会社概要Part1【1】
美槻が勤務している凛川コーポレーション本社に案内された。
先程の高層ビルは本社とは別物らしい。
1階の社内受付までは一般人でも出入り出来るが、その先はセキュリティが徹底している。
虹彩認証はもちろん、腕につけられているブレスレットを使っての認証。
だが、もし内通者として既に入社していた場合、このセキュリティは意味がない。
「あれ、パフォーマンスなんですよ。簡単に侵入出来ませんっていう意味で」
怪訝そうにセキュリティシステムを見ていた俺を見て勘付いたのか、菅近が答えた。
「一般人を受付まで通して良いのも、そのため。それに、もし会社に侵入しようと考えた者がいたとして、正面は無理だから裏から回ろうと仮に何とか侵入したとしても社内は無数の監視カメラ。袋のネズミですね」
「そもそも侵入出来そうな箇所があるのか」
「ありません。そう見えて入り込もうとするからネズミなんですよ」
はっきりと菅近は言い切った。
菅近と一緒にセキュリティを抜け、エレベーターに乗り込んだ。
「今回は特別に貴方もセキュリティを通過出来るようにしましたが、今度からは貴方の情報も登録しておきますので」
「短い期間だが頼む」
「短い?」
「美槻には説明しているが、俺は3ヶ月しか日本にいない。護衛はそれまでの間だ」
「ああ、それね。聞いてますよ。特に問題ありません。その頃には護衛機器が完成してますから」
「何だそれは」
「昨日のように美槻様のカメラや盗聴器が壊されてしまったら、護衛の意味がありませんので。それに美槻様を自由にさせていると暗殺者に襲われる危険もある。かといって一歩も外に出させないようにすると、本人のストレスになって精神が壊れてしまうかもしれないし、家族も黙っていないでしょう。それだったらもう一人の美槻様を作り出せばいい。それを行うにあたって外部から邪魔が入らないように護衛機器が必要になる。それを凛川コーポレーションで開発中なんです」
「もう一人の美槻をどうやって作るんだ?」
「作るというのは、彼のデータを記憶する装置を作るという意味ですね。彼の脳にある記憶をデータ化し、それを装置に転送する。それがあれば機密事項のセキュリティについて美槻様でなくとも取り扱いが出来る」
「美槻はどうなるんだ」
「いわゆる植物状態になります。データが取れれば彼は不要になるので処分することになります」
「家族にはどう説明を?」
「装置に転送するタイミングで美槻様を隔離する事になりますので、家族には美槻様は遺体が残らない形の事故に遭ったという報告を行います。例えば火事に巻き込まれたとか。護衛出来なかったことでの謝罪や多額の賠償金は凛川コーポレーションが払いますが、大企業なので痛手ではありませんし、家族としても金銭が手に入る方が良いかと」
美槻自身を案じて護衛するのではなく、あくまで会社のためとして今は護衛しているという事か。
「美槻はこのことを知っているのか」
「話していませんね」
なんだ。放っておいても美槻はどうせ殺されるのか。美槻にとっては金の無駄使いだったな。
護衛については、俺は徹底して行うつもりだが、もし3ヶ月以内に美槻を殺せなかったとしても美槻の願いは叶う。
そしておそらく、俺も菅近たちに口封じで殺されるんだろうな。