140.労働『鉱床警備』
金網の張られた窓から見える景色は相変わらずの赤い荒野。
ガタガタと小刻みに揺れながら走るバスの様な乗り物は、正直なところこの町に来た時に乗っていた多足ドローンより乗り心地が悪い。
自分の他にも見知らぬ人達が乗っているが、多分行先は一緒だろう。
ぼんやりと保安官との会話を思い出しつつ、到着を待つ。
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「この町の主な産業は何だと思うかね?」
「やっぱり海があるし、魚とか漁業じゃないですか?」
「それなら平和だったんだがね。結局のところ地球の連中が欲しいのはいつもこの火星で採れる鉱物資源さ」
「地球に売れる物であればそうなんでしょうけど、この町って独立したんじゃなかったでしたっけ?」
「よく知ってるね。だが独立と言うのは少々語弊がある。精々が自治を認められたってところだ。残念ながら独立するには我々には足りないものが多すぎるし、それらを手に入れるには、鉱床を確保して地球に売りさばく他ないのが現状さ」
「つまり、この町のどこかに金属を採掘できる場所がある?」
「そうさ。そしてそこの警備が君に与える仕事だ」
「警備?地球側の人達から?」
「それもあるが、それよりも話の通じないのがいるね?」
「……あっ!ドローン?」
「そうだ。地球と火星移民とドローンはいつも三つ巴の様に鉱床を取り合っている」
「警備するのはいいんですけど、そんな大事な場所だったらそもそも沢山人がいるんじゃ?」
「そうもいかんのさ。人的資源も有限なのでね。地球側の者にせよドローンにせよ大挙して押し寄せてくる分には、それなりに情報が入ってくるものだが、小競り合いにそう多くを割くことは出来ない」
「とはいえ、荒らされたり奪われたりしたら困る?」
「その通りだ。守るより、奪う方が難しいし必要な労力も多くかかる。だからあの手この手で、削りあい、小競り合い、奪うチャンスを待っているのだね」
「お互いに?」
「その通り、お互いにだ。そしてどちらも正義ではなく悪でもない。ただお互いに必要な物を求めているに過ぎない。地球側は枯渇してしまった資源、我々はこの星で生きる為の技術や物資、ドローンは何が目的か分からんがね」
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車が停車した反動で、我に返る。
飛び出し事故でもあったのかな?と思ったが、こんな荒野の真ん中でそんな訳あるまいと、すぐに思い直し外を見ると、いつの間にか建物の中にいるようだ。
バスの前方の扉が開き、順番に人々が降りていく。
最後に並ぶようにして自分も、バスから降りると下は赤砂の固い地面であり、建物だと思ったのは金属で出来た壁だった。
壁の上にはライフルを持った人物が、周囲を警戒しながら歩いている。
「諸君!よく来た!」
唐突に大きな声を張り上げたのは、いつの間にやらバスの前に立っていた紺の制服を着た恰幅のいい男性。頭頂部は剥げていてサイドから後ろにかけてはふさふさと言うか、茶髪の強い天然パーマが特徴的だ。
とりあえず何を話すのかと思い、そちらに向きを変えて気を付けの体勢で待つ。
「私はここの管理責任者である。これから数日間にわたって警備任務に就く諸君の身を預かる立場でもある。皆くれぐれも事故、怪我に気を付けて任務に就くように!」
それだけ言うと、くるっと向きを変えてどこかに行ってしまう。
「はい!それでは簡単にこちらの設備や仕事内容、報酬について説明しますのでついてきてくださいね」
代わりに黒いスラックスに白いシャツと茶色いサスペンダーの細身のおじさんがやってきて、ついてきて下さいとばかりに歩き出す。
自分達が入ってきたであろう壁とは反対に進むと、金網の張られた物々しい雰囲気の建物があり、その奥にはビル10階分以上はありそうな大穴が開いている。
「はい、じゃあここが内ゲートになります。ここでそれぞれIDを発行して貰ってください」
そう言うと、そそくさと金網の間の小屋のような建物に入っていく。
更に自分と同じバスに乗っていたNPCが、何故か別の扉から建物に入っていくと、続々と人が続いていくので、それに従う。
どうやら自分たちが通る側には何やら探知機の様なモノが設置されており、みんな大きな黒い四角の枠を通っていく。
自分も通り抜け、その先で腕を出すように言われて差し出すと、三次元コードの様なモノを張り付けられた。
「え?これ?」
「出る時に消しますのでご安心ください」
正直安心できないが、今はどうにもできないし素直に列に続いて奥の扉を進み建物内部へと入っていく。
中は全体的に白っぽい雰囲気だが、町とはまた違い、鉄筋コンクリートの建物に真っ白ペイントをしているような雰囲気、どこか病院か学校の様でもある。
そして自分を待っていたかのように集団が動き出すのでついて行くと、何故か自分の目の前にいたNPCが、さりげなく自分の後ろに行った。
なんだろう?と思ったが足音が徐々に離れていくので、そっと振り返ると、廊下の角を曲がって一人だけ全然違う方に向かっている?
もしかしたらお腹でも痛くて、トイレでも探してるのか?いやゲームでそんな事は無いか?
そんな事を思いつつ、やむなく自分もそのNPCを追って廊下の角を曲がると、誰もいない?
「HQこちらアルファ潜入に成功した。一旦スリープに入る」
どこからともなく声がする?多分さっきのNPCだよな?喋った事ないし、声を聴き分ける自信はないけども。
それにしてもスリープって事は寝る気なのか?まだ案内してもらってる最中なのに?
こりゃ、ついて行ったらまずいと、すぐに道を引き返して集団に戻った。




