147.暗殺『うみねこって鳥らしい』
あくる日の事、いつも通り相部屋のNPCとドローン狩りに向かうと、自分の後ろを歩いていた相部屋のNPCが、そっと道を逸れた。
「どこに行くんですか?」
「何で背を向けたままで分かるんだよ」
お互い背中合わせで、大体5歩といったところか?
「今日のルートはこっちの筈ですよ」
「お前とは何だかんだここ数日上手くやってたと思うし、なんていうんだろうな?情に近い物もある。このまま気が付かなかったフリは出来ないか?」
できうる限りさりげなく、音を立てずに投げナイフを引き抜き、心を定める。
「なんか、猫を撃つんですよね?」
自分の言葉が引き金になるのは、分かっていた。
そのまま振り返ると相手も同時に、振り返りつつサブマシンガンを腰だめに構える。
流れのまま、相手のトリガーにかかる指とつながる腕の赤い点をめがけてナイフを投げつけヒットさせると、だらんと右腕が垂れ落ちた。
「クソが!」
それだけ言って駆け去る相部屋のNPCを追う。
正直倒してしまっていいのか迷いがあったので、以前詐欺師のお姉さんから言われた通り<急所>スキルを上げておいて、腕を狙ったはいいが、結局逃げられてしまった。
どうやら、足の速さは向こうの方が上らしく徐々に差をつけられてしまうが、何とか見失わず、<聞き耳>も駆使して足音を追うと、いつの間にか表に出た。
自分達の宿舎とはまた別の出口らしいが、正直なじみのない場所なのでちょっと困惑する。
幾重にも張られた金網と物々しい金属の壁、周囲は固そうな岩に囲まれ、何となく海の匂いのするそこは、砂塵舞う自分達が来た入り口とは大きく異なる風情だ。
ふと、目の端に相部屋のNPCが映り、壁を上るのが見えたので、追う。
「おっと、お前非正規だな?こんな所に何の用がある?っていうか、この先に進んだら捕縛させてもらうぞ?」
運悪く、別にNPCに見つかり声を掛けられてしまった。
モヒカンに独特な丸いゴーグルを掛けたNPCで、何となく雰囲気に緊張感もないし、人当たりも悪くない。
正直攻撃して押通るには、気が引けるお兄さんだ。
「あの……猫を撃つって人がいて……」
「猫?いやいや、この辺に猫はいねぇよ。初めて聞くいい訳だなそりゃ。センスは認めるが戻ってくれねぇか?」
どう説明しようかと迷っていると、後ろから事務の人が現れた。
「どういう状況ですか?」
「ああ、この非正規が猫を撃つとかいう人物を追ってるらしいんだが……」
「本当ですか?」
「ええ、さっきあの壁を上ってました」
自分の言葉を聞くと、すぐさま事務の人が駆け出す。
「この非正規警備員の身柄は私が保証しますので、一旦見逃してください」
そう言う事務の人を追って、壁へと向かう。
そこには一つ、金属のスライドドアがあり、その横のセンサーに事務の人が手の甲をかざすと扉が開いた。
どうやらIDを機械にかざす事で扉が開くようになってるんだなと思ったのだが、それもつかの間、壁の内側を駆けて、どんどん階段を上っていく。
どうやら壁の内側にはいろいろと設備が整っているようではあるが、一々見学する暇もなく、階段を駆け上っていくと、壁の屋上に出た。
自然物と見られる岩の天井がすぐ上にあり、よく見ると岩のつららが垂れさがっており、また向こう側には海が広がっている。
どうやらあの鉱床は海からでも入ってこれるのだなと、思って見回すと走る相部屋のNPCが目に入った。
とにもかくに何も考えずに追ってみると、サブマシンガンを構えたので、自分もクロスボウを構えて撃つ。
運が良かったのか、はたまたステータスのおかげか、相部屋のNPCの側頭部に綺麗にボルトが刺さり、一瞬の間を稼げた。
そのまま走り込み、ディテクティブスペシャルを構えてもう一度急所に向けて撃ち込む。
ターーーーーン
岩壁に反響し、いつもより間延びして聞こえる銃声と、そのまま横倒しに倒れ込む相部屋のNPC。
呼吸が荒くなり、その場に立ち尽くすと事務の人が倒れた相部屋の人の所へと向かう。
「まだ息がありますね。すぐに拘束しましょう」
「どうなってんだ?」
すると、いつの間にか壁端にいた別のNPCがこちらへと歩いて近づいてきていた。
「あなたに暗殺者が差し向けられていたんですよ」
「そうか」
「どういう事です?」
事務の人と壁端のNPCは簡単に分かりあえたみたいだけど、自分にはどういうことか分からない。
「えっとですね。彼はうみねこと呼ばれる狙撃手でして、体制側からは常に命を狙われる存在です」
「いわゆる賞金首ってやつだな。体制側にとっちゃ、煙たい存在なんだろう」
「ええっと……賞金首って、犯罪者とかじゃなくて?」
「いえ、あくまで体制側との小競り合いの中でお互いに手柄を立てすぎた者を賞金首としているにすぎませんよ」
「どうしても狙撃手は狙われやすい立場だからなしょうがない」
よくは分からないが、この目の前にいる壁端のNPCがうみねこっていう狙撃手で賞金首、それでそれを狙っていたのが相部屋のNPCって事か?
つまり、相部屋のNPCは体制側の人って事になるのだろう多分。
自分が考え込んでいると、壁端のNPCもとい、うみねこさんが話を勝手にまとめにかかる。
「まぁ、暗殺者を差し向けられるのはいつもの事だが、今回は中々にハードな状況だったらしい。この非正規の報酬には十分に色を付けてやってくれよ」
それだけ言うと、また壁端に戻っていったので、事務の人と元の壁中の階段へと向かう。
すると、相部屋のNPCがいつから意識が戻っていたのか、起き上がり壁から海側へと走り込み身を投げ出した。
一瞬の事で、自分も事務の人も追いつけずに、その落ちていく姿を追う。
すると何をどうしたのか、人の背に小さな金属の羽が生え、青い火が、
ゴーーーーーーーー!
っと音を立てながら人ひとり飛んでいく。
服装から相部屋のNPCだと分かるが、あっという間に海の方へと飛んでいき、そのまま姿が見えなくなった。
「やられましたね。地球政府の歩兵隊飛行ユニットがこんな所に隠してあるとは……」
何のことやらわからないまま、小さな点になりそのまま海と空の境目に消えていく相部屋のNPCを見送った。




