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8.The Same Human

「おはよう、って言っても今は夕方だけどね」


「ああ……頭が重い」


 首を曲げて姿を見ることすらだるい。でも声でわかる。蒼衣がいることだけは確かだ。

 学園内にある病院のベッドと天井。割と見慣れたものだ。


「強かったね、雅」


「ああ……」


「私なら勝てると思う?」


「ライトニングボルト様なら何とかなるかもな」

 

「恥ずかしいからその名前はやめてよぉ」


 ラララララライトニングボルトwwwと笑いたくなるのはよくわかる。

 誰が言ったか蒼衣をライトニングボルトと呼ぶ人は一定数存在する。その厨二臭さは中々俺の好みではあるが、本人からしたら堪ったもんじゃないだろう。


「今日一日はベッドの上だなぁ。まともに考えられない」


 脳への負担が半端じゃない。それは見鏡にやられたダメージではなく、自分の力による自爆みたいなもの。脳がオーバーヒートして、その反動が未だに響いている。


「見鏡さんのなんか似たような感じっぽいよ。隣の病室で休んでる。麗兎ほどじゃないけど、身体が重いし寒いって言ってた」


「はは、寒いのは多分俺の霊力を吸い過ぎたからだな」


 ……。


「なぁ、戦っている時の見鏡をどう思った?」


「率直に言って……怖い、かな。私たちは訓練でそれなりに霊戦自体慣れてる。それは将来に向けて強くなるためのもの、まさしく訓練。でも雅の霊戦は……そう、生きるために相手を殺すって感じがする。何ていうか“正しい姿の威者”だと思う」


「正しい姿の威者か。そういえば2日前くらいにテレビやってた鶴鳴了と朝日丘の狐之宮先生の討論番組見た?」


「見た見た! 狐之宮先生が確かAランク以上の霊威をそういう風に説明していたよね」


「あれ鶴鳴了が変な団体のおばさんをスカッと論破したのは爽快だったな。狐之宮先生もわかりやすくて良かった。それに・・・」




◆ ◆ ◆




「我々は! 威者を! お救いします! 

この世の! 不平等を! 解消しなければ! なりません!

そのためには! みなさんのような! 若い威者の力が! 必要です!」


「あれなにー」


「The Same Humanだってよ。ご苦労なこった……本当に」


 朝日丘学園の前でメガホンやらプラカードやら持って騒いでいる連中がいた。

 朝日丘は威者以外の学生も多い学園なのに、なんでうちでやるんかねえ。夜風台や夕見原みたいな威者だけの学園でやりゃいいのに。


「なにそれー」


「響は高等部からの入学だから初めて見るか? 駅前でなんか騒いでる奴ら見たことあるだろ」


「見たことあるー」


「普通の人間と同じ学校に行かせたいんだとよ。……そういえば響は高ランクなのに、一般の小学校中学校から来たのか?」


「そうだよー。家で霊威の訓練は出来るからさー。勉強ちゃんとしてきたー」


「その、なんだ。いじめとかなかったのか?」


「んー? 私はよくわからなかったよー。もしかしたらいじめられてたのかなー?」


「具体的になにがあったか聞いていいか?」


「なんかー私物を漁る子がいたから少し燃やしたら仲良くなれたしー。威者みたいなヤンキーが挑んできたけど大したことなかったしー」


「それ絶対いじめだぞ……。まぁ普通の学校にいる威者なんて精々DかCだしな。Aのお前に比べたらそりゃ赤子の手をひねる様なものだ」


「そーだったんだー。まーこっちの方が楽しいのは確かだねー。個性的な人たちも騒いでるしー」


「あれは楽しくないぞ、絶対」


 正直言って、俺はあの団体のことをよく知っていた。

 俺は水雪みずゆき昴希こうき。The Same Human代表、水雪香奈枝の一人息子だ。

 とは言っても母親とはしばらく顔を合わせてはいない。家は暁市内にあるが、俺は朝日丘の寮に住んでいる。長期休みだろうが家に帰ることはない。


「我々は! 威者が普通に生きるために! 活動をしています! 

今の政府は! 威者を! 特別扱いして! 差別しているんです! 

普通の人間も! 威者も! 平等な環境で! 生きるべきなのです! 

戦争を! 助長させる! 霊威学園は! 即刻! 廃校すべきです!

日本は! 戦争から! 何も学ばず! 政府や! 霊威学園の関係者は! 独裁国家を! 目指し! 普通の人間を! 力で! 支配する! 異常な国に! なろうとしています!」


 馬鹿すぎて言葉も出ない。

 母親が先頭に立って訴えてる様子を見て、俺はとても可哀想だと感じた。原因の一端は当然俺にもあるかもしれないが、人間が弱い生き物だということがよくわかる。


「やばいねー。あの人たち。あれはまるでーえっとー。そう! 偏執病パラノイアだよー」


「あの人たちは威者より普通の人間に訴えてるんだろうな。大学から朝日丘に入る人達は多いし、そういう霊威についてまだ浅い人たちをビラでも配って勧誘したいんだろう」


「もしかしてー、武暁霊祭でもあの人たちがいっぱい来るのー?」


「来るよ。でも、例年警察やら陸軍やら学園職員ががっつりマークしてるから心配ない。日本中の霊威関係者が見に来るようなイベントだし、世界で最も安全なイベントだよ。もし何かあったら犯人がフルボッコにされちまうって」


「確かにー! ぼこぼこだー! ぼこぼこにするぞー! 夕見原もー! 麗兎兄れいにぃもー! ぼこぼこにするぞー!」


「まだ何が起こるとは決まってない……って誰だって?」


これで序章が終わりです。次から武暁霊祭編です。

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