6.空見蒼衣
「ちょっと残念」
「どうした、藪から棒に」
歓迎会の後片付けは俺と蒼衣の二人でやっていた。
スイリュウと紅音の馬鹿コンビは寮を案内すると言って雅を連れてどこかへ行ってしまった。海斗には空気を読むという概念がないので、歓迎会の途中の時点で部屋に帰っていた。
「私たち、こと武暁霊祭においては無類の強さだったでしょ? お互いがお互いの弱いところを知ってる。アドバイスし合えるし、大会前の特訓も有意義で楽しかった」
「お互いの弱いところ、か。敵同士ならそれが仇になりそうだ」
「あはは。……私ね、また麗兎と一緒に出たかったんだ」
「小っ恥ずかしいこと言うなぁ。俺だって一緒に出たかったさ。蒼衣より気を許せる奴はいない」
「スイリュウより?」
「んーあいつは親友だが、ちょっと違うな。わかるだろ?」
「まぁ……ね。そっか。改めてそう言ってくれて嬉しいかも」
食器類やあらかたのゴミを片付け、机を拭いた。最後に散らかった椅子を直す。
「それに海斗と蒼衣だろ? 暁市のNo1とNo2のコンビなんて夢のコラボじゃん」
「とは言ってもねー。私と海斗ってタイプが似てるじゃん? 特化と言えば良い言い方かもしれないけど、課題は多いよね。二人とも前衛で、麗兎みたいな前衛もサポートも何でも出来ますってタイプじゃないからさ」
「確かにな。でも二人を相手する時の前衛は勘弁して欲しいね。正直怖すぎる」
「じゃあ私たちの威圧感だけでみんな倒せちゃうかもね」
最後の椅子を並び終え、「よし」と二人で指差し確認。二人が最後に残るのは割と恒例なので、慣れたものだった。
食堂を去り、女子寮と男子寮の中間地点となる共用部まできた。
そこで蒼衣は立ち止まって、俺の方をくるっと振り向いた
「まーなんていうかさ、ちょっとやきもち焼いちゃうってだけ! 今思うと高校1,2年の頃はちょっと麗兎に頼りすぎてたかも。だからもう少し大人になろうかなってね。何か困ったことがあったらイイタマエー!」
「なーに言ってんだ。成績優秀、学内最強。暁市で一番有名な女子高生。そんな生徒会長様に頼ることはあっても、お手伝いできることなんて微々たるもんよ」
「ふふ、そうかもねっ! じゃあおやすみー」
「ああ、おやすみ」
女子寮に通ずる廊下をちょこちょこ走って行った。蒼衣はその超優秀な成績とは裏腹に童顔に加えて背も小さい。髪型も二つ結びをしていて、幼い中学生みたいな奴だ。ちょこちょこという擬音が一番しっくりくる。
高校生になってからは小中の時に比べ、蒼衣を気に掛けることが多くなった。どれだけしっかり者でも、どれだけ力を持っていようとも、蒼衣が17歳の女の子であることに変わりはない。
蒼衣もそのことは自覚している。中学の頃のように一人で何でも背負いこむようなことはもうしないだろう。
俺も蒼衣もわかっている。俺たちは所詮子どもに過ぎない。出来ることなんて限られているし、精神は未熟だ。大人のルールを守り、大人に守られ、頼り頼られ、生きていく。
蒼衣は少しずつでも頼られることを増やしていきたいんだろう。それを態々恥ずかし気もなく俺に伝えてくれたのだから、俺も少しずつ変えていく必要があるのかもしれない。
見えなくなるまで見送って俺も男子寮へと戻ろうとしたとき。
「仲睦まじいこったあ。なーんで今付き合ってないか理解出来ないねえ」
ぬるりっと俺の肩に頭を乗せてきたスイリュウ。液体のような身体の動きでぬるぬると頬ずりしてきた。
「まぁ、そんなんじゃないことだけは確かなんだよ」
「俺はさ、雅ちゃんを案内するからってさ、紅音についてったのにさ、なんかさ、女子寮の方行っちゃってさ、俺もさ、一緒に行こうとしたらさ、ぶっ飛ばされちゃってさ、ここでシクシクしてたわけよ」
「そりゃそうだ」
「だからさ、お前をさ、待ってたらさ、あんなの見せつけられてさ、俺は割と近くでさ、シクシクしてたわけよ」
「そりゃそうか」
「俺らもさ、はやくさ、一緒にさ、寮にさ、帰ろうさ」
「そりゃ……ああ、そうだな」
これが見鏡雅と出会った4月1日の出来事である。
次話からようやく異能力バトルをします。