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108.『黄昏失踪事件-苦渋-』コットの事件簿

 「さて、早速だがそのテルという人物の特徴を教えてもらおうか?」


 「木を愛する男よ!」


 「いや、なんも情報増えてねぇんだが?」


 相変わらず、灰色の脳はあっという間に最適解を導き出す。そう……これが自分の探偵としての才!


 「成る程な!分かった!テルは森にいる可能性が高い!」


 「そうなの?!!」


 「いや木が本当に好きならそうかもしれないけどよ……今回の事件の肝ってもっと違うところにあるんじゃないか?」


 「「違うところ?」」


 「普通に考えて、何で失踪したかじゃないのか?仮に無理やり森の中に追いかけていったってもっと奥まで逃げるだけだろ?どう考えても」


 ……さすがジョンだ。人の心の機微というものに意外と繊細というか、心理を読むことに長けている。


 これが決闘の経験の賜物なのか、はたまた生まれ持った性質なのかは分からないが、こいつと組める事を今は神に感謝しよう。


 っていうか、自分も何で失踪したのかが大事だと思ったし、これから言うところだったし!


 「それで、貴女に心当たりはあるんですか?彼が失踪した理由てやつなんですけども」


 「ないわ!だってあったらそもそも相談してないじゃない!」


 「確かに!」


 「いや、確かにじゃないんだわ!本人達も気が付かないようなもつれを明かしてこその探偵だろ?ここからが醍醐味なのに、何を納得してんだよ!」


 う~む……今日のジョンは積極的というかなんというか、やっぱり久々の決闘のイベントの後だからかテンションが上がってるらしい。


 事件に対して積極的なのはいいが、あまりつっこみが強すぎると依頼人が委縮してしまうのでは?


 「な~~に言ってんのよ!私達は同じ性癖でつながったベストパートナーよ!やれ不倫だなんだで干される芸能人とは違うの!彼らだって各々の趣味嗜好があって、そのすれ違いを雑誌に無駄に大きく載せられなければ……」


 「はいストップ!ちょっとセンシティブになってきたぜ。っていうか、そもそもが別に愛し合ってるとかそういう訳じゃないんだよな?」


 「全然違うわ!ただ同じ性癖なだけ!木を愛する同志なのよ!」


 ふむ、これはもうちょっとつっこんっで話を聞かねばならないかもしれない。


 何しろ、言ってる事が同じ性癖の同志なんだから、姿を晦ますわけないって、その繰り返しだ。


 「この事件はちっと深くなりそうなんだが……そもそもその彼とはどうやって出会ったんだ?」


 「そうね……それは運命だったのかもしれないわ……」


 遠く窓の外を眺めるその女性は、不思議と神秘的な目をしていた。


 「何で変になってる奴ってすぐ窓の外見たがるんだ?」


 ジョンが何か言っているが、今は女性の話に集中しよう。


 「彼とはただすれ違っただけなの……それでもすぐに分かった……これは運命だってね」


 「なぜですか?」


 「だって、彼は木製の弓を持っていたんだもの。誰もが無粋な金属の塊を担ぐ中で、ただ一人何の気負いもテライもなく堂々と弓を背負ってた。ああ……この人は分かる人だってすぐに確信した。木の持つ生命と生命の尊さ……結局命の重さを知らない人の言葉なんて軽いのよ!でも彼の考え抜き、困りながら発する一言一言の重みを感じるうちに、力にならなきゃって思ったの……」


 すげー……本当に理解しあってるじゃないか……。


 これは尚更本気で事件に向き合わなきゃならない。


 いや、今までもそんなおざなりな気持ちで事件を解決してきた訳じゃないが、単純な私怨や事故とは違う、本気の情愛がそこにある。


 自分は向き合うべきだ。目の前の女性と姿を晦ました男、そしてそこに横たわる事情ってやつと。


 「うん、もう分かっただろ。どう考えても失踪したのって……」


 ジョンが、また軽はずみに事件を解決したみたいな事を言っているが、それはいったんスルーさせてもらう。


 確かに人の心をよく考えるいい奴ではあるが、今回の事件はそう簡単なものじゃない!


 複雑な事情のもつれが生み出した不幸!それをそんな簡単に解決できましたなんて顔できるか?自分にはできない!


 「分かった!この失踪事件の解決に全力を尽くす!だからもっと教えてくれ!そのテルってやつの事を!」


 「いいわ!私の知る限りの事を話すけど!テルは緑色のポンチョを着ているわ!この黄金の森ではちょっと目立ちすぎるような色合いのやつをね!」


 「それなら簡単に見つかりそうな気もするが、念のため他の情報くれるか?」


 「そうね……常に冷静で静かで考え深くて……毒を使うわ!そう!毒で木を眠らせてたのよ!」


 「緑色のポンチョで弓を使い、毒も使う……随分珍しい構成のようにも思えるが……そんな人物が森に!」


 「いや、一人だろ!どう考えても一人しかいないって!」


 ジョンは目星をつけているようだが、事はそう簡単じゃない筈だ。


 その時電撃が走った。


 「普通……どう考えてもそんなスキル構成の奴はいない筈だ……つまりその人物は銃を使えない人間?つまり……」


 「つまり?」


 「貧乏人だ!銃を買うお金がないんだ!でもそれを貴女に悟られたくない!だから失踪した!」


 「そういう事なの!確かに私は彼に木製の鞄を作るって約束したわ!でもその支払いが出来ないから失踪したって事なの?いいのに……お金なんていつでもいいのに……それよりも私は貴方と一緒に木を伐りたいだけなのに……」


 崩れ落ちる女性にかける言葉も無く、目をそらす。


 窓の外では永遠の秋に振り続ける木の葉がただざわめいていた。

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