131.時間「大量だったし、良しとするしか」
目の前の青い蟹はただでさえ堅そうだし、デカくて体力もありそう。
そうなると、自分の戦う手段は限られてくる。
一手めに選択するのは〔灼粘液〕だ。
片手に瓶を取り出して、放り投げると青蟹も何かを察するのかハサミを振り上げて、撃ち落とす。
だがその勢いで瓶は割れ、ハサミから上半身にまでまとわりついたそれが、音を立てて青蟹を焼き始める。
するとその場で急に暴れ出した青蟹に、やっぱりよく効いているなという安心と、エフェクトが強酸の時に似ているな?という考えがふと思い浮かぶ。
とりあえず、効くならともう一個放り投げると、それは回避できずに胴体からニョキッと飛び出した目まで跳ね、本格的に大暴れし始めた。
このまま押し込むか、はたまた矢を撃ち込んで麻痺させるべきか、ちょっと逡巡した隙に、大きくハサミを振り上げる青蟹。
十分な間合いを取っていた所為か、あまり警戒をしていなかったのが悪かった。
水面に叩きつけられたハサミの衝撃で、波立った水が襲い掛かってきてあっという間に壁に叩きつけられた。
気づいた時には尻もちを付き、胸まで水に浸かっていたが、同時に近くに小魚が浮いているのが見えた。
どうやらこの層にも上層程でないとはいえ、小魚がいたらしい。
ふと、自分に影がかかり、そんなこと考えてる状況じゃないのを思い出した。
両ハサミを振り上げた蟹が、日を背負い妙に黒く感じる。
その目の生えるちょうど中間くらいだろうか?赤い点に気持ちが引き込まれ、投げナイフを引き抜いて、投げつけた。
ビクッっとなり、動きを止める蟹に急所って人間と同じなのかな?なんて思いつつその横をすり抜ける。
そこで、大きく息をつきながら一旦態勢をを整えると、再び動き出した青蟹が、短い脚を何本も使いながらこちらに振り返る。
その間に〔灼粘液〕を用意し、投げつけ更に距離をとる。
案の定、特効の様で苦しんでいるところに、クロスボウを撃ち込むと、あっさりと身の奥まで貫く。
胴体に片っ端から麻痺毒を塗った矢を撃ち込みまくると、とうとう大人しくなり、ひっくり返ったので<解体>タイムだ。
〔Blue Crab〕
青い、青い……蟹だな。多分だけど。
さっきまで戦ったやつよりずいぶん小さくなっちゃったけど、紛れもなく蟹だ。これは多分食材って事かな?
ちょっと甲殻とか、爪とかで素材になるかな~とか期待した自分がいたが、ダメだったか。
もしかしたら〔灼粘液〕でボロボロにしちゃったていうアレかな?これまで素材を集めてきた経験から何となくだけどもそんな気がする。
いつの間にか水も足首くらいまでしかなくなっていたので、さっさとケーブルカーに向かい、階段でもう一層降りていく。
すると、次の層はかなり水が減っていて、屋根の上から狙い撃つにもやや遠い気がする。
まぁ、ここまででも成果は十分だし、やるだけやってみるかと、歩を進める事にした。
2層の通路は浅瀬の小魚、3層の通路は一抱えある鮪とキラキラ光る結構大きめの魚に、やたらデカい蟹。
つまり段々、敵のサイズが大きくなる可能性を考えた方がいい。
ならば距離が遠い方が、漁はしづらくとも安全な可能性が高いし、有り!という結論に至った。
ここからはのんびり流すつもりで、適当に水の中を眺めていると、時折やたらでっかい魚影が蠢いている。
一つは完全に分かった。
前に戦った大蛇だ。どうやら水の外には出てこない様なので、スルーしかないだろう。
〔灼粘液〕を大量に流し込んでまた倒してもいいが、それを<解体>しに行くとなれば、一旦水路に降りなければならないし、そうなると他の巨大生物に絡まれる可能性もある。
やめとこうと目をそらし、そのまま歩いていると、またもやでっかい魚影っていうか、海面から突き出た大きなヒレ。
誰もが想像する危険の象徴、サメさんだ。
さんを付けた事には特に意味はない。何となくヤバい雰囲気を感じたからとしか……。
突然グワッと海面から顔を出したサメは牙をむき出しでこちらに突っ込んできて、建物を齧り取り、倒壊させる。
そのまま足場を失った自分は運良く?それとも悪く?水の中に落ちた。
大急ぎで倒れた建物の瓦礫の山に登ると、前後を大蛇とサメに挟まれている。
サメが顔をまたもや水面から出し、瓦礫の一部を破壊して水に流す。
大蛇はそこらを回遊して、完全にこちらを狙っていると分かる動きを見せる。
再び、サメが瓦礫を崩し、自分の足場が減っていく。
やるしかないか……。
やたらドキドキと脈打つ鼓動を落ち着かせるのを諦めて両手に〔灼粘液〕を持って、待つ。
サメが再び口を開けて向かって来た所に、瓶を投げ込むとあっという間にその牙で砕かれ、その場でのたうち回る。
島でサメすら殺す粘液だと聞いてなかったら、もっと焦っていただろうが、今回は攻略法を知っている。
そして、蛇!お前もだ。
〔灼粘液〕の瓶の蓋を開けて水に流し込むと、その場で暴れまくる。
その後も〔灼粘液〕で二体の狂暴生物の動きを止めていると、次第に動きが弱くなり、最後には腹を上にして浮かんできた。
〔大海蛇皮〕〔人食い鮫皮〕
手に入るものが、いまいち数少ないのはやっぱり〔灼粘液〕多用問題なんだろうか?
しかし、自分の手持ちの道具じゃこれが精一杯なんだよな~。
いくら毒や麻痺が前より強くなったとはいえ、両手で抱えるサイズに3発必要って事は、この巨大サイズ生物だと、もっと必要と見るべきだ。
やっぱり、もっと強力な弓と強力な薬が必要か?
そんな事を考えている内に、すっかり水も引いた。
流石にこれより下層に向かうのも怖いし、のんびりと歩いてケーブルカーの発着所から屋根に上り、海を見ると白い壁の様な生き物が、大砲に攻撃されながらも微動だにせず、そこに佇んでいる。
突然、ゾクッとしたものを感じ、視線を遠く左の方に移すと、何故かその白い巨大生物と目があった気がした。
そのまま、目が離せずにいるとゆっくりと、海に戻っていく。
大砲の音も消え、何の気配もなく、遠く波の音のみが作り出す静寂に、そこがどこだったかも忘れ一人座り込む。




