13.外出『未来FPSの割りに地味』
銃砲店の店長が言っていたのは確か東の森だ。
この街の北が一番街区、そこから時計回りにニ、三、四となっているので、東に出たければ二番街区の先だろう。
一先ず街の真ん中の大通りを抜けて、東端まで行くと、大きな錆ついた金属の門が開いており、警備らしきNPCが両側に待機していた。
鼻まで隠れるヘルムに、厚いベスト、上から下までほぼ真っ黒い装備に、見た事のないゴツイ銃を両手に持っている。
何か一発でも撃たれたら死にそうなので、絶対に逆らわないようにしようと心に決めた。
「お前そのスカーフ新人か?」
その観察していたNPCに急に声をかけられて、ビクッと体が反応したが、自分は現状何も悪い事はしていない。
「そ、そうですが?」
「ここから先は街の外だ。準備は十分か?スカーフを見る限り溝鼠は狩れる様だが、この先は環境も厳しい、昼は暑く夜は寒いぞ。暗くなった場合の準備はどうだ?」
「いえ、あの。準備できてません」
「そうか。それなら環境実験区画より外には出ない事だ」
「環境実験区画?」
「ああ、元はと言えばこの街がすべての始まり、資材を投入し徐々にテラフォーミングを進める予定だったが、動植物の急激な環境適応により、予定より大幅に火星の環境は人に適したものとなった」
「は、はぁ……人より地球から持ち込んだ動物や植物の方が、早く適応したんですね」
「そうだな。ある時地球に近い環境を保っていた環境実験区を突き破り、勝手に更に広い土地へと伸びて行った植物達の始まりの地だ。今では朽ちたとは言え、完全な外よりは幾らか過ごしやすいだろう。新人の内はそこで獣なり虫なり狩って自活するといい」
なるほど、警備のNPCは若干怖そうにも見えたが、寧ろ秩序側と言うか、何もしてない自分には別に厳しくないようだ。
「すみません。保安官は荒い感じだったのに、雰囲気がちょっと違うんですね?」
「ふむ、我々は地球の正規兵だ。流れ者ではない。対して保安官は流れ者の取締りをしている土着の者だ。どうしても雰囲気は変わるだろう」
流れ者?もしかして自分は流れ者なのか?地球から火星の資源を集めに送られて来たんだと思ってたんだけど、何か違うな?とも思ってた。
何はともあれ、新人用の区域がある程度設定されているようなので、大きな通用門から外に出る。
「……密林じゃん」
門から出るといきなり密林って、こんなの絶対道に迷いそうなんだけど、皆大丈夫なのか?
恐る恐る木々の間を歩き、後ろを確認する。
兎にも角にも門が見えてるのが、救いだ。右も木なら左も木、隙間を縫うように歩くが、道らしきものが全くない。
ふと気がつくと、地面がボンヤリと光っている場所があったので、近づいてみる。
何であからさまに光ってるのか?普通のゲームなら多分アイテムが落ちているんだろうけど、果たして……。
まぁ、まだ門も近いし何かあったら逃げるしかないかと、心を決めて光っている地面を触れてみると、〔枝〕が手に入った。
確かにそこらに落ちているとは言っていたが、まさかこんなあからさまに拾えるとは思ってなかった。
よくよく周囲に目を凝らすと、あちこち一定間隔で落ちているので、どんどん拾っていく。
これで矢代が浮くかと思えば、楽なもんだ。調子に乗って枝拾いを続けていると、ふと嫌な音が耳につく。
慌てて、その場にしゃがみこみ音の聞こえる方をそっと覗くと、でっかい蜂がいた。
でっかいって言うのは、本当にでっかい。
普通でっかい蜂って言うとスズメバチとか精々がピンポン玉でも表せない程度の大きさだろうが、目の前の蜂はサッカーボールより更に大きい。
それが、ゆっくりと遠くを横切っていく。
まぁ、これがゲームじゃなければとにかく静かにしてやり過ごす所だが、確かさっき毒針も集めた方がいいと銃砲店で聞いたばかり。
ゆっくりとクロスボウを構えて、蜂を追い、撃つ!
何とか蜂の腹部にヒットさせると、こちらに気がついた蜂が一直線に向ってきた。
更に矢を番えて、二射目、三射目!そこで蜂が力を失って地面に落っこちたので、拾いに行く。
遠目でサッカーボールくらいかと思ったが、もう一回り大きい?ビーチボールくらいかな?
とりあえず触れてみると〔蜂の羽〕〔蜂の毒針〕が手に入った。
レベルが上がってSNSとDEXに振ったお陰か、結構な距離を保った状態で敵を発見して、更に攻撃もちゃんと全てヒットさせた。
これならどうにかなるかと少し自信を取り戻し、枝拾いを続ける。
すると、今度はなにやらカサカサと葉を擦り合わせるような音が聞こえてくるのだが、さっきの蜂の様に飛んでいる訳じゃないので、敵の姿が視認出来ない。
さて、どうするか?
何しろクロスボウは攻撃力が低いと最初から聞いているし、接近戦じゃ多分不利だろう。
一旦逃げるのもありだが、どんな生物がいるのか見てみたい気もする……。
アイテムボックスから〔餌〕を取り出して、設置。少し距離を取って様子を見ると、カサカサと言う音が徐々に近づいてきた。
犬にしては、何かもっさりとしてると言うか、何で背中がアルマジロみたいなんだろう?
火星に適応した謎生物にちょっと心揺さぶられるが、獣も獲っていい筈だし、やるしかない。
クロスボウを構えて、ゆっくり狙いをつける。
何故か背中だけ毛が生えておらず、甲殻のようになっている事から、多分そこだけ防御力が高いのではなかろうか?
とにかく餌を食べる姿をよく見ている内に食べ終わったのか、ふと空を見上げた。
何となくその顔に吸い込まれるように、引き金を引くとあっさり狙った場所を矢が貫き、その場に倒れる獣。
近寄って触れてみると〔狸の皮〕〔狸の甲殻〕〔狸の肉〕が手に入った。
「何で狸に甲殻があるの?」
思わず呟いたが、聞く者も応える者もいない。遠くから初めて聞く鳥の鳴き声が少しだけ響いてきた。




