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99.伐採『木の弱点は火ばかりじゃない』

 「ねぇ~テル~早く~もう!焦らしてんの~?早く助けてよ!!!」


 とりあえず不用意にメープルの木に近づいた変質者のおかげで、あの木は枝で攻撃してくる事が分かったが、さてどうするか?


 「ごめん!ごめんって~強く言い過ぎたのは謝るから~早くぅ~」


 まだかなり余裕がありそうだし、一旦変質者は置いておくとして、一歩近づいてみる。


 「もう~待った~めっちゃ待ったんだから~サクサクやっちゃってよ~」


 「いや、木が好きって言ってませんでした?」


 「木材も好きよ?」


 うん……鶏も鶏肉も好きみたいな事なのかな?好きの方向性というかなんと言うか……。


 数歩近づくと木のざわめきが大きくなったのでそのまま後ろに戻ると、自分がいた場所に枝が伸びてきた。


 しかし、それ以上追いかけてこないという事は、多分決まった間合いにしか攻撃できないという事か?


 「テル!逃げないで!あなたはそんな人じゃない!勇気ある人!そう!勇者なの!怯まずに戦ってちょうだい!そして助けて!」


 うん、非常にうるさいのでイヤーマフを装着する。


 「テル~何よそれ!何する気なの?もしかして音楽聞いてる?だったら私が歌いましょうか?」


 ダメだ。なぜか話し声はむしろ鮮明に聞こえる。多分その他の雑音が消えているせいだろうとは思うが、今この状況では完全に逆効果だ。


 やむを得ず、イヤーマフを外して上を見上げると……。


 「イヤン!エッチ!そんなに私のパンツが見たいの?いくらでも見なさい!そして助けて!」


 「いや、お断りします」


 「何でよ!!いいじゃない減るもんじゃないし!」


 「それって見る側が使う言葉だと思ってたんですけど?」


 「見られる側も使うのよ!って言うかそろそろ色々ヤバいから!」


 「そうなんですか?」


 「そうなのよ!どうやらこの木は捕まえた相手からHP吸うみたい。ゆっくりなんだけど、結構来てるわよ」


 「ああ、じゃあ急がないとですね」


 「全然急ぐ気ないじゃない!お願いだから早く~!」


 どうやら本当に急いだほうがよさそうだけど、この大木を倒す案が今一つ浮かばない。


 「いっそ燃やす?」


 「私も燃えちゃうでしょうが!それに燃やすと木材の質が悪くなるのよ?折角テルの鞄作るのに勿体ないじゃない?」


 「でも、他に倒す方法が思いつかないんですけど?」


 「あ、あれよ!さっきまで虫がいたじゃない?多分大人しくする方法があるのよ!」


 言われてみれば、ここは多分蛾の巣になっていた筈だ。それが急に木が暴れだしたのはどういうわけなんだろうか?


 「……黙ってみたらいいんじゃないですか?」


 「え?うるさかった?ごめんねテル……私そういうつもりじゃ……」


 「いや、さっき急に叫んだから木が反応したんじゃないかと思うんですけど?」


 別に幼虫も蛾も特に鳴いたりはしていなかったし、静かにしてれば木も大人しいみたいな事ないのだろうか?


 「そういう事?でももう捕まっちゃってるのよ!こうなったら純然たる生存競争じゃない?食うか食われるか!」


 「木は食べませんけど?」


 「メープルシロップは食べるんでしょ?」


 言われてみれば、それもそうだ。


 この木を食べる為に倒さねばならない。でもその木は10mはありそうな大木だ。さてどうする?


 「やっぱり諦めるしか……」


 「テルー?ヘイ!テルー?テルの武器は何?」


 「え?クロスボウですけど?」


 「他には?」


 「ナイフとディテクティブスペシャルと毒、手榴弾、罠……」


 「ずいぶん器用なのね?でも分かったわ!ズバリ毒よ!」


 「何でですか?」


 「いい?木は根っこから水を吸うの!」


 「そりゃそうですね」


 「そこに毒を流し込めば、毒状態にできるんじゃないかしら?」


 「メープルシロップにも毒混ざっちゃいそうですけど?」


 「じゃあ、眠り薬でも麻痺薬でもいいわよ!!」


 果たしてそんなにうまくいくものか、半信半疑どころかほぼ全疑だけど、麻痺と眠りの瓶を取り出して木の根っこ辺りに投げつけてぶん撒いてみる。


 いくつの瓶を投げつけたか、急に頭上から葉の擦れる音がざわめいたので見上げると、枝が柳のようにしなり、スルスルと変質者が下がってきた。


 本当にパンツ丸出しなのに何で平気なんだろうか?変質者だから羞恥心というものがないのだろうか?


 目をそらして、さっきの間合いに入るも枝の攻撃はない。


 そのまま作業ナイフを取り出して木の幹に触れられる位置まで行くと<解体>出来た。


 手に入ったのは文字通り〔メープルシロップ原液〕なのだがやたら分量が多い。というか牛乳を入れるような大きな金属缶がどこから出てきたのか?とりあえずそれいっぱいのメープルシロップの原液がいきなり3缶手に入る。


 いまだ攻撃の様子を見せないメープルの木だが、とりあえずこれ以上<解体>はできないので離れた。


 カーン!カーン!カーン!


 突如鳴り響く甲高い音に何事かと警戒心を高めると、メープルの木に斧を打ち当てる変質者の姿が……。


 「よさ〇は木~を伐る~とんとんと~~ん!」


 なんかやたら上機嫌なのでいったん見なかった事にしよう。


 ふと、近くに転がる緑の繭に手をかけるとそれも<解体>できるようだ。


 〔桃蚕糸〕というのが束で手に入るが、緑なのに桃なのはなぜだろうか?


 まあいいかと、周囲を見渡すとまだいくつかあったので片っ端から集めていく。


 「相変わらず虫好きね~?男の子だからかしら?」


 糸集めに夢中になっていると、いつの間にか変質者が近くにいて話しかけてきた。


 「いや、なんか糸が手に入ったので……」


 「ふーん?そいれじゃ行きましょ!ハードメープルいっぱい手に入ったから!テルの鞄作らなきゃ!」


 腕を掴まれそのまま引きずられるようにして町に向かう。


 やっぱりメープルの木ごと燃やすべきだったか?

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