10.練習『毒じゃなくてもいいらしい』
5mと書かれた地点に掲げられた的を矢で射抜く、かなりの確率で止まった的なら射抜けるようになってきた。
「よし、その調子で10mまで射抜けるようになれば一先ず新人としては及第だろう」
「いや、あの!毒をですね……」
「その前に矢を打ち切れ!まず的にも当らなければ、これから荒野で出くわす敵に掠りもしない内に食い殺されるぞ」
うん、試射場でいつも一人立っているNPCは別に悪い人ではないのだろうが、少し思い込みが激しいと言うか、他人の話を聴かない。
やむなく、すこしづつ離れていく的にひたすら矢を撃ち込んでいった。
「ふむ、まぁいいだろう。これで最低限止まっている相手に矢を当てる事は出来るだろう」
「あ、ありがとうございます。それで、毒はどうやって手に入れたらいいですか?」
「なんだ?誰か暗殺でもしたいのか?確かに遠い昔まともに正面から戦っては絶対勝てない相手に毒を盛って、復讐した話を聞いた事があるな。まさか新人……お前も……辛かったな。だからと言って復讐は……」
「違います!ドブネズミを倒すのに必要なんです!」
「……溝鼠相手か……毒なんて必要ないだろ?」
「そうなんですか?」
「そりゃ、何もしなければそれなりに大人しいし、はっきり言って弱い。落ち着いて頭さえ撃ちぬけば倒せるだろう?一体何を困ってるんだ?」
「その撃ち抜くって言うのが、中々難しくて」
「ならば、餌でも何でも撒いておびき寄せる事だ。食べてる間に始末すればいい。溝鼠は見た目の大きさよりずっと臆病だし、一匹死ねばすぐに散る。それでいて少し待っていればまた餌に釣られて出てくる」
「そうですか……餌はあるので、それでやってみるしかなさそうですね」
「うむ、何より殺鼠剤の流通販売はされていないぞ」
「そうなんですか?」
「ああ、もし大量発生した時に耐性がついていても困るし、逆にいざ食べるモノがない時に殺鼠剤を摂取した溝鼠を食べると言うのもな」
「え?いざって時は食べるんですか?」
「ああ、火を通せば食べる事も可能だ。食べたければな?まぁ、もっと食用に適した動物もいるから、おススメはしない。あくまで緊急用だ」
「そうでしたか、レストランであの肉が出てくるのかと思いました」
「昔、そんな事件も……」
「あっ!いいです。聞きたくないです。じゃあドブネズミ狩りに行ってきます!」
「待て!」
嫌な話をされそうだったので、さっさと逃げようとしたのに、呼び止められてしまった。もう、そろそろ餌の効果を確認しに行きたいのだが?
「な、なんでしょう」
「ステータスの振り忘れがないか?幾らなんでも溝鼠なんぞに苦戦する理由はそれ位しかないのだが?」
「えっと、クエストをクリアしてレベルアップした時点でボーナスが5ptあって、STRとDEXに一つづつ振りました」
「残り3つも振っておいた方がいい。それ位なら十分取り返しもつくし、基本のスキルを取得する為にどのステータスも最低1以上振る事を要求される」
「まだ、自分の方向性に迷っているんですけど……」
「それは分る誰でもそうだ。だが、STRがもう1あれば体当たりされても跳ね返せるし、VITがあれば噛まれながら攻撃する事も出来る。AGIがあれば溝鼠なんぞ遅いくらいだし、DEXがあればほぼ確実に頭を撃ち抜ける。SNSなら暗い地下道でもそれなりの距離から発見できるし、そうすれば2射位は放てるだろう。それ位弱い敵なんだ」
「そうですか……せめて先の方で取得出来るスキルだけでも分れば……」
「ふむ、STRなら<容量> VITなら<生命> AGIなら<移動> DEXなら<製作> SNSなら<察知>が基礎スキルだな。DEXだけアクティブスキルだが、他はパッシブスキルとなっている。溝鼠を倒せない内はアクティブとパッシブが一つづつセット枠がある筈だ」
セット?一先ずステータスを開いてスキルを確認すると、確かにスキルセット枠が存在した。
どうやら<製作>は自動でセットされていたらしい。
「例えば、残り3つDEXに振ったら、何が取得できますか?」
「4つ振れば<精密>だな。コレはアクティブスキルになる。他もSTRなら<格闘> VITなら<静養> AGIなら<跳躍> SNSなら<聞耳>って所か、あとは前提にスキルを多少進めていないといけない場合や、複数のステータスが必要になる場合もあるから、これ以上の説明はなしだ。自分で探すといい」
途中から全く聞いていなかったが、自分が最初に目指すべきスキルだけは分った。
ステータス画面から残りの3つをSNSに振り、更に<察知>を習得する。
すると空欄だったパッシブスキルが埋まったので、多分空欄になっていると習得した物が勝手にセットされる仕様なのだろう。
ゲームならよくあることだし、あまり気にせず今度こそドブネズミ狩りに向う。
まさか、こんなに気持ちがウキウキしてくるとは思わなかった。
多分次レベルが上がれば、<聞耳>に届くだろう。どんなスキルかは分らないが、取得以外に道はない。




