10億円の報酬【4】
「僕はもう生きていく希望が持てない。生きている実感もない。自分で死のうにも、危険物を持つことも許されていない。もう楽になりたいんです。だから貴方に暗殺を依頼した」
「それならば、何故ナイフで刺そうとしたときに止めた?あれで確実に死ねたのに。俺が捕まっても、別にお前としては殺された後なら関係ないだろう」
「僕は、僕を殺した人に、僕のいない世界を確認して最後まで見届けてほしい。だから貴方には死んでほしくないし、僕を殺した後も生き続けてほしい。これを頼めるのは、暗殺者界隈でも有名である貴方しかいません。貴方が護衛機関に勤務しているからでしょうか、今回に限って、護衛として貴方を雇っても良い許可はさっき会社から得ました」
「つまり、完璧に監視されているお前を他の暗殺者から守りつつ、隙を見てお前を殺して、俺に生き続けろという事か。そんな無茶な依頼は受けられない」
普通に考えて、実行出来ない状況だ。出来ないことを出来るとは言えない。それに日本に滞在出来る期間にも限度がある。
「でも、もう10億円振り込んじゃいましたし。それに貴方はどんな仕事でも引き受けると聞いたから接触を図ったんです」
そこを突かれると痛い。
しかし、それは自分がいつ別の暗殺者に殺されてもいいと思っていたから。
それが出来ない依頼となると……。
いや、そんなことを考えるのはおかしい。
俺は無機質に仕事をするだけの人間だ。
この依頼では生き続けろというが、実際に俺がいつ死ぬかは分からないものだ。
美槻には悪いが、コイツを殺した後に俺も殺される可能性を選ぼう。
「分かった。しかし依頼内容からして、そう簡単にうまくいくとは言えない。そこは了承してほしい。日本に滞在するリミットまでに遂行出来なかった時は依頼金を全額返金する」
「返金はしなくて良いですよ。付き合ってもらっているから、もとから払うつもりでしたし」
よっぽど稼ぎが良いのだろう。何の抵抗もなく10憶払うという言葉が出てくる。
「今回、俺と接触したのは俺の依頼人と繋がっていたからか?」
「はい。監視の隙を見てネットで知り合い、貴方を紹介してもらった。紹介料も払いました」
俺の事で勝手に金稼ぎしてるのか……まあ、いいが。
「全く接点のない人が殺されるのは別に止めないんだな」
「……僕と同じように、暗殺されるからには何か理由がある。それに僕が口出しする立場もありません。ただ、その殺された人を利用する形になったのは罪悪感が残りますが」
結局は、自分の事が可愛いんだろうな。
死にたがっている割に、身の危険からは避けようとする。
人間とは、そんなものだ。
「了解した。ひとまず護衛兼暗殺者として依頼を受ける」
「ありがとうございます!僕を殺して、僕のいない世界を見てくれる人がいて良かった……」
俺の手を握り、美槻は祈りが通じたかのように感謝して笑っていた。
死ぬことに対して、こんな喜び方をするのか。
死ぬことは怖いくせに。
ならば、俺が死に対する感情を自覚する前に殺してやろう。
どうせ、俺もすぐに殺されるのだから。
誰かが、俺の事を殺してくれるだろうから。