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135.見学『この町の決闘』

 赤い荒野の果てに辿り着いたのは、妙に白い町だった。


 前の街同様見下ろす形に海辺まで広がる町の規模は、街と言っても差し支えない程に広く見えるが、何が違うのだろうか?


 「町って割に広くて驚いてるか?」


 コットさんが自分の思っている事を見透かすように訪ねてきた。


 「この町は火星土着の連中にとっては特別な町なんだよ。ストーリー上の事だが、地球の体制側からの弾圧に耐えかねた土着連中が解放運動に成功した象徴なのさ」


 「何でいつも先に言うかね!ネタバレし過ぎは良くないんじゃないか?」


 「分かってる。この町はラビにとっても歩きやすいだろうし、あまり余計な事は言わないさ。ただ、時計台は見せておいた方がいいだろ?」


 「まぁ、そりゃ観光スポットだし、この町に来たらさすがに最初に行っておかなきゃならんだろうけども」


 なんか既に二人の間では自分をどこに連れて行くか決まっているらしいが、先に質問してみてもいいだろうか?


 「あの……外は赤い砂が舞ってるのに、何でこの町はこんなに白いんですか?」


 「気になるのそこか?」


 「さすがラビ!目の付け所が違うな!この町は海から荒野に向かって海風が吹いてるから、砂が押し戻されるんじゃないか?」


 「……???昼夜で風向きって変わらないんですか?火星の気候って昼暑くて夜寒いんだし、夜は陸風になりそうですけど?」


 「ラビは変なところにこだわりがあるよな」


 「夜間はあまり砂が舞わないんじゃないか?」


 「寒い方が空気中に水分が存在しなくなって乾燥するのにですか?」


 「うん、俺は分からん」


 「俺もラビに説明できる程の火星知識ないって、今自覚したわ。とりあえずそれについてはNPCにでも聞いてみてくれ。まずはこの町の名所に行こう」


 どうやら、自分の疑問はNPCにぶつけるしかないという事なので、一旦保留にして素直についていくことにする。


 立ち並ぶ白い家はどうやら木造ではない。鉄筋コンクリートにも見えないし、何て言うか勝手なイメージ地中海みたい。


 外は赤い砂の舞う荒野なのに、この町だけ切り抜かれたかのようにリゾートな雰囲気を醸し出している。


 いや、別に住んでる人からしたらリゾートでもなんでもないのか。


 でこぼこした石畳が緩やかなカーブを描く道になっていて、正直見通しがいいとは言い難い。


 ただ時折開けた所からのぞく景色は、やっぱりどこか明るさを感じる。


 いくつのカーブを曲がり、階段を下りたか……急にやけに広い場所に出た。


 「ほれ!アレがこの町の名物の時計台さ」


 コットさんが指さす方を見上げると、確かに大きな時計と大きな金色の鐘があった。


 「鐘もあるんですね」


 「ああ、時間になると自動であの鐘が鳴り響いて、町中に時間を知らせるのさ」


 いきなりアナログな話になった。


 だって時計くらい普通にどこにでもありそうなのに、何でわざわざ鐘で時間を知らせるんだろうか?


 中々謎の多い町だ。これは俄然情報収集に勤しむ必要が……。


 「ラビ!ちょうどいい事に、これから決闘があるらしい。見学に行こうぜ」


 一緒に歩いてたはずなのにどうやって嗅ぎつけるのか、ジョンさんが決闘の見学に行こうと誘ってくる。


 断る理由もないのでついていくと、町の高低差を生かしたような作りの丸い広場に出た。


 高い方から放射状にいくつも席があり、既に結構な数の人が見学していて、中央の一番低い場所には円形の台の様なモノがあり、そちらを見やる。


 適当に空いている席に腰かけると丁度台の両側から人が進み出てきた所だった。


 間に立つ人が両者を程よい位置で止めているが、多分この人が立会人だろう。


 周囲の空気で何となくそろそろ始まると察し、少し緊張しつつも目を離さないようにしていると、


 ガチッ……


 ゴーン……ゴーン……ゴーン……


 確かに町中に鳴り響くであろう大きな鐘の音がする。


 大きい割に耳につんざくような事は無く、寧ろ心地よさすら覚える音なのだが、視線の先では一人がその場に仰向きに倒れた。


 一つ目の鐘の音が鳴るのとほぼ同時だったろう。ゆっくり崩れ落ちる様はスローモーションのようにも見え、町の明るさとは雰囲気がちょっと違う気もする。


 「見ての通りだ」


 「普通に決闘なんじゃないですか?」


 「この町じゃ時計台の鐘を合図に撃ち合うのさ。それ以外の決闘は認めていない」


 「何でまた?」


 「そうだな~?勝手な私闘は禁ずるが、戦う事は否定してないって事じゃないか?あの時計台その名も解放の時計と革命の鐘っていうんだから、戦って勝ち得た町なんだろ」


 勝手に明るい町だと思い込んでいたが、結構血なまぐさいのかもしれない。


 赤い砂にも血にも染められない白い町で、何をしようか?

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