134.機車『海から離れれば無法地帯』
窓の外を眺めれば、ずっと変わり映えのしない妙に赤い荒野が無限に広がっている。
時折、風にあおられて巻き上がった砂煙の向こうに影の様なものが見えるが、生き物にしては奇形すぎるし、多分野良ドローンか何かだろう。
自分は今、車とも言い難い多足歩行の大きなドローンに乗って移動中だ。
元々、海辺の街に行った理由が、素材の受け渡しや新たな装備の新調だった所に、新たな毒やなんか手に入れられたりと大いに思わぬ収穫もあり、中々離れづらいい街だった。
ちなみに例のアンダーアーマーだが、最終的にはこうなった。
〔鮫肌保護服〕・・・STR+10 VIT+5 水中活動 寒暑適応(小)
自分の現段階ではかなり良い物らしい。勿論服装備なのでステータスの補正もいいのだが、寒暑適応(小)があるだけで、マイルドな気温帯なら昼夜いけるとか。
そんなこんな、本当にあの街でやる事もなくなった自分は、またジョンさんやコットさんと一緒に次の町へ向かう事にした。
『時計台の町』
詐欺師風のお姉さんおススメの町だが、コットさんがジョンさんに伝えると、ちょっと表情が変わった様に見えたが、気のせいでは無いだろう。
確か、ジョンさんも勝ったことがないとかいうクロノス?とかいう王者がいる町だ。
ちなみに、一旦最初の街経由で、黄金の森の先に向かう案もあるにはあった。
向こうの方が森や草地が多いので、自分向きじゃないか?っていう提案だったものの、時計台の町には海があるらしいので、自分にとっては同じ事だって結論に至った。
しかしまぁ、どれだけ考え事しても一向に風景が変わらない。どこまで行っても赤い砂塵を巻き上げる荒野。
砂と石ばかりで、時折隙間に何か草っぽい物も見えない事は無いが、普通の生き物じゃそうそう生きられそうにもない環境に見える。
そして今乗ってる乗り物は、誰かが組み上げた大型ドローンのバスみたいな奴で、席は12席、中はガラガラ、武骨な金属の内装に申し訳程度の丸い窓がいくつか嵌めてあるだけ。
牛車の牛の様な攻撃力は皆無らしいので、この辺は当たり前の様に機車強盗が出るらしい。
以前より一段階上がったフィールドっていう話だし、さもありなん。問答無用のPKゲームが本格化しただと考えよう。
幸いと言うか、一応客席の装甲だけはかなり厚いようなので、梯子を上り客席の屋根の上から並走してくる強盗を撃つっていうのが、基本の迎撃戦らしいのだが、ちょっと興味ある。
コットさんはクロスボウじゃまず無理だからやめとけって言ってたけども、ジョンさんも乗り込ませてハンドガンでやりあった方がいいって言ってたけども、自分だって薄々気づいてたけども……。
そんなこんな多少は警戒して外を眺めつつの旅にすっかり慣れて、ちょっとうつらうつらしていると……。
「来たぞ!」
「本当にあの連中、どうやって乗客が乗ってるの見分けてるんだかな?」
ジョンさんとコットさんの声にハッとし、窓から外を見るも今のところ代わり映えはしない。
ただ、確かに機車の多足の動くガシャガシャした音に交じって、モーター音の様なモノが外から聞こえる。
「後ろですね。ちょっと屋根行ってみます」
それだけ言って梯子を上り、体を屋根にへばりつけるように匍匐で後方が見える位置まで這っていく。
すると、車が三台V字に並んでこちらを追いかけてきているのが見える。
確かにクロスボウで撃って当たるか微妙な距離感。いや当たらない事は無いのだろうが、変に山なりに撃てば頭上を越えるだろうし、真っ直ぐ打てば手前に落ちそうな嫌な距離って感じ?
まぁ、やりようはあるか?
まずは手始めに、目つぶしの粉を撒き散らす。
お互いそれなりのスピードで走っているので、あっという間に後方の車に乗っている人たちを巻き込み、何人かが目を押さえているようだが、クラッシュしないのは運転が上手いから?
……いや、何か車が自動で走ってるように見える?
それであれば……久しぶりの〔棘罠〕を取り出して、適当に撒きまくる。
最初はあっさりと踏みつぶして進んでいた車だが、次第に様子がおかしくなり、一台が完全に遅れるようになった。
どんどん引き離していくのを見るに、多分だが車のタイヤ辺に蓄積ダメージかなんかで破損したんじゃないだろうか?
すると、二台が分かれ左右から徐々に距離を詰めてくる。
いよいよ撃って来るのかと思い、緊張感を高めつつ、新罠〔海月棘罠〕のお披露目と行こう。
これは、地上だと細くて色もない糸みたいな罠で、設置しておくと蜘蛛の糸が絡まったかのような感触でしかないのだが、絡まったが最後小さいとげが刺さって外せないし、徐々に麻痺毒が回っていくって代物だ。
コイツを網を広げるようにまず右に投げつけると、多分嫌な感触なんだろう必死に剝がそうとするが、思いっきり顔に当たってるので、多分無理だ。
その内、助手席の一人が動かなくなってしまった所為か、徐々に車が離れていく。
その間にかなり距離を詰めてきていた左側の車の対処に向かうと、既に客席の扉から飛び移ろうとしていた。
しかし、発砲音が一つ鳴り響き、そのまま飛び移ろうとしていた一人が荒野に投げ出された所で、強盗とみられる車も停車した。
後はただ遥か後方に消えていく強盗を見送るばかり、あっという間にその姿も見えなくなった。




