12.矢弾『自給自足から始める生活』
「ねぇ、このスカーフってダサくない?」
「うん、あまり格好良くはないよね。でも新人の印みたいだし、一応つけておいた方がいいんじゃない?」
「まあね~、とりあえずネズミ?は倒したから次はどうする?」
「ん~やっぱりまずは弾代稼がないと、結構使っちゃったじゃん。当面鼠狩りに集中してある程度資金貯めるのも一つだよ」
「え~やだ~あそこ臭いじゃん!他行こうよ!外には何かないの?」
「最初っからそんな金策向きの敵はいないみたいだし、地道に保安官舎でクエスト受けるのがいいと思うけど、もしドロップ品で稼ぐなら、食べ物系は獣でしょ?銃の部品とかならドローン、あとは毒は植物?とか蛇とか虫とか……」
「毒なんて何に使うの?皆銃もって撃ちあってるのに、食べ物にでも混ぜて食べさせるのかな?」
「さぁ?使う人がいないもの集めてもお金にならなさそうだし、ドローンがいいのかな?」
「そうしよ!ドローンはどこにいるの?」
「西かな?廃棄された工場地帯があるって、攻略にあった気がする」
「よし!行こう!」
何となく聞き覚えのある女の子達の会話を盗み聞きし、ちょっと恥ずかしいと言うか、うっすらとした罪悪感と背徳感を誤魔化しながら、自分も次の事を考える。
何しろ今自分が持っているのは、最初のお使いクエストで貰ったパンや何かの食料がいくつかと、最初から持ってる銃のホルダーが何種か、以上だ。
鼠狩りに矢を使い果たし、手持ちの1500クレジットの使い方次第で、また詰んでしまう。そんなギリギリの状況で、今まで通り行き当たりばったりやっていたら、ついには誰からも見捨てられてしまうだろう。
せめて.38弾1発と矢位は買い揃えないと仕方ない。さっきの話を聞く限りドブネズミ駆除の仕事は何度も受けられるらしいし、最低限身の回りの物を揃えるまでは、ひたすら繰り返すのも手かもしれない。
一先ずアイテムボックスからパンを一つ取り出して、食べる。
モサモサとした、味も何もついてないパン。出来れば水が欲しい所だが、今はそんな贅沢すら言えない。
寧ろそんな逆境が自分に力を与えてくれる気すらして、歩き出す。
まずは、新人に優しいガンスミスの所だ。何しろ矢がなければ何も始まらない!……残念ながらまだ店は開いていなかった。
仕方ないので銃砲店へと向う。流石に武器屋なら矢も弾も売っているだろう!売ってなかったら仕方ないまたお使いクエストだ。
「イラッシャイマセ 何ヲ 御求メ デスカ ?」
「あれ?前と変わってる?」
「常連様 ノ 顔ハ 記録 サレテイマス 店長ニ 御用 デスネ」
「あっ!ちが……」
『ピーンポーンパーンポーン!店長!一階にお客様がお見えです。至急お越しください』
「またお前か!そのスカーフを見るに一応新人を名乗れる程度にはなったらしいが、人様を呼び出そう何ぞ100年早いってんだ!それで何の用だ?」
「す、すみません!弾と矢が欲しくて来ました」
「そんなもんそこのソレに言えば幾らでも出てくるだろうが!もしかして<製作>について聞きたいのか?」
「えっと……?」
「まぁ、確かに矢も弾も<製作>で作れるが、弾に関しちゃガンパウダーが必須だ。新人の内は作れる代物じゃないから高くても弾を買え、んでお前はクロスボウ使いだから矢だよな?最低限枝かシャフトを持ってこい。もし出来るなら東の森地帯で蜂を狩れば、毒針も手に入るだろう。そうすりゃ毒矢も作れる。その他にも毒類には色々種類があるが、俺は専門じゃない、他に尋ねてみるんだな」
「枝やシャフトって言うのはどこで手に入りますか?」
「はぁ?枝だぞ?森以外どこで手に入れるってんだ?シャフトは西の廃棄された工業地帯だ。どちらもそこらで拾えるが、火星に順応した植物や暴走するドローンなんかを倒して手に入れたほうが、より良い素材が手に入る。そんな所か」
「ありがとうございます。それじゃあ.38弾を一発と矢を売って欲しいんですけど」
「.38弾1発 ボルト50本セット 合計デ 110クレジット デス」
「え?安い?矢って2クレジットなんだ」
「さっきも言ったろうが、ガンパウダーと金属加工が必要なんだから弾の方が高いに決ってる。とは言え、うちで売ってるのは無改造の通常弾だがな。この先より強力なドローンや火星に順応した獣を倒すなら改造弾が必要になってくるだろう。そういう時はガンスミスでも訪ねるんだな」
思いの他色々と話を聞けてよかった。
現状自分はまともに銃を撃つことすら出来ないし、他人より後れを取っているのは間違いないだろう。
まあそれならそれで、マイペースに素材集めから初めて、少しづつ武器を強化していくのも悪くない。
まずは自分で矢を作れるようになる所から、あとチラッと聞いた毒矢と言うのも気になる。何しろ毒餌は作れずただの餌しか作れないのが現状だ。
ふと銃砲店の出入り口に姿見が設置されているのに気がついた。
最初期から装備している地味な色の服に、赤砂色の髪、そして増えたのが首元に巻いた赤いスカーフ。
何となくそのスカーフに触れて、思う。
「これって、ダサいのか……」




