122.調合3『もう一段上に行く時かも?』
「婆さん帰ったぞ!」
「思ったより早かったじゃないか。海藻一個だけ毟って帰ってきたんじゃないだろうね?」
「んな訳あるか!こちらさん初めての割に筋がいいぜ」
薬屋さんに戻り、回収してきた物をとりあえず一通り並べていく。
「ふん!確かに腕は悪くないようだね。じゃあさっそく薬作りといくかい。よっこらせっと……あんたも興味あるなら色々教えてやるよ」
そう言いつつ手招きするので、ついていこうとすると、
「〔灼粘液〕あるなら白身も手に入れたろ?それ調理してやろうか?」
「え?ありますけど……」
「そういえば言い忘れてたな。俺はすぐそこで食堂やってんだわ。腹減ったらいつでも来な。あと夜なら手も空いてるから、夜の漁に出たい時も声をかけてくれれば船を出すぜ。まぁ幾らか頂戴するがな」
「何言ってんだい!恩人なんだからタダにするくらいの気前の良さは無いのかい?」
「こっちだって生活かかってんだよ婆さん!」
「いくらくらいですかね?」
「おっ!一応一晩500クレジットでどうだ?」
「それなら、ありがたく利用させてもらいます」
「ほらー!こちらの方は腕がいいだけじゃなくて気前もいいんだって!それじゃ、礼代わりっつったらアレだけど、旨い飯用意すっから!」
という事で、拾った〔高級白身〕を渡す。
あっと言う間に店から出て行った太め男子を尻目に、ゆっくり店の奥へといくお婆さん。
「全くお調子者なんだからねぇ。あんたには世話になったよ。私からも礼をさせとくれ」
「いえ、あの……お構いなく」
「ふふ、いいのさ。ここいらの悪ガキ達も皆、孫みたいなもんだからねぇ。生意気だけど可愛いもんさ」
「はぁ……ところでこの島って何なんですか?急に連れてこられたんで、何にも分からないんですけど」
「そうなのかい?そそっかしいからねぇあの子も。この島は遠い昔は資源が一杯取れて、たくさんの人が地球から移民してきて住んでたんだとよ。でも、まぁ取れば枯渇するのが当たり前。今じゃ基地に魚を売りながら生活する小さな漁村さ」
「皆が家族っていうのは?」
「こんな辺鄙な場所に来る人間なんて少ないからね。代々住んでる者がほとんどなのさ。何度か追い出されそうになった事はあるんだけどね。銃を持たず、魚を捕って納める事で、何となく自治してるって感じかね」
「スラムみたいだと思ったんですけど、漁村だったんですねぇ」
「ああ、火に当たってる連中かい?海に入って体が冷えたからだろ?もしくは貝でも焼いてるんじゃないかね?島周辺で結構採れるから、金がなくても食べられる貧乏飯みたいなもんだけどね」
「ネオンがバチバチいってるのは?」
「あれはそういうのが趣味な変わり者がいるのさ。まぁ変わり者でも孫みたいなもんだけどね。廃品回収屋をやってるから、ドローンの素材でもあったら持っていきな。喜ぶよ。愛想は無いけどね」
成る程な~初心者の街の親切な人達みたいな感じか。不愛想だけど何でも教えてくれる人達だ。
そんなこんな話している内に、<調合>用の作業台が置かれた部屋に入る。
そして、おもむろに赤い海藻を取り出して作業台に乗せると、赤い粘液が出来た。
「これが、火傷に効く薬さ。使い方は簡単、塗るだけ」
「ああ、軟膏みたいな感じですね」
「そうだね。それからあんたが採ってきたこっちの海藻……」
そう言いながら細長い海藻を取り出して、作業台に乗せると白い粘液が出来た。
「これはどんな効果があるんですか?」
「乾くと固まるんだよ」
「???」
「一つは出血部に塗って血止めだね。もう一つは毒やなんかを混ぜて鏃に塗れば、毒矢を作れるって所かね」
「成る程、これが海でも使える毒矢の元?」
「そうだね。でもあんたの持ってる液状の毒じゃあ無理だよ。薄すぎて効果は出ないね」
「え?自分の毒って弱いんですか?」
「弱いのとはちょっと違うかもね。気化させたり、服の上から浸透させるならそっちの方がいいよ。塗る毒となるとそれなりの毒性がないと意味がないんだよ」
「その、毒性の高い毒っていうのは、どこで手に入ります?」
「海だね。礼代わりといったらなんだけど、この辺の薬や毒には詳しいし、興味があるならいつでも教えるよ」
そうか、やっぱりこれはクロスボウを使う人用のクエストだったんだ。
一つ上のゾーンだって聞いてたし、自分の毒も一つ上に行かなきゃいけないって事だ。
あれ?でも、海じゃなければ、今まで通り液体の毒を撃ち込めばいいんじゃ?
「あんたのその中空のシャフトを改造した矢じゃ、正直なところ攻撃力が低すぎて、そうそうもたなくなるよ」
また顔色を察せられて、先に答えを貰ってしまった。
「じゃあ、どういう矢を使えばいいんでしょう?」
「そりゃ身の詰まった重い矢だろうね。いくら銃ほどの威力が出ないって言ったって、全くダメージのない武器じゃ牽制にもなりやしないからね」
重い矢を飛ばすには……強い弓が必要になるだろう。
結局一周回って、より強力なクロスボウを手に入れなければならない訳だが、とりあえず今は目の前の毒と薬に取り掛かろうか。




