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113.木工『ロマン is ジャスティス』

 「さ~~~てっ!それじゃあテル専用!テルしか持ってない超おしゃれ&キュートなバックパックお披露目よ~!」


 なんか異常なテンションで変質者……マリーゴールドさんが叫びだし、思わずビクッとなると、目の前に突き出されたのはランドセル?


 いや、ランドセルにしてはかなり薄いし、小ぶりだが、形状的にはランドセルと表現するのが一番しっくりくる気がする。


 勿論木製であり、堅いはずなのだが、何故だろうかふんわり柔らかい雰囲気も同時に醸し出していて、数年前まで背負っていた柔らかくも固く、重いのに辛くない。あの不思議な鞄を思い出す。


 「フーン……蓋の部分が蛇腹になってて、本当に開くのか……」


 「確かに可愛くはあるか?でもそんな所まで拘らなくても、バックパックは触れれば中身出せるんだしな?」


 「何言ってんのよ!これだからセンスのない連中は!いいかしら?例えヴァーチャルの世界であっても、すべてが偽物の世界であったとしても、リアリティが必要でしょ?じゃなきゃ気持ちが冷めちゃう!せっかく世界に入り込めるゲームなのに、没入できないなんて本当に寂しい生き物!」


 「……リアリティが大事なのは分かるが、だとしたら尚更木の鞄なんて持たなくないか?固いし満員電車とかで迷惑になるだろ?」


 「うーん、確かに満員電車は極端でもTPOっつうか、このかばんを背負って歩く人物が見えないかもな?」


 「何よ!人がリアリティって言ったら、今度は現実の事ばかり言って夢のない男共ね!」


 「つまり、リアリティとファンタジーのバランスなんじゃないですか?現実を感じさせる夢、それがフルダイブVRに必要な要素というか、心揺り動かすロマンみたいな」


 その時一斉に三人から凝視され、思わず体が硬直してしまう。


 「そう!ロマンなのよ!寝てる時に見る夢じゃない!実現可能かもしれないと、思わず追ってしまうような夢!」


 「ちっ!ロマンかよ!確かに言われてみればその鞄からはビシビシ感じるぜ。木や森に溶け込むラビのスタイルには武骨なナップザックじゃだめだ。、確かに夢の詰まった木製の鞄じゃなきゃ、いけねぇ!」


 「うん、ジョンはロマンとかそういうの凄く弱いよな。でもラビの言う事はもっともだわ。いつから忘れちまったんだろうな……ロマン」


 うん、なんか異常なほど納得されて逆に怖い。


 それでも手渡されたそのバックパックを背負ってみると、想像以上に体にフィットし、まるで体全身くまなく採寸されたかのように、ぴったり馴染む。


 後ろに手をまわしてバックパックに触れるのも、あまりに自然で楽に感じ、もう今後このバックパックなしにはフィールドを歩けない気すらしてきた。


 「いいわ!何も言わないで!その顔だけで全て分かるの!じゃあ次の品に移るわね!」


 そう言いながら差し出してきたのはいくつも穴というか、差込口の付いた木の何か。


 ペン立てにも見えなくはないが、それにしては穴が大きすぎるし数も多い。


 「これは?」


 「ふっふっふ!テルってばいくつも薬の瓶やら提げてるじゃない?だ~か~ら~!取り出しやすいウエストバッグも作ったの!どう?気の利く女って最高でしょ?」


 どうやらそれは腰のベルトに通して使う物らしく、とりあえず左腰に装備してみると、これまたしっくりとした手触り感だ。


 「これはどういう代物なんだ?」


 コットさんが興味を抑えきれなかったのか、聞いてくれた。


 「これはね!一マスに一個道具を登録できて、触れただけで取り出せるの!」


 言葉の途中で、毒瓶を一マスに差し込むと瓶の頭が見える。隣に麻痺の瓶、酸、眠り薬、目つぶしの粉と挿していけば、確かに埋まったそばからそれぞれの蓋が見えるような形で中に入っていく。


 「つまり整頓用の鞄って事か?」


 「ちょっと違います~!一マスにつき一種類20個まで入るの。そしてバックパックみたいに選ぶ手間がなくて触れただけで、アイテムが取り出せる!つまり?」


 「いっぱいぶら下げなくても、一瞬で毒とか取り出せる?」


 「正解!テルのスタイルには絶対これだと思ったわ!どう?私っていい女?」


 「凄腕の職人さんだなと思いますけど」


 「でしょ!私って気が利く上に、相手に寄り添えて、可愛い女なの!」


 「ラビ気にするな?」


 「ああ、これさえ我慢できれば、本当に腕はいいんだから」


 何かコットさんとジョンさんがフォローしてくれているが、自分は既に二つのバッグに夢中だ。


 今まで整理するにもできなかった自分の生命線である薬関連が、これでかなり楽に使用できる。


 「そして、トドメはこれよ!」


 そう言って出してきたのは綺麗な飴色のアタッシュケース?小ぶりでカチッとした印象だが、それでも何となく引き付けるものがある。


 「最後に普通の鞄が出たな?でもクロスボウって両手武器だし、手提げ鞄は使いづらくないか?」


 「残念!これぞ薬整頓用の鞄よ!バックパックとウエストバック両方の性質を持ってる鞄で、更にこれに入ってるものは死に戻り時、絶対に落とさないの!つまり貴重品バッグって事よ!」


 言葉を聞きつつ、鞄を空けてみると中には20マスが仕切られ、一マスにつき一種類50個まで登録可能だった。


 そして、さっきの話が本当なら、絶対に落としたくない大事な物をこれに入れておけばいいらしい。


 これはありがたく、大事な物をしまってそのままアイテムボックスに投げ込んでおくのがいいのかもしれない。


 「ふーむ、ラビはどうやらかなり気に入ったみたいだな。それで代金はどうするんだ?」


 「そりゃあ!同志の為だものタダって言いたいところだけど!でも現実は厳しいの!3個合わせて10万クレジットでどうかしら?この町に来たばかりの貴方には重すぎるかもしれない!でも私いつまでも待つから!」


 「これで10万クレジットって安すぎませんか?お支払いしますね」


 お代を払い、立ち去ろうとすると、何故かコットさんに肩を掴まれ、クロスボウを取り上げられた。

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