103.完敗『何だかんだ初イベントだったがこんなもの』
「これだけ人が集まってて、参加6人て何それ……つらたん」
「いや、やっぱりまだ駆け出し連中の集まるイベントだし、お前の名前にビビっちまったんじゃないかな~?」
急に口調が変わって、身の回りにやたらと暗いオーラをまとうジョンさんを何とか必死に慰めているコットさんが、チラチラとこちらを見てくるものの、どうしろというのだろうか?
多分コットさんの言う通り、出場をひかえた人が多いせいで参加者6人とかいう極端な事になったのだろうとは思うが、何しろ自分はイベントというのが初めてだし、確証はない。
どうしたもんだろうと思っている内に、トーナメント一回戦の対戦表が掲示され、そこには自分とジョンさんの名前がある。
「いきなり、ジョンさんとかぁ……」
自分の無意識の呟きにトーナメント表を見上げるジョンさんの表情が、スッと変化し、急にまたいつも通りの自信ありげな顔に戻った。
「成る程な……天は俺にラビを試せと言ってる訳か……」
「試す?」
「ああ、いや。こっちの話さ。でもまぁ、ただ様子を見て話を聞くより一回戦っちまった方が話が早い事もあるか」
ジョンさんが何を考えているのか今一つピンと来ないが、自分は自分で初のイベントを楽しめばいいか。
そんなことを考えている内に、係のNPCに案内され、ただ空のバケツが置かれただけの何もない場所に立たされる。
「え?これどうしたら?」
「ラビ!撃鉄は起しておけ!お前のディテクティブスペシャルはダブルアクションだ。俺の早さには絶対追いつかねぇ」
ジョンさんからアドバイスの様な言葉を貰い、一応腰にホルスターを装備して挿しておいたディテクティブスペシャルの撃鉄を立てる。
普段だったら暴発しそうだし撃鉄を立てたままホルスターにしまったりなんか到底出来ないが、今はただ立って抜くだけだし、まぁ大丈夫だろう。
「それでは一回戦!始めます!」
「ちょっと待ってください!」
自分から見て右側に立っているNPCが急に始めようとするので、大急ぎで止めた。
いつの間にかそこに立っていたのは、燕尾服というのかモーニングというのか分からないが、黒い腰側だけちょっと長いスーツを着た男性。
見た目の紳士っぽさとは裏腹に乱暴すぎるだろう。
何しろ合図で撃つことは分かっているが、それ以外何もわかっていないのだ。少しくらい時間をくれてもいいだろうに。
「何か問題がありましたか?」
「あの、合図で銃を抜いて撃つのは分かるんですけど、それ以外が分からなくて……」
「それだけわかれば十分かと思いますが……試しに合図を聞いてみますか?」
「お願いします」
正直自分でも何が分からないか分からない状態だが、合図の音を聞けるのは助かる。と、思う。
そのままNPCの方を見ていると、親指でコインを弾き上げ、
キーーン
と、軽い金属の音が鳴り響く。
そして、その後には、
ヒューー
と、小さく風を切る落下物の音。
コインがバケツに入った瞬間、
カーン!
と甲高い音が鳴った。
「これが合図ですが、大丈夫ですか?」
「あの……バケツにコインが入った音ですよね?」
「はい、それで間違いございません」
ほかに何か聞くことはあったかな?と考えを巡らせている内に、
「それでは一回戦始めます!」
NPCの容赦ない言葉が発せられる。
止める理由も見つからずに正面を見ると、ジョンさんが余裕のある表情でこちらを見やっているが、何を考えているかまでは想像がつかない。
ドキドキしながら、銃に触れないように、それでいていつでも抜けるように手を腰のディテクティブスペシャルにかざす。
ジョンさんがちらっとNPCに視線を向けたが、自分はジョンさんの眉間の間にある急所の赤い点に集中する。
キーンと澄んだ音が鳴り響き、緊張感が増すが、さっきよりだいぶ高く弾いた様だ。
ヒューーっと落下音が鳴り響くと同時にジョンさんもこちらを見て、腰の銃に手をかざした。
ヒューの音がだんだん低くなり、
ここ!
と思ったところで、ディテクティブスペシャルに手を伸ばすと、そのままいつも通りの流れで、引き上げ、左手を添える。
ジョンさんの眉間に吸い込まれるように照準を合わせフロントサイトが真っ直ぐ視線の先に赤い点をとらえると同時、
パン!
と妙に乾いた音がして、続いて腹に熱を感じた。
自分はまだ引き金を引けていない。
つまり負けたんだと自覚したのは、目の前が真っ暗になる前だったか後だったか?
これが自分の初イベント、一回戦負けそれが結果。
コットさんのいう事を聞くべきだったんだろうか?
妙に胸に暗い何かが満ちてどうしようもない。絶対勝てるわけない相手に負けたとしても、敗北感というのはあるのだな……。
それがこの短すぎる初イベントで学んだことだ。




