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119.師匠『色々教えてくれる人はいれども』

 取引所の使い方も知り、いよいよやる事がなくなった。


 街の一番高い場所……高速リニアの駅から、街と海を眺めていると、いつの間にか夕焼けに赤く染まっている。


 武骨で物々しい街でも、サンセットは趣があるんだな。


 そんな事を思いつつ、赤く照らし出される街を眺めていると、


 「あー!いたー!」


 甲高く、街の喧騒の中でもはっきり聞き取れるような声が、耳に届く。


 振り返れば、女子二人組がいつも通り仲良さげに並び、手を振っている。陽キャってのはこういう人の事を言うんだろうか?


 「素材屋さん!例のブツありますか?」


 小走りで駆けよってきて、不穏な物言いだが〔天蚕糸〕の事なのは先刻承知している。


 「ありますけど、いくつ必要ですか?」


 「あるだけ?かな?」


 「ねぇ!ちゃんと計算した方がいいよ!この前みたいに服作って代わりになんて、ダメだよ!」


 「ああ、それならちょうど作ってほしい物が……」


 「ちょっと待って二人とも!」


 女子二人組と話していると、別の女性の声がする?何となく振り返ると、おさげに眼鏡の女の子?


 「あ!ごめん師匠!この人が素材屋さん!」


 あっという間に一言で紹介されたが、師匠?


 「ごめんね。素材屋さんもはじめましてだもんね。私たちの服飾の師匠のカスミさん!服の素材を探してるから、素材屋さんを紹介したくて……」


 「あ、ああそういう事でしたか。よろしくお願いします」


 「こちらこそご丁寧にすみません。カスミと申します。でも師匠っていうのはこの子たちが勝手に言ってるだけなので……」


 なんか、二人と違って静かで温厚そうな人だ。


 「師匠は師匠だよ!服飾の事なら何でも知ってるもん!織物作るのだって師匠がいなきゃ無理だし!」


 「織物?」


 「そう!私達もここらで一気に服飾生産の階段駆け上がる為に、難易度高めの織物に挑戦しようと思ってるんだけど、JPサーバーオリジナルの着物系なら、効率よく熟練度とか経験値とか稼げるらしいし、取引所で海外サーバー向けに売れば高く売れるって、そういうの全部師匠に教わったの」


 成る程ね。それで急遽絹が必要になったのか。


 「それで師匠の方は、何をお探しですか?」


 「え?私ですか?実は彼女達と出会ったのもそれきっかけなんですけど〔羊毛〕が欲しくて……」


 「素材屋さんならいくらでも持ってるよって、今回紹介することにしたの!」


 「……〔羊毛〕なんていくらでも手に入るのに?」


 「え?」


 「あ、あの!何て言うか素材屋さんは素材の専門家なので、ちょっとアレなんです!」


 ちょっとアレとは何だろうか?気になるところだが、とりあえず〔羊毛〕と〔天蚕糸〕なら山ほどあるし、全部売ってしまっても構わない。


 それぞれHIMARIさんに〔天蚕糸〕100個とカスミさんに〔羊毛〕500個渡す。


 「ひ、ひぃ!こんなに買うほどお金持ってません!」


 すると、カスミさんから悲鳴が上がった。


 「あ、じゃあ別にあまり物なので差し上げますよ」


 「ダメだよ!前にも注意されたじゃん!ちゃんとした値段で売らないと!」


 「うん、素材屋さんはそういう所がダメだと思う」


 善意の申し出に批判の声が上がり、どうしたものか困ってしまう。


 「師匠!素材屋さんは物々交換もありだし、何か作ってあげればいいんじゃない?」


 「え、え?でも50万クレジットの物なんて、どうしたらいいか……かなり上位の装備になっちゃうけど」


 どうやら女子二人組はこの前みたいに、素材と生産物の交換を言ってるようだが、それなら一個頼みたい物がある。


 「それだったら、スカーフかマフラー作れませんか?」


 そう言いながら、藍の瓶も一緒に差し出す。


 「え?ナニコレ?」


 「黒?青?液体からスカーフを作るの?」


 「ああ!藍染ですか!できますけど、これで50万クレジットは……」


 どうやらカスミ師匠は藍染を分かるらしい。正直値段なんてあってないものだし、使わないものなのだから、交換で十分だ。


 「いいです。それじゃ藍染と交換で」


 いいながら、藍の液体と〔羊毛〕をあるだけ渡す。


 「え?私達は?」


 「特にないですけど」


 「そういうと思ったから作ってきた!」


 そう言ってHIMARIさんから渡されたのは、またもや帽子だが、今回は耳当てが付いていない。


 代わりに後頭部に何となく垂れ下がる何か。


 「この前耳にところがイヤーマフの邪魔になるかなて思って、改良に改良を重ねたニット帽!どうだ!」


 確かに耳はフリーになって楽は楽なんだが、この後頭部に垂れてるのって、結局耳だよな?


 邪魔な耳を外して、無意味な耳を取り付けた?なぜそうも耳にこだわるのか?


 分からないまま更にお代として50万クレジットをいただいたので、とりあえず黙っておく。


 自分的には鞄の肥やしが減って楽になったし、それぞれ欲しい物が手に入ったなら、これ以上言う事もない。


 女子達はなんやかんや言いながら街に消えていった。


 既に日も暮れ、海上に浮かぶ星に見とれていると、


 「あー!いたー!」


 と、妙に野太い声が聞こえて、振り向くとかなり肥え気味の男性が叫んでいた。


 きっと知り合いでも見つけたのだろうと、完全にやる事がなくなり、手持無沙汰のまま夜空を見上げる。


 すると、いきなり抗いがたい力で腕を掴まれ引きずられる。


 「すまん!悪いようにはしないから来てくれ!」


 そう言いながら、一方的に自分を引きずっていくお兄さんは、妙に明るい茶髪だった。

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