小声ではなしているが、ろくに聞き取れない。
しかし、間もなくラビさんは水槽の方へと戻っていった。
結局、凶器は探さない方向で納得したんだろうか?
その時、コットさんがプールサイドからプールの中を必死に覗き込み始めた。
「どうしたんですか?」
「いや、よく見れば気合で石なり凶器なり見えるかもしれないと思ってさ。泳ぐのも水抜くのもダメだってなら、後はよく目を凝らすしか……」
「いくらライトが明るいって言っても昼間じゃないですからね……影の方とか真ん中辺とかは流石に見えないですよ」
「ぐぬぅ……でも手掛かりありそうなのって、もうプールくらいじゃないのか?」
本当にその通りだと思う。もし、手掛かりを身に着けていれば身体検査でばれるし、そうなるとどこかに隠すしかないが、果たしてそんな複雑な場所に隠すだけの余裕があったか?と問われれば、お互いがお互いを疑って監視しあっているようなこの状況では難しいだろう。
せめて自分のレーヴェに潜水装置をつけて置ければと、いつも後悔は先に立たない。
仮に毒が溶け込んだプールだとしてもドローンなら別に毒の影響は受けないだろうし、探る事は出来たろうに……。
そんな事を思いつつ、自分もプールの中に目を凝らしていると、急に屋敷の入口の方が騒がしくなり、あれよあれよという間に、制服の人達が集まってきた。
「ふむ、応援が来たようだな。皆さん大変お待たせいたしました。持ち物及び身体検査をした後お帰りいただく形になりますが、それでよろしいですかな?」
周囲のNPC達から一斉に安堵の声が漏れ聞こえてくる。
つまり、これで時間切れという事かと、がっくりしてしまう。
結局ブローチについた石も凶器も見つからず、殺人犯も分からなければ漆黒のノワールの正体も分からない。
全然ダメダメな結果だ。
せめて何か一つでも思いついて、みんなの前で披露してみたかったな……。
「すみません、一個気になってるんですけどいいですか?」
ラビさんの一個気になるが発動した。この状況でもまだ諦めてないって事か?
「ふむ、招待客を待たせているので、手短に頼めるかね?」
「ええ、結局自分達への依頼って何だったんですかね?腕と頭脳に自信のある人を集めた理由が知りたいです」
まさか、今の今までそれを知らないまま、色々話してたの?
ミステリーだってのは分かってたっぽいんだけど、そもそも依頼内容が分かってないって……。
「依頼内容を知らぬまま、来ていたのかね?」
「ええ、漆黒のノワールが何やら盗むって話しか知りません」
言われてみれば自分もそうだった。
「今回の依頼は、漆黒のノワールから予告状が届いたので、その盗みを阻止して欲しいという内容ですな」
そうだったんだ。普通に思ってた通りだった。何をいまさら確認する必要があったんだろうか?
「そうですか。それじゃあ、もう一個気になる事があるんですけども」
「困りましたな。あまり時間をかけられると……お客様達にご迷惑をおかけしてしまいますな」
「いえ、これで最後です。身体検査の後、あの水槽ってどうなりますか?」
何かずっと水槽にへばりついてると思ったら、最後までそれって……大丈夫なんだろうか?この人……。




