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異世界転生して魔術師になりたい

作者: 寒露



物心着いたころには、竜と魔法の世界の冒険譚を胸に抱えていた。

少し成長すれば図書館に足繁く通うようになり、ハイファンタジー小説から神話やオカルトめいた話まで、空想世界のものならばなんでも良いとばかりに読み漁るようになった。

そんな私がライトノベルに出会うのは、必至で。





(あ〜異世界転生して魔力チート持ちの黒髪碧眼の絶世の美少女になりたい……)


かつての夢見る子供は、こんな妄想をする駄目な大人に成り下がっていた。


四嶋 ユイカ、20歳、彼氏いない歴=年齢。


先程からキーボードに置いた手は微動だにしていない。

レポートの期限は明日で、悠長にしていられる程の余裕は無いのだが、“明日の私が何とかするはず”という根拠の無い自信が集中力を妨げていた。


ヴントの心理学を理解しようとすればするほど、“黒髪碧眼美少女になった私”の妄想が捗るのだ。

属性は何がいいかな、氷は素敵だけど使い勝手が悪そうだし、火は怖いし……闇属性で幻惑系の魔法とか使えたらかっこいいな、そんなことで頭の八割が占められている。


(今日はもう無理な気がする、寝よう!うん、そうしよう!)


時計に目をやれば、まだ22時過ぎだった。

今眠れば8時間睡眠だ。


水曜日に、8時間睡眠、何たる甘美な響き。

そう思ってからのユイカの行動は早かった。


躊躇いなくパソコンを閉じ、席を立ちながら髪を解いて、そのまま羽根布団にダイブを決める。


(あ〜〜しあわせ、レポートなぞもうどうでもいい……)


重力に身を任せた瞬間の開放感と言ったら無い。

ユイカは布団を胸にかきいだき、うっとりと目を細めた。


(まずい、寝てしまう……)


ハッと目を開いて全身全霊の力を持って起き上がり、灯りを消す。

そして今度こそ布団に潜り、身を落ち着けた。


そうなると先程までの眠気が嘘のように無くなって、すこしスマホを弄ってから寝るか、という気持ちになるから不思議だ。

毎度恒例のことだが、それでも毎晩新鮮に不思議だと思っている。


闇の中、煌々とひかる画面に目を細めながらツイッターを開く。

それまではネット小説でもよもうと思っていたはずなのに、指が勝手にツイッターを開いている。

これもいつもの事だ。


良くないとわかっていてもやめられない。

開発者は罪である、責任を取って一生サ終しないで欲しい。


しばらくタイムラインを眺めた後、先程まで読んでいた小説のページを開いた。


(どこまで読んだんだっけ、あ、そうそう……)


デジタル書籍に慣れた目はすらすらと文字を追い、ユイカは世界に没入していった。

誰かが望み、描いた異世界を追体験していく。

つかの間ユイカは剣と魔法の世界の住人となっていた。


どれほど時間が経ったか、ユイカはふと目をあげた。

スマホの明かりで手元だけが異様に眩しく照らされていて、その先は物の輪郭すらも掴めない闇が広がっている。


溶け出してしまいそうな闇の世界に、ユイカはふと、手を伸ばせばこことは異なる世界に届きそうな錯覚に陥った。


馬鹿げた発想だと思いつつも、僅かな期待を込めてそろそろと手を伸ばす。

ひんやりとした冬の空気が指先を掠めた。


当然の事ながら、ユイカの指先は何にも触れることは無い。

僅かな失望を胸に宿しつつ、冷えた指先を戻した。


(もう子供でもないのに何を期待してるんだか、もう寝よ)


画面の右上には0:40と表示されていた。

これでは6時間も眠れない。

課題をやればよかったとユイカは顔を顰めた。

これもいつもの事だ。


ブルーライトにちかちかする目を無理矢理に閉じ、荒々しく寝返りを売った。

空想世界に蓋をして、現実に戻らなくては。

明日も朝ははやい。



(あ〜異世界転生したいな……)




させてあげようと思ったんだけど、ごめんね…

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