事後説明【3】
「業務時間外はどうする?美槻を家に送った後の俺の行動は気にならないのか」
「ああ、その説明がまだでしたね。貴方には美槻様の家で寝泊まりしてもらいます。美槻様は実家暮らしで、家が広いので部屋には余裕があります。もちろん家にも監視機器は取り付けています」
「そこで俺も一緒に監視するという訳か。断ったらどうする?」
「断れませんよ。貴方は美槻様から依頼を受けて金銭も受け取ったんでしょう?だから今日ここに来た。それにここまで話を聞いて、断って無事に帰られるとでも?」
「警護組織の人間くらいなら、どうにでも出来るかもしれない」
「出来たとしても、それは本末転倒です。我々は美槻様を守るために存在しているのに、それを処理してしまっては美槻様が身の危険に晒される可能性が高くなる。美槻様が貴方に依頼した護衛するという内容にも矛盾してくるのではないですか」
美槻の依頼は、他の暗殺者から守りつつ俺の手で美槻を殺せというものだ。
菅近たちを殺せばコイツらからの監視体制は薄れるが、その分、他の暗殺者から狙われるリスクも確かに格段に上がる。
依頼された内容と違ってくれば、それは依頼を遂行出来ていないことだ。
「仕方ない。その説明を受け入れるしかないようだ。ただ一つ引っ掛かることがある。昨日の時点では何もせずに俺をホテルに返してよかったのか」
「何もしてないことはないですよ。昨日、美槻様とこの部屋で話している間に手は打ってます。盗聴機能はオフにしてましたが、この閉鎖空間に気化した毒を含んだ空気を循環させていたんです」
部屋の隅に置かれていた空気清浄機を指差し「あれです、あれ」と菅近は説明した。
「空気清浄機に見えて違う機械なんですよ。この毒は微粒子レベルなので貴方と言えど簡単には気づかない。あの後、車で送った時に美槻様には解毒剤を含ませた水を飲ませましたが、解毒しないと24時間後に毒が回りきって死に至る」
「それで俺が今日来なかったら毒殺していたと」
「ええ。美槻様に毒の話をすると怒るでしょうから、黙っていましたがね。解毒剤はこちらで持っています。貴方が今回美槻様と一緒に監視対象になる事を拒んだ時には毒の事も言わずに殺していましたが、了承得たので正直に話してみました。ちなみにこの毒についての技術も凛川コーポレーション製です」
「技術技術と、何故そんなことを俺にいちいち話すのか」
「釘を刺しているに決まってるじゃないですか。これほどの技術があるので逆らわない方が良いですよ、という意味です」
菅近は淡々としている。
「では、仕事を始めましょうか」
菅近は他の組織員に頼んで、解毒剤を持ってこさせた。
「この解毒剤を飲む行為が、護衛としての第一の仕事です」