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106.『黄昏失踪事件』コットの事件簿

 探偵……それは真実を追求するもの、従うのは法ではなく己の好奇心。


 それ故に警察などとは違い、時によって追う事件の性質は大きく変化するものだ。


 今回の依頼はとある消えた男を探す事、依頼者はうら若き美しき女性。


 そして自分の好奇心は何故消えたのかという該当人物の心の奥底に潜む暗闇へと向けられる。


 理由は言うまでもない。


 なぜなら男が魅力的な女性を置いて姿を晦ますなど普通では到底考えられないことだからだ。


 つまりそこには普通ではない何かがあったという事……それが探偵の知りたいという欲求に火をつける。


 これがその事の始まりである。


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 「なんつうか、本当に何の波風もなく順当に勝っちまった訳だが、一応おめでとう」


 「一応ってな!俺もそれなりに思うところはあったし、中々新しい決闘者が育ってるぞ実際」


 「そうかぁ?なんか全員一方的に撃ってただけに見えたがな?」


 「んな事ねぇって!まぁラビは言うまでもないけどよ。他にも変なのっぽの奴とか筋は悪くなかったし、女の子も悪くはなかったな」


 「あ~ラビの件は何度も聞いてるからもういいや。それよりのっぽの奴ってのはアレだろ?2回戦目の?」


 「そそ、アイツだけど……」


 その時大きな音を立てて扉が開き、大きく肩で息をする女が飛び込んできた。


 「ねえ!テルがいないの!」


 「「はあ?」」


 思わずジョンと声がかぶってしまったが、よくよく見たらよく知る腕のいい木工生産者だ。


 FPSとはいえRPGを名乗るこのゲームには生産系のスキルや機能もそれなりにあるのだが、どうしても基本撃ち合いがしたい奴が集まる所為か、生産者が少ない。


 それ故に大抵の生産者はどこかのクランに入るか、複数のクランと関係がある。


 そんな中で完全フリーな生産型となれば結構目立つし有名にもなる。


 そしてそれは自分も然りなのだが、あまり口に出して言うものでもないか。


 この女の場合、完全に性癖がアレなので、避けられてる。


 いや、BANされるような性的な発言をする訳ではないが、少々木材というものに傾倒しすぎてて、他人のいう事を聞かない。


 己の心の赴くまま木を伐り、そして何かを作るばかり。


 要はコントロール不能な木の変態って訳だ。


 流石にクランとしても、必要なものを何も作らず、ただ木を伐る手伝いだけさせられる様な相手を受け入れる事も出来ず、結局一人で木を求め歩いてるプレイヤーなのだが、正直そういうの嫌いじゃない。


 話くらいは聞いてやるとするか……。


 「だから!テルがいないのよ!どうしよう!愛しのテル!私と同じ業を背負う木を愛し木に愛されし、王子!彼はきっと暴虐の領主を倒すために戦いに赴いてしまったの!だって彼は誰よりも優しく、誰よりも燃え盛る熱い魂を持っているんだもの!」


 どうしよう……聞きたくなくなってきた。


 ジョンはすでに遠くを見ながら、無の表情になっている。つまり本気を出して聞き流そうとしていやがる!


 畜生!この訳の分からん妄想に俺が合いの手をいれろってのか?まじかよ!自殺行為だろ!そりゃ!


 「は~~ん!きっと彼は私を戦いに巻き込むまいと何も言わずに消えてしまったのね!どうしよう!どうしたらいい?」


 やべぇ、完全にロックされてる。何でジョンじゃなくこっちを見るんだ!せめて均等に両方見ろよ!


 「あ、あ~なんだ?愛する女を置いていったなら、それが男気ってもんだし、何も言えない……かな?」


 「何言ってるのよ!彼も私も愛してるのは木材なのに、愛する女を置いてくってどういう事?ちゃんと話聞いてないでしょ!」


 いや!わかるか~~い!


 絶対愛し合う男女感出してたじゃん!いや確かに木材を愛する男としか言ってないし、あんたも木材大好き変態女だがよ!


 「く、くそ……じゃあ何しに来たんだよ。本気で何の話してるのか分かんねえんだよ……」


 「だ~か~ら~!テルを探してって言ってるの!」


 「何でだよ!」


 「だってコットって探偵でしょ?探し物をするのが仕事じゃないの?」


 全身に稲妻が走った!


 「あ……ダメなやつだ」


 何かをジョンが口走った気もするが、今はそれどころじゃない。


 何しろこれは探偵への依頼って訳だ。


 つまり、この俺を探偵として認め、正式に仕事を頼みたいという事!


 くっそ、こうしてはいられない!何か……何か決め台詞を……。


 「もう、コットしか頼れる相手がいないの……私、苦しい……テルに……テルに会いたい」


 うら若き女性が苦しみに耐えきれず、すがるような目でこちらを見てくる。


 これがそんじょそこらの探偵気取りなら一瞬で恋に落ちるのだろうが、残念ながら自分は探偵の中の探偵!ただただ冷たく静かに灰色の脳が脈動を始めた。


 「依頼である以上仕方ない。必ずテルは俺が見つけてみせる。きっとその男にも事情があったのだろうが、生憎依頼主は貴女なのだから」


 窓の外には黄色く永遠に冬を待つ大木が静かに黄色く色づいた葉を一枚降らせていた。

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