152.宝石『火星の秘宝』
町の一番高い場所の一角を占めるように高い壁で囲われた館は、町の風情とは少々違って、高級リゾートを彷彿とさせる大きなプール付きの建物だった。
建物のプールに面する側は全面ガラス張りで、調度品もやたら贅沢な感じ?
簡単に言うなら、海外の成金かマフィアの家みたい。
そんな家の主は、
「よく来たね!本来なら君達の様な者を家に上げるような真似はしたくないんだが、せいぜい役に立ってくれたまえ」
偉そうな態度の鉱床管理者だった。
管理者とかいう名前なので、てっきり雇われなのかと思いきや、家を見る限り地元有力者だったのだろう。
何やらプールサイドにふんぞり返って周囲を眺めているが、多分作業を見守っているつもりなのか?
というのも、どうやら漆黒のノワールとかいう怪盗が盗みに来るお宝を今夜この家でお披露目の予定らしい。
予告状が届いたんだからやめておけばいいものを強行するのが、お決まりなんだってアルバー君が言ってた。
プールサイドを行ったり来たりと古式ゆかしいって言葉で当たっているのか分からないが、いかにもなメイドさんや執事さんにコックさん達。
こういう格好は未来世界観でも変わらないんだな~等と思いながら、自分も作業を眺める。
時折、コットさんが目の端に映るが、どんな仕掛けで侵入してくるか分からない漆黒のノワールへの警戒だそうだ。
ジョンさんは特に何も気にした様子もなくプールサイドの椅子を一つ占拠して座ってるし、アルバー君は所在なさげに動き回る人達を避けながら、プールサイドをうろついている。
ちなみに、ベルさんと悪く無い変態の人は帰った。興味ないんだって。
ぼんやりと自分も海にでも行けばよかったかなとか思っていたら、ガラガラと大きな音がするのでそちらを見やる。
すると、例の食堂のおじいさんと手伝いの人らしき人たちが大きな水槽を押してやってきた。
「おお!来たかね!来賓をもてなすのに、質のいい魚は手に入ったかな?」
「まぁ、ぼちぼちと言った所です」
「なんだね……いつも贔屓にしてやってるというのに、随分としけた物いいじゃないか」
「ええ、それこそ時化てましたんで、それでも集められるだけの魚は集めて来ましたよ」
「当然だね。それじゃあ、その水槽はあっちに運んでくれたまえ!」
いつもニコニコのおじいさんが妙につっけんどんな感じがするのは、鉱床管理者が嫌いなのかな?
何となく水槽について行き設置するのを見届けると、水槽の中には魚が泳いでいて、下一面には黒い丸い石が敷き詰められている。
「何だい?何か用かい?」
「ああ、いえどんな魚がいるのか見てみたかっただけです。カレイとかは獲れなかったんですね」
「カレイは上がらなかったね。この辺じゃ獲れないんじゃないかい?」
……いや、前に料理してもらったけどな?その時そんなこと言ってたっけ?
何か食堂の店主さんも忙しそうだったので、話を切り上げて再びプールサイドで作業を眺めるもやっぱり暇だ。
「そもそも、怪盗は何を狙ってんだろ?」
「ブラックホールですな」
ふと、口から出た独り言に答えてくれたのはいつの間にそこにいたのか、事務の人だった。
「鉱床は大丈夫なんですか?」
「ええ、管理者がこの通りなのでお休みですな」
「ああ、お休みもあるんですね」
「当然です。働いたら休むそれが人らしい生き方というものでしょうな」
「交代制とかでは?」
「責任者が複数いればそういう事も出来るかもしれませんな。しかし鉱床管理者はかつてこの町の独立に大きく寄与した方の子孫ですので、そういう訳にも行かないのが実情ですな」
よく分からないが、仕事ってそういうものなのだろうか?それはそれとしてだ。
「ブラックホールって、あのブラックホールですか?」
「いえ、そのブラックホールではないですな。火星の特殊な宝石をそう呼ぶらしいですな」
「らしいってのは?」
「私も見た事ありませんので、はっきりとは申し上げられません。ただ、火星に伝わる噂で一目見ればどんな人の心も惹きつけてやまない不思議な石があるとされてますな。その中でも真っ黒い石をブラックホールと呼ぶんだとか」
へ~?何かネーミングセンスにセンスを感じないって言うか、もっと格好いい名前つければいいのに。
だって怪盗漆黒のノワールが狙う宝石が黒いからブラックホールって、ちょっとどうなんだろう?って感じがする。
もっと何か、新月の泪!とかそういうのが欲しかったな。
「新月の泪も中二っぽくはありますけど、そこまで格好いいかと言われると微妙かもしれませんよ?」
アルバー君に完全に心の中読まれたんだけど、何でだろうか?
「しかし、本当に漆黒のノワールは来るんですかね?」
「なんで?予告状出したんだから来るんじゃないの?」
「いや、それがお決まりではあるんですけど、この警備体制じゃ侵入は無理ですよ?」
「……アルバー君もお決まりの事言ってる?」
「そうじゃなくて、スタッフはあの管理者さんですか?あの人が直接雇用してる身内ですし、警備もどうやら殆どが鉱床警備の正規警備員みたいですよ」
「ほとんどって事は、見知らぬ人も交じってるんじゃないの?」
「いえ、あそこの保安官位ですね。あの人はこの町じゃ有力者の一人みたいですし、後はお披露目の客の中に紛れ込むくらいしか方法は無さそうです」
「一応方法はあるじゃん?」
「紹介状のない人は入れないみたいですからね~……偽造かまたは盗んだ上での変装か……とはいえ、そこまでの大人数でも無さそうですし」
「そうなんだ?」
「いずれにしても、お披露目が始まってからが勝負ですかね?」




