記念日
掲載日:2023/06/10
「そんな日、忘れた」
こちらをちらりとも見ずにそう言ったあなたに、そっか、と小さく答えた。
もう一度こっそりあなたを見たけれど、やっぱり後ろ頭しか見えなくて。
私はこの返答以外に、一体なんと返せばよかったのだろう。
ねぇ、忘れたことになんかしないでよ、私たちの過ごした日々を全部なかったことにするみたいなそんな、
その日があったから私は、私たちは。
ちゃんと言いたいことは頭の中で紡がれていくのに、音にはならずに涙になって溢れていく。
本当はそのまま言葉にすることもできたのかもしれないけれど、私がしたいのは、欲しいのは、そんなことじゃなかったから。
もう一度こっちを向いてよ、私を見てよ、あなたの忘れたその日にそうしてくれたように。
そうして、笑ってくれたみたいに。
わざわざ言葉にしなくたって痛いほど伝わってくる、それはもうありえないという事実。
聞くまでもなく、刺さるように降ってくる。
全身で感じとれるそれにぎゅっと目を閉じて……そっと、薬指の約束を外した。




